“吃音” の若者たち 夢をかなえるカフェ 「上手に話せないけど」接客に挑戦

広島・三原市にある大学に期間限定のカフェができました。そのカフェでは、注文のときだけでなく、時々、時間が止まることがあります。いったい、どんなカフェなんでしょうか?

カフェのスタッフ
「お待たせしました。えーっと…アイスコーヒーのお客さま? 失礼します。えーっと…、ごゆっくり、…お過ごしください」

三原市の県立広島大学に期間限定でオープンした「注文に時間がかかるカフェ」。スタッフは、接客業に関心がある大学生から高校生までの5人。会場を訪れた人には、いくつかの「お願い」をします。

カフェのスタッフ
「“吃音” でも一生懸命話しています。…話し方をまねしたり、からかわないでください」

カフェのスタッフには全員、“吃音” があります。吃音とは、言いたいことは頭に浮かんでいるのに言葉がなめらかに出てこない発話障害の1つです。

注文に時間がかかるカフェは、そんな吃音がある若者たちが「接客の夢」に挑戦する場所を…と、自らも吃音の悩みを経験した 奥村安莉沙 さんが、全国で開いています。

カフェを企画 奥村安莉沙 さん
「吃音の理解はまだ不足しているので、いじめやからかいで自信を失っている人が多いんです。吃音って言葉は知っていても、どういう症状があって、どういうニーズがあるのかご存じない方もいらっしゃるので、吃音の中身について実際にわたしたちに接していただくことで、より理解を深めていただきたいと思っています」

県立広島大 矢野珠惟 さん
「ホットコーヒーのお客さま? 失礼します。えっと…、お熱いのでお気をつけください。こちらが、えっと…、ミルクですね」

スタッフで、県立広島大学2年の 矢野珠惟 さんです。話し方の不安から接客にチャレンジできなかったという矢野さん…

矢野珠惟 さん
「注文に時間がかかるカフェに来ていただいたんですけど、きょう…、どうして…来られようと思ったんですか?」

カフェを訪れた吃音の当事者がいる家族に自分の思いを伝えました。

矢野珠惟 さん
「障害っていうふうに思わずに、ちょっとしゃべるのが苦手なだけっていう人、運動が苦手とかそういうのと同じジャンルで思ってもらえばいいと思うので」

「すごくしゃべっちゃいました。ぼくは…、えっと、上手にしゃべろうとすることよりも、当事者が上手にしゃべれなくてもいいんだと思ってもらえる環境をつくってほしいというのが一番のぼくの思いなので、それを伝えました」

東広島市の大学生「ななさん」も、カフェを訪れていた親子と話し込んでいました。

少年の母
「息子は吃音があるので、こういう場所に行ったら何か得るものがあるんじゃないかと思って」

大学生 ななさん
「ことばの教室って、あの…、今も行ってる?」

少年
「今も行ってます」

人と話すことが好きだというななさんですが、やはり話し方への不安から接客には挑戦できませんでした。

ななさん
「吃音をどうしても…、人前で自己紹介するときとかにどうしても隠したいみたいな感じをもっていて。でも、それも1つの考え方ではあると思うんですけど、人前で自己紹介するときに最初に自分が吃音だよって…言うのも1つの方法ということをアドバイスっていうか…、しました」

少年
「将来の話とかいっぱいしてくれたので、参考になった」

ななさん
「お勉強、がんばってね。ほどほどに」

カフェは、1回1時間の入れ替え制で2日間の営業…。100人のお客さんを迎えました。主催したスタッフの 矢田賢匠 さんも手ごたえをつかんでいました。

カフェを主催したスタッフ 矢田賢匠 さん
「吃音があっても楽しんでいる人を見て、じゃあ、そういう人たちにどうしたらいいんだろうと思って来てくれているわけなので、自分の伝えたいことが伝わっているのかなと」

来店した人
「ぼくも吃音があって、今、仕事してるんですけど、ちょっと難しくて…。広大病院に訓練に行ってたりするんですけど…」

吃音があるという男性は、カフェのことをYouTubeで知り、来店したそうです。ななさんと学校での体験を語り合っていました。

来店した人
「今だったら吃音がと自分の口から言えるんですけど、そのときは言えなかったので早退したり、逃げていました」

ななさん
「わかります。自分も人前で発表するときとかに、その日は朝から保健室に行ったりとか、学校休んだりとかけっこうしていたのでわかります」

来店した人
「『出席番号の日』とかですよね。なんで出席番号の日に当てるんですかね。将来は飲食店の仕事をしたいですか?」

ななさん
「そうですね、アルバイトで接客業をしてみたいんですけど、やっぱり、お客さん全員が全員、吃音のことを知っているとは…、知っているわけではないと思うので、そうなったときにちょっと…お客さんから自分の、あの…、話し方について変なふうに思われたらいやだなと思って、あんまり接客業には挑戦しきれてないです」

来店した人
「もっとオープンじゃないですけど、自分はずっと隠して、人ともしゃべらなかったんですけど、人としゃべるのが好きなので、もっと自分から広げてもいきたいですし、もっと積極的になりたいなと思いました」

大学生 ななさん
「今まで自分の知り合いで吃音の人がいなかったので、ここで吃音の人と関われて、そんなに…悩む必要はないんだなとか思って…、前向きな気持ちになることができました」

流れる時間はゆっくりですが、訪れた人もスタッフも前向きになれるカフェ…。来店する時には、こんな「お願い」もあります。

「ことばを上手に話せませんが、ほかの人と同じように接してもらえるとうれしいです」

◇ ◇ ◇

小林康秀 キャスター
吃音の人は国内におよそ120万人いるともいわれているんですが、理解が進まないことから学校や就職活動、職場で苦労する経験を話す人も多かったということです。

青山高治 キャスター
アナウンサーの仕事って当然、話す仕事なんですが、それと同じくらい人の話を聞くっていうのも大切な仕事で、吃音について、みなさんの話が聞けて本当によかったと思います。時間はかかっても一生懸命話す姿には、伝えたい思いがあって、しゃべりたい気持ちがあって、みなさんの接客されているときの「お待たせしました」「ごゆっくりお過ごしください」には、とても心がこもっているようにぼくには聞こえました。

コメンテーター 吉宗五十鈴 さん(カフェ「雪月風花 福智院」店主)
小中高と同級生で仲良しだった子に耳の不自由な子がいて、小っちゃいころから同じクラスだったりしたので、ゆっくりしゃべろうとか口をはっきり開けようとか、それでも伝わらなかったら書いて伝えるとか、そういうことが自然にできていたことがあって。知らないと、避けようとか見て見ぬふりをしがちだと思うんですけど、知っていると、どうすればいいかなと寄り添えることもあると思うので、こういう機会が増えると、そういう機会になってくるんじゃないかと思いました。

青山高治 キャスター
そうですね。知ることができて、よかったなと思いました。

中根夕希 キャスター
ゆっくりとした時間は流れているけれども、すごく優しい空気がこのカフェにはあるなと感じました。

小林康秀 キャスター
吃音の人が求める接し方も人それぞれなんだそうで、「話を最後まで聞いてほしい」という人もいれば、「詰まってしまったら、推測して代わりに言ってほしい」という人もいらっしゃるようなんです。吃音の人たちの悩みを解消するためには、「こんなとき、どうすればいい?」という理解が広がることをこういう機会を通して進んでいけばいいなと思います。

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