食材費や光熱費の高騰で業界を取り巻く環境が厳しさを増す中、メニューの工夫などで生徒たちに人気という広島市内の高校の学食を取材しました。
12時40分、広島市立広島商業高校(広島市商)の校舎にチャイムが響きます。
昼食を求め、生徒たちが続々と学食に集まってきました。カウンター前は、あっという間に長蛇の列。
提供されるメニューは、およそ50種類。効率よく対応できるよう生徒たちは4時間目の開始までに食券を購入します。
テイクアウトメニューは、丼ものにきな粉パン・焼きそば・たこ焼きまで…。購入した商品に名前を書いて昼休憩に取りにきます。
広島市商の学食を預かる松永さんは、学食を始めた12年前からテイクアウトも取り入れたそうです。
ぎおん坊 松永秀逸 さん
「仮にグループ3人で、2人が手弁当だったら、食堂には来ない。1人で食堂に食べに来たくはない。教室で食べたいと。それじゃ(教室へ)持って帰れるものをと、テイクアウトを」
テイクアウトした生徒が、手にしたのは…
広島市商の生徒
「照り焼きチキン丼です。揚げギョーザが入っていて、すごくおいしそう」
― 学食自慢を!
「安いし、おいしいし、めちゃくちゃメニューがあるんです。これ、290円でとっても安くて」
― もし学食がなくなったら?
「親が困ります。わたしも困ります」
実は先日、高校そろばん日本一の生徒を取材した際、「市商の自慢できるところは?」という問いに「食堂がとってもおいしいところ」という回答をもらっていました。
食堂にいました。この夏、高校そろばん日本一に輝いた 紙野聡実 さんです。
広島市商 珠算部(3年) 紙野聡実 部長
「とにかく味がおいしいのはあるんですけど、週替わりでランチも丼もあって。それだけじゃなくて、例えば夏とか冬限定のメニューっていうのが市商高校にはあって。今だったら、つけ麺をやっているんですけど、そういうふうに飽きがこないっていうのが魅力だと思います」
生徒に人気の理由は、▽メニューの多さと、▽とにかくおいしいからだそうです。
珠算部 紙野聡実 部長
「ちょっと前に値上がりしたんですけど、この値段(かつ丼370円)なので。量も比較的多くて、このご飯を食べるために授業、がんばれているところがありますね」
日本一のパワーの源は、この学食にもあったようです。
値上げには生徒たちも理解を示します。ふだんは弁当という生徒は…
生徒
「ふだんは弁当を食べるんですが、たまにぜいたくしたいときは食堂に」
― もし学食がなくなったら?
「うちの学校の大半がたぶん、この先、生きていけない」
記者もそのおいしさを味わってみることに…
藤森憲也 記者
「先生に勧めていただきました『チキンカツカレー』です。いただきます。おいしいです。これでなんと値段は360円だそうです」
学食を運営する松永さんは、市商の卒業生です。もともと市内で飲食店を経営していましたが、学校側から声がかかり、引き受けました。味にこだわる松永さん。母校の後輩たちのため、自らが厨房に立ちます。
ぎおん坊 松永秀逸 さん
「40分で食べさせて、教室に帰らせないといけない。時間かけると、なんぼでも手間をかけることができるけど」
時間との勝負の中、メニュー作りにもこだわります。生徒が飽きないよう、コンビニに負けてはいられません。
ぎおん坊 松永秀逸 さん
「コンビニがあれだけのものを出すので、やっぱりある程度、種類をいろんなものを出してやらんと。お客さんですからね、学生でもやっぱり」
それでも、食材の値上がり・人件費の高騰など取り巻く環境は厳しいといいます。
ぎおん坊 松永秀逸 さん
「正直言って、たいへんですよ。むちゃくちゃ上がっていますから。なかなか値上げはできない状態です」
高校の食事提供を突然、停止した「ホーユー」については…
ぎおん坊 松永秀逸 さん
「あすは我が身だと思いますよ、どこも。ホーユーさんだけではなく、たいへんなところはいっぱいあると思いますよ。どっちかが泣いている。お客さんがよかったら、事業主が泣いているし。ウィンウィンの関係はなかなかない」
広島市商の場合、「学食は何としても守りたい」というスタンスで、PTAも「学食が続くよう協力する」と申し出ているそうです。
広島市立広島商業高校 原紺勇一 校長
「全ての生徒にPTAの援助で1回は食堂を利用してもらうキャンペーンを毎年、やっている。なかなか環境としては厳しいんですけれども、やっぱり安定して食を心配せず、学校生活が送れるという点で食堂のような仕組みが継続できていけばいいかなと思っております」
松永さんは、学校・PTAのサポートを受けながら後輩たちのため、「おいしい学食」を続けていくつもりです。
◇ ◇ ◇
青山高治 キャスター
広島市商のみなさんの話しぶりから、どれだけ自慢の学食か、愛されているかというのが伝わります。でも、本当に松永さんの努力だけじゃなくて、学校・PTAとみんなで連携・サポートがないと、やっぱり現場の厳しさというのはありますね。
河村綾奈 キャスター
それぞれのメニューの価格を見ると、この物価高の中でいかに工夫されているか、よくわかるなと思いました。ただ、そこに甘えることなく、続けていくためのなんらかの対策・工夫が必要なんだろうと思います。
中根夕希 キャスター
生徒のみなさんのおよそ3割が利用していたり、先生がたにもかなり人気なようで、学校を離任するときに「あそこの学食がもう食べられない」という先生も…
青山高治 キャスター
ああ、「市商から離れるとあの学食の味が…」と。それくらい、人気なんですね。
中根夕希 キャスター
この学食は、昼休憩40分のみ営業していて、土・日、春・夏・冬休みは休業しているということなんですけども、営業収益やパートさんなど人材採用面から見ても非常に厳しいと松永さんは話しています。
広島市商の「学食利用キャンペーン」は年に1回ありまして、PTA会費で負担して生徒たちが無料で学食を利用できるようにしています。厳しい環境ですが、おいしさで生徒からの人気を維持する松永さんの企業努力、そして学校や保護者(PTA)のサポートがあってこそだということです。