理事長は声を荒らげ「分かりましたよ 書きますよ」なのに…廃園へ踏み出さないこども園への憤り【「消えぬ、濁り」③バス置き去り死から1年】 

2022年9月5日、静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で、河本千奈ちゃん(当時3歳)が通園バスの中に置き去りにされ、重度の熱中症で死亡しました。突然奪われた小さな命。千奈ちゃんの父親(39)は、事件から1年を前にした2023年8月、報道陣の取材に答えました。その一問一答を公開します。

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千奈ちゃんの事件をきっかけに、国は置き去りを防止するために送迎バスへの安全装置の設置を義務付けました。千奈ちゃんの父親は「行政を動かすために千奈が生まれたわけではない」という思いを抱えつつも、現場の声を聞いてこどもたちが安全に過ごせる環境づくりを願っています。

国が変わりつつある一方で、変わらないのが、こども園や園を運営する法人との関係です。愛するわが子をどうして失わなければならなかったのか。父親の責任追及は続いています。
<全3回(#1/#2/#3)のうちの第3回>

Q.事件をきっかけに安全装置など国を動かしたがどのように受け止めている?
安全装置義務化とかありましたけれども、国がね、推進して、つけなさいというものが、期限がやはり来年とかあって、もう今年の夏が来る前に設置した園もあれば、いま、わたしたちはしっかりしてる、やってるから大丈夫っていうことで、長期の夏休みとか冬休みとか、園児がいない時につけたり、または設置期限ギリギリの来年までに、つけたりっていう、園がバラバラだと思うので、それぞれなので、本当に、また起きてはいけないとは思いますし、本当に全員が必要としてるのかっていうのも、まだ疑問がありますし、わたしたちの園は安心だとか、関心があまりないような園に対しては、なかなか自分たちで見抜くっていうのは難しいと思うので、第三者が、例えば、監査をする制度があったりとか、県がいままでもやってましたけれども、とても緩いというか、形だけの監査になってるっていうのは感じていました。

■園が時代についていけていない

Q.2021年の福岡の事故以降、県はマニュアルなど厚生労働省からの通知を把握していた?
そういうのがチェックがなかったみたいなんですね。で、それに関して、わたしたちは、なぜですかっていうことを県の方に質問したんですけれども、職員の方に質問したんですけれども、なんですかね、うん、必須の質問事項の中に含まれていないとか、そこまで、手が回らないとか、そういったような回答もあったので、そういった、何か第三者が見抜けるような仕組みとか、そういうのも必要なのかなとは思います。

または、1つの法人が複数の園を運営している場合はその園との違いがないかなとか、例えば、川崎幼稚園は静波保育園とほとんど、職員同士であんまり交流がなかったようで、静波保育園ではできてるけれども、川崎(幼稚園)ではできてないとか、そういったのもあったようなので、なぜ同じ法人が運営してルールが統一されていないんだと、そういったものもありますね。ありがとうございます。

Q.川崎幼稚園について河本さんが考える、置き去りが起こってしまった原因となる風土や制度はある?
はい、そうですね。川崎幼稚園は60年ほど運営をしているみたいなんですけれども、時代に、ついていけてないのかなっていうものがありますね。例えば、マニュアルがないっていうのは普通の会社でも信じられませんし。登園アプリとかも、最新のものを入れたところまではいいかもしれませんけども、使い方が違っていたりとか。 あとは、県の特別監査で、誰がどの時間に連絡するっていう決まりがなかったりとかで、なぜそういうことが、普通の働いている人の感覚だと普通にあると思うんですけど、なぜそれがわからなかったのかなって。追及していくと、川崎幼稚園だけしか知らない保育士の方がいるんですね。あの、ほかで働いたことがないとか、ほかの園の現状を知らないとか、それ以外の職についたことがないとか、それが当たり前になってしまっている、当たり前と感じてしまっているっていう職員ができあがってしまった。それを教育する立場の管理職の人たちが、正直いって、無能だった。それに尽きるかなと思います。

Q今後、同じような事故が2度と起きないように、どういったことに取り組んでいけばいいと思っている?
わたしは、保育のプロではないので、本当に、現場がわかる方々がアイデアを出し合って、した方がいいんじゃないかとか、自分たちよりもすごい、なんていうんすかね、画期的なシステムとかを取り入れてる園がほかにないかっていう、追求をどんどんしてったり、そういうのが大事かなと思います。 で、よくSNSでも、やり取りの中で、「かといって、現場はものすごく大変で、そういう学習とかに、ああ、当てる時間さえもないんだよ」とそういうのがあるとは思うんですけれども、それは本当に、国が動いて、職員の配置、人数とかを見直したりとか、しっかりと、なんていうんですかね、フレッシュな気持ちで職員が働ける環境っていうのを作っていくのが大事かなと思います。 ちょっと話が飛んでしまうかもしれませんけども、静岡で例えば虐待のような報道がありましたけれども、やはり、働いている職員が気持ちがすさんだりっていうか、病んだりしていくと、やっぱり当たる対象っていうのは、同じ職員とかそういう人たちよりも何も抵抗力がない子どもに行くと思うんですね。 だけど、だから職員たちがしっかりと、本当に当たり前のことでいいんですけども、休憩が取れるとか、有給が取れるとか、しっかりとものを、意見をいえる、風通しのよさとか、だったりとか、本当に当たり前な環境になればいいのかなとは思います。

あとは、必要であれば、本当に、命を預かるっていう仕事で、お医者さんとはちょっと違うかもしれませんけども、命を預かる、子どもの命を預かる、育てるっていう部分ではすごく重要な職業だとは思うので、優秀な人を囲い込めるような給与体制だったりとか、そういうのも考え直す必要があるのかなとは素人ながらに感じております。

■最後にこの風景を見ていたのか

Q事故から1年の9月5日はどのように過ごされる?
平日になるので、9月3日に親族だけで、一周忌ということで、執り行おうとは思っています。また、9月5日はそうですね、駐車場に行って献花させていただこうかなとは考えています。

Qその時、どのようなことを考える?
そうですね、駐車場にはもう事件後の、亡くなったのが月曜日だったんで、毎週月曜日と月命日の5日には必ず行っていて、その時には、本当に、ごめんなさいということと、自分がやれることはやっていくからねという気持ちがあるのと、あとは、その、そうですね、毎回かける言葉ではないんですけども、そこに立つと、最後にバスの中で千奈がこの風景を見ていたのかなと。そうですね、それをいつもこの家族で、目に焼きつけてはいますね。 今年の3月以降、みなさんが力を貸してくださって、自宅で取材に答えていたんですけれども、やはり、わたしたち家族への負担も大きいんですね。来ていただいた方は、わかるかもしれないんですけど、ある程度きれいにはできているんですけれども、それってみなさんが来るからなんですね。

実際の遺族の生活というのは、やはり普段の生活のことが手につかない部分があったりして、心も、家の中もぐちゃぐちゃになることがあるので、そういったのを精神がちょっと、疲れている状態で、週に2、3度、続けていくのが、ちょっと、しんどくなってしまったっていうのもありますし。 あとは、あの、すいません、次女が成長をしっかりとしてくれて、いままでは抱っこしているだけで、静かに取材ができていた部分はあるかもしれないんですけども、なんですかね、いろいろ、声を出したりとか、動き回ったりってことで、なかなか、カメラとかに興味を持って、いたずらしちゃう部分があるので、大変かなっていうのと、じゃあ、他の別室とか、外に妻と次女、取材が終わるまで出かけていてっていうのも、妻への負担も大きいと思ったので、一斉にみなさんの前で応じれば、いいのかなと判断して、こういう形(記者クラブでの会見)で進めさせていただきました。

■濁りが沈殿したまま、ずっと消えることはない

Q最近のご体調は?
そうですね、えっと、なんていうんですかね、浮き沈みがやっぱりあります。少し前までは、自分でも、泣く回数とか、ちょっと、感情的になる部分が少なくなってきていたので、自分でも、安定してきているのかなって思う部分もあったんですけども、なんていうんすかね、9月5日に近づいたりとかなってくると、やはり、少し、感情が動かされる部分があったりとか、あとは、ちょっと事件直後からあるのが、睡眠が長く取れることが少なくなりました。ほとんどそうですね、3時間とかの睡眠を分割してじゃないと、長く寝れないとか、そういうのはあります。 薬とかも服用しているんですけども、事件直後から、その、服用してるんですけども、なかなかそれでも難しい部分があるので。体調っていうのが安定しない部分があると思います。さきほどもちょっといいましたけれども、妻の方が本当にダメージが大きくて、被害反応っていうかとか、悲観的になる部分とか、孤独感とか、そういうのはあると思います。で、わたしも夫ですけれども、やはり、自分の力が足りない部分もあってですかね、わたしの言葉だけでは回復できないようなこともありますね。 最近、あの本を、寝れないので、読むことが多くなったんですけども、その中で、本を最近読んだ中であったたとえで、水が入っているコップがあって、そこで、事件、事故で、被害的な感情が、濁りとして、浮き上がっている状態だとしたら、1年、2年とか、時間を置くと、その濁りが沈殿するので、上の部分はきれいに感じるんですね。だけど、その濁りってのは、沈殿したまま、ずっと消えることはないんですね。事件のこととか、記念日とか、何か、感情が揺すぶられることがあると、そのコップが揺すぶられて、沈殿物がまた浮き上がると。そしたらまた同じような、事件直後のような状態になってしまうと。 それがすごく自分の中でしっくりきて、遺族の感情と、すごい、わかりやすい例えだなと思って、わたしたちもそのような状態ですね。よくなったと思えば、また悪くなって、その繰り返しで、ずっと濁りが消えることはないのかなと感じています。

Q.2023年9月4日に園関係者との面談があるとのことでしたが、どのようなことを訴えたいですか?
本当にいつも同じ質問になってしまうんですけど、「相手はいまどう思っているのか」っていうのを聞きたいですね。事件の素人ながら、捜査のまねごとのようなことになりますけど、事件がどうやって起こったかっていうのは、ある程度僕たちは聞き終えたと思っているので。あとは、「あなたたちは、じゃあ責任をどうしますか」と。「いままで通り再園して、それで終わりにしますか」と。「市と書面でサインもして契約した約束も反故にしますか」と。それを毎回、聞いていますね。今回も聞こうと思っています。

■「分かりましたよ、書きますよ」

Q.園側から廃園について方針を変えたというような具体的な説明はありますか?
当初は「廃園にします」と、現理事長の息子も「わたしも、もう廃園を覚悟しています。辞職する覚悟でいます」っていうことを、(2022年)9月6日に遺族の前で伝えているんですね。それが、「いや、在園児がいるのでできませんよ」と。「後任がいないのでやめることはできませんよ」と変えているのは、言っていることが矛盾しているのかなと。 (2022年)9月6日の会見の時には、園側から「わたしたちが強制的に念書を書かせた」とか「約束をさせた」とか、そういったように感じ取れる言い分もありましたけれども、わたしたちはその時に携帯のボイスレコーダーの機能でしっかりと声を録音していて。それは相手方も分かっている状況の中で録音していました。 で、そのやり取りの中で、自分たちが「いまの気持ちを書いてください」と。「廃園には反対するとか、そういった方がいたら何も書かずに帰ってくれても構いません」と。ですけども、千奈の司法解剖が終わって帰ってきた姿を見て「あなたたちの今後の気持ちとか、今後どうしていきたいかって行動を示してください」ってことを伝えたら、ほとんどの方が「廃園にします」と。「廃園を願います」とか「廃園をします」とか、「辞職をします」とか、そういうことを言っていたので。矛盾してるなと。

で、ほとんどの方っていいましたけど、当初、元園長の増田立義は…あの人の当初の第一筆の気持ちは、千奈に対して「苦しかったろうな、暑かったろうな、ごめんね、千奈ちゃん」っていう言葉を書いたんですね。それに対して、わたしたちがその、「感情ではないんだ、今後どうするかを書いてほしい」ということで、「これがあなたの気持ちですか。他の方はこう書いているけど、あなたの気持ちはこれでいいんですね?」ってことをいったら…まあ、表現があれか分からないですけど、逆ギレするような形で「分かりましたよ、書きますよ」と少し声を荒らげて、「廃園にいたします」としっかりと書いているので、それを守ってほしいなと思います。

Q.榛原学園は廃園への積極的な行動が見られないように思いますが、どういった印象をうけていますか?
印象っていうか、そうですよね。すいません、どこの社かちょっと忘れてしまいましたけど、向こう側の弁護士の回答で、「保育を契約期間まで続けていくのが義務だ」っていういい方をしていたんで。だったら、なぜ初めにサインをしたんですか。申し訳ないっていう気持ちがあったり、市に対する罪悪感だったり、保護者や園児に対する罪悪感があったから、そうやってサインをしたんでしょ。 それが(2022年の)11月とか12月とか、事件が報道されなくなって風化していくタイミングで答えているっていうのは、当初から意図的に考えていた向こう側のシナリオなのかなと思いますし、わたしたちに対しても、向こうの弁護士の知恵なのか、いまの理事長の知恵なのかわかりませんけれども…。うまく…約束を守らないっていうか、自分たちの都合のいいように進めているんだなっていうのは感じております。

Q.河本さんとして、定期的に園とお会いしている中で、このタイミングで少し相手側の態度が変わったなっていうのはありますか?
えっと、面談をする中での対応が変わったっていうのは、今年の6月くらいからです。それは、みなさんが力を貸してくれて、各社の報道とか紙面に載ったりとか、そういったのがあったかなと。あとはわたしのSNSを相手方も見ているみたいなので。何かまずいなって思ったのかは分からないですけど、あまり下手なことはいうなっていうのを弁護士から止められてるのかなとは思いますね。重要なことに関してはもう答えなくなりましたね。

Q.そういう状況ならば、「ここに弁護士を同席させてくれ」というか、いまのところ基本、弁護士は電話とかを通じてのやり取りだっていうお話だったと思うんですけど、「弁護士に聞いてくれっていうんだったら(面談の場に)弁護士置いてくれ」みたいなことを要望されたりとかは?
あ、それはないですね。まず弁護士っていうのは、やはり法律とか言葉のプロだと思いますので、わたしみたいな素人だと叶わないところがあったりとか。すごくプレッシャーを与えてくる部分っていうのはあると思いますので。そしたら、わたしたちも、いま一緒にパートナーでやってくださる2人の弁護士に同席してくださいとか、またちょっと違った部分が出てきてしまうと思うので。 で、じゃあ弁護士に聞いてくださいって言われて、僕は行動していないわけではなくて。じゃあ弁護士に聞くんで、電話をくださいっていうことで、いままでも相手側の弁護士とやり取りをしていました。相手側の主張としては「廃園にするっていう念書は書いたかもしれないけど効力ないよね」っていってきたりとか。 そうですね。あとは「SNSで発信をやめてくれ」ってことはよく言ってきますね。この前も別にわたしが連絡取ったわけではなく、相手側から連絡が来て「ツイッターに載せるのはやめなさい」といわれたので。じゃあ「わたしがあなたたちに何か法律に関わることをいいましたか」と。「あなたたちが止める権利がありますか」って聞いたら、「特にはない」ってことをいったんで、「じゃあわたしもやめません」と断りました。先月か。先々月か。ツイッターを見れば詳しい日付は分かると思うんですけども、何度かそういうやりとりはあります。 <全3回(#1/#2/#3)のうちの第3回>

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