「なんで自分たちの子どもが他人に殺されないといけないのか」父親がSNSで声を上げ続ける理由【「消えぬ、濁り」②バス置き去り死から1年】 

2022年9月5日、静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で、河本千奈ちゃん(当時3歳)が通園バスの中に置き去りにされ、重度の熱中症で死亡しました。突然、奪われた小さな命。千奈ちゃんの父親(39)は、事件から1年を前にした2023年8月、報道陣の取材に答えました。その一問一答を公開します。

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父親は日々、こども園への疑問などをSNSで発信しています。ユーザーネームは、千奈ちゃんの戒名「姫心童女」。募る千奈ちゃんへの想いと園や行政などへの責任追及。SNSでは心ない言葉をかけられることもあるといいますが、それでも声を上げ続けているのには、理由がありました。
<全3回(#1/#2/#3)のうちの第2回>

Q.園との面談はどのくらいの頻度でどのように行っているんでしょうか?
1番はじめは、自分の方が会いたくなかったんですね。ですけれども、園が「もう再園をします」っていうことを強制的にわたしたちに伝えてきて、どんどん話を進めていったりとか、約束と違うことをしているので、連絡を取ろうとしたんですけれども、なかなか連絡が取れなくて、そういうことに対して、わたしが怒ったんですね。そして、やっと10月に初めて面談ができて、自宅に来てもらって、月に1回くらいのペースでいま、進めていますけども。

僕たちの都合もあるかもしれませんけれども、例えば、相手がちょっとコロナにかかって、体調が悪いとか、用事があるとか、私用があるっていったことで、来れないといって、できない月もありました。まあ、わたしも「体調が良い人だけで来たらどうですか」と提案しても、理由は分かりませんが、難しいようで来てくれないっていう月も何度かありました。

園が繰り返す「やめられない」

内容については、わたしたちが廃園に関しての約束とか、市との約束は守られるのか、辞職はするのですか、ということを聞いていたんですけども。初めの頃は「在園児がいなくなるまでは続けさせてください」とか「後任者ができたらもう辞める」とか、現理事長の息子は「もういつでも辞める気はあるんだけれども、後任者がいないからやめられない」っていうふうにいっていたんですけども、今年の6月くらいから、もう一切、そういうことに関しては答えずに、「弁護士に聞いてください」と放り投げられるような回答が多くなっていますね。 後は、事件当初は、警察の方にいろいろ、捜査状況を聞いたりしても、やはりこう、遺族であっても伝えることができない情報がほとんどであって、そういったことを何年かかるかわからない裁判を終わりまで待っていることが耐えられなくて、自分たちで直接、園の状況の聞き取りをしたりとか、チェック体制がどうだったとか、事件当日の加害者たちの動きというか、どういった行動をしたのかとか、そういったのをすべてこう、警察の方の捜査のまねごとみたいになるかもしれないですけど、素人ながらにやって自分たちが深く掘り下げていったというか、そういう質問をしました。

Q.園側はどなたが来られていた?
基本的には7人です。元園長、乗務員、当時の乗務員、元担任、元副担任の書類送検された4人とそれに加えて元副園長、息子である現理事長、それと現園長です。その7名。相手側の弁護士はいないです。弁護士とは、電話などで数回やり取りはしています。

Q.「安全装置をつけるために千奈は生まれてきたわけじゃない」と繰り返しおっしゃっていることは重々承知していますが、同じような事件を繰り返さないために、行政や報道機関などに対する要望はありますか?
安全装置義務化は当然、よいことだと思うんですね。ですけれども、どういったようにしてほしいとかいうのは、当たり前のように、どの園もチェック体制をしっかりと行うべきであるとは思いますし、わたしは保育に関して素人ですので、実際に働いている方が、意見をいえるような立場ではあまりないと思っているんですね。 こうしろ、ああしろっていっても、やはり現場で働く人たちが、本当に必要なものが何かとか、中には安全装置義務化ってなっても「安全装置なくても、わたしたちはしっかりやっているよ、できているよ」っていう園に対して、今回、強制的に全国の園につけられたというのは、普段から一生懸命やっている保育士の方にとっては、すごくこう、国から「お前たちはしっかりできないかもしれないからやれ」って強制的にいわれているって感じる部分もあると思うんですね。 もちろんこう、人間ですから、ミスがあるので必要だとは思うんですけど、現場の声を聞いていただいて、わたしたち遺族というよりも、現場の声の方にそってどうやっていくかとか、いろんなアイデアを出し合ってもらって進めていってもらえればなと思います。 記者の方々に関しては、夏になって、こういう時期になりますと、先日も、園ではないですけど、似たような事故もありましたし、注意勧告っていうか、そういうのをして、1人でも防ぐことができたらありがたいなとは思っています。

Q.各地で置き去りは置き続けていますが、どのように考えていらっしゃいますか?
国から通知がいってもできない園があったり、「自分たちは大丈夫」っていう他人事というのがどうしてもあるのかなと。実際に起こってみないと動けないっていう、人間のね、本質があるのかわからないですけど、そういうのがあるのかなと思っています。やっぱり、遺族のみなさんは「わたしたちの子どもで最後にしてほしい」とか、やっぱりこう、建前ではそういうことをいうと思うと思うんですけど、本音では「なんで、自分たちの子供が他人に殺されないといけないんだろう」とか、どう納得したらいいのか、わからない気持ちでずっと過ごされているっていうのが本音だと思うんで。そういったことを、命を預かるっていう仕事をするんであれば、しっかりとやってほしいと思います。

「風化させたくない」でも…相反する気持ち

Q.次女は千奈ちゃんに対してどのように接していますか?
次女は、千奈のこう、遺影とかを自分が抱きかかえて、遺影に近づけると必ず、笑顔で、千奈に対して、笑っている遺影に返すように笑顔になるので、何かそういうのを見て、遺影ではなくて、実際にこう、姉妹で遊んだりしている姿を見たかったなっていうのは思いますね。次女はまだ、何もわからないと思うんで、もし、ちっちゃい頃にお世話をしてくれた、なんとなく、感覚がいまあるんだったらうれしいなと思っています。いま、1歳です。

Q.ツイッターをやられていて、誹謗中傷の経験はありますか?
誹謗中傷の経験はありますし、基本的に流せることがほとんどですけど、中には、何度いったりとか、しつこくいってきたり、我慢を超えるようなものがあるので、そうですね、そういうものは考えさせられることがありますね。

Q.そういった誹謗中傷についてどのように対応していきたいですか?
そういった回答は弁護士さん、答えてもらっていいですか。 弁護士:そういった誹謗中傷については、適切に対処していきたいと思っています。

Q.ツイッターで傷つくようなこともありましたか?
ある程度、予想はできていたが、そうですね、中には思ってもいないところから面を食らうような「何が悪かったのかな」ってこう、ちょっと考えるような、人は共感できない部分とか、自分の言葉に対してちょっと嫌悪感を抱かれる方もいらっしゃるので、しょうがないなと思う部分はありますが、仕方ないと思う部分はありますが、先ほど弁護士がいってくださったように、ちょっと限度を超えるものは、こちらも対応していかないといけないのかなとは思います。それはわたしだけではなくて、やはり妻も同じように感じてしまうので。妻とわたしは心の強さや回復具合も違いますので、ひどく続くようだったり、傷つけられた場合には、行動を起こしていくかもしれないです。

Q.千奈ちゃんの存在の大きさというのはどのような時に感じますか?
記念日とか。例えば、記憶に残っている一緒に出かけた時とか、同じくらいの年齢の子を見たりとか。本当に、いま、地元から離れているわけではないので、いろんな場面で、こう、千奈を思い出すことが多いですね。毎日のようにやっぱり考えています。お風呂に入っていても、ご飯食べていても、「千奈にこうやってご飯あげていたな」とか、「最近は1人でお箸を使ってしっかり食べれてたな」とか、そういうようなことを考えたりとかしていますね。

Q.風化されていくことに対する心配や恐怖は感じることはありますか?
そうですね、ちょっと矛盾してしまうかもしれないんですけど、なぜ「風化させたくない」っていう思いがあるかといいますと、約束を反故にされたっていうことに対して、世間に訴えたい部分があって、他人の憶測で報道されたりとか、そういうことではなくて、実際に加害者と私たち被害者がやりとりした中で「こういうやり取りがあるんだよ」と。「みなさん、これに対してどう思いますか。私は廃園を求めています」っていうことを発信して、風化させたくないなっていう気持ちと、あとは、いつまでたっても自分たちが被害者として見られ続けるっていうのは辛い部分があるので、静かに前の生活のように、こう、普通に暮らしていきたいなっていう思いもあります。

「犠牲の上に…」はとても失礼

Q.怒りの矛先は園や榛原学園だと思いますが、静岡県や牧之原市など行政に対する怒りはありますか?
県に関しては、県の職員の方も何度かうちに来ていただいたことがあるんですけれども、例えば、県知事の発言の中で、昨年の『水』という言葉に関連づけて、うちの娘が「体内から水分が全部なくなって亡くなった」っていったような表現をされたりとか(※注=川勝平太知事が2022年12月の会見で、記者から今年の漢字を問われ「水」と答えた中で、事件に触れ『いたいけな子供さんが熱気の中で、ある意味、水分を全部体内から吸収されてお亡くなりになりました。それもある意味で広い意味で水に関係している』と発言、その後、謝罪)そういったことは、すごくこう、なぜそういうことをいってしまうのかなっていう怒りもありますし。 署名活動を行って、廃園っていう動きにできるかという問い合わせもしたりしたんですけれども、それに関しては、なかなか私立の法人っていうことで難しい部分があるようですし、そういったこう、部分というか、そういうやり取りはしている。 市に関してはこの事件の翌日に、私たちは特に呼んではいないんですけれども、市長ほか2名の方が夜中、自宅に来て、「委託保育園のサインをさせた」とわたしたちに紙も見せていっていたので、それがいま動けないっていうのは、何かこう、やり方に不備があったりとか、契約内容に漏れがあったりとか、いう部分があるのかなっていうのは、ちょっとうまくいってないんじゃないかっていう部分はありますね。 例えば、書類に関しても、契約ですね、市と榛原学園の契約に関しても、他の市の同じような内容をなぞって作った契約書もあるみたいで、それに関しては、例えば委託したけど、やはり不備があったようなので、それに関しては、もう少しいろんなことを想定して作るべきだったんじゃないかなって思うことはあります。

Q2021年の福岡県の事故の際に国が動いていれば、千奈ちゃんは亡くならなかったという思いはありますか?
少しこう、国に対してではなくて、例えば、2021年の遺族の方だったり、2007年にも同じような事件があって、同じ遺族の方に「その子が犠牲になった後に対策をしてくれたら私たちの子どもは助かった」っていうのは、その人たちにとってもすごい失礼だと思うし、いえない部分がありますよね。 で、やっぱりこう、ルールとか、法律ってものは、不備がないように作ったと思っても、どこかで不備が出てきたりとか、それでこう、対応していくことが仕事でもそうですけど、当たり前だと思うんですけど、それが誰かの犠牲の上で法律とかが動いているんだな、改正されているんだなっていうのは強く感じましたね。 いままではニュースなどで、例えば、あおり運転とか、そういうものも大きな被害が出てから、誰かが犠牲になってから、法が改正されたりとか、ルールが厳罰化されたりとかしますけれども、そうですね、やはりこう、その時は自分たちも、他人事としてニュースを見ていた部分もありますので難しいですね。 ちょっとこう、難しいですね、いいづらいといいますか、自分の語彙力が足りなくて、うまく伝わらないかもしれないですけど、そうですね、こう、娘が犠牲になって、安全装置義務化になってという動きで、そういったこう、誰かの犠牲の上で、いままでも普通に生活が成り立ってたんだなとあったんだなと、実感しましたね、はい。

「無念は晴らせたら」

Q.いま、望んでいることは園の廃園や法人が変わることだと思いますが、その要望に対して現時点で園から明確な回答はあるんでしょうか?
ないですね。当初は、「在園児がいるまでは」とかいいますけれども、今年には新しい園児を募集して入れていましたし、「在園児がいる以上は続けるのが法人の役目」ということも向こうの弁護士は答えていますので、いつまで経っても約束は叶わないですよね。結局は、反故にされたのと同じような流れにもっていかされたのかなということを感じているし、そうですね、そういうのがいまあります、はい。

Q.お父様が思いを発信している一方で、園が報道機関に対して説明をしていない姿勢についてどのように考えていらっしゃる?
説明義務はあると思いますので、そうですね、例えば、その安全装置義務化っていうのも、すべての園の負担で、補助金とかもありますけれども、その補助金も税金からなのか、ちょっとわかりませんけれども、そうなったのは、もう榛原学園のせいだと思うんですよね。 それに対して、1番最後の(2022年)9月7日の会見で、廃園になるかもしれないね、で終わって、じゃあ、その後はどうなんだと、廃園にする気がないのかあるのか、じゃあ廃園にしないんだったらどういう理由があるのか、私たち遺族とのやり取りであなたたちはどう思っているんだと、そういうことは聞きたいと思いますし、子どもがいる親にとっては通園バスは怖いなっていう感じを与えたりとか、うちの保育園とか、幼稚園の登園はどうなってるんだろうとか、不安を煽った部分っていうのはこの事件であると思うので、そういったことに対しての謝罪とか、そういうのは必要なのかなと思います。

また、あの牧之原市っていうところで、「牧之原」と検索すると、この事件のことが1番に出てきたりするんですけども、いいところはたくさんある市だと思うんですけれども、田舎ながらに、たくさん、自然が豊かで、いいところはあると思うんですけども、そういったのもすべてイメージを、潰したっていうことも、住んでる人たちにとっても、うん、大きな印象を悪くするダメージになったんじゃないかなと思うので、謝罪が必要だと感じています。(※注=こども園側は9月4日、事件発生から1年になるのを前に、幹事社のみによる代表取材を実施した)

Q.1年経って千奈ちゃんに伝えたい思いは?
本当に、助けてあげられなくてごめんなさいと。事件当日も気づいてあげられなくてごめんなさいと。親として、いまもあの自分の行動が正しいかどうかわかわからないです。無念は晴らせたら、晴らして、報告できればなっていう思いがあります。 <全3回(#1/#2/#3)のうちの第2回>

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