金融機関のシミュレーターでは正しい結果が出ない?NISA・iDeCoで陥りやすい2つの誤解

iDeCoやNISAといった資産形成に有利な制度が登場したことで、投資への関心がとても高まっています。しかし、情報があればあるほど、あれこれ悩んでしまい、行動が起こせない人も少なくありません。

今回は、陥りやすい2つの誤解をご紹介します。


部分最適にこだわりすぎる

NISAは、イギリスの「ISA」を模して日本に導入された制度です。イギリスのISA制度はIndividual Saving Accountの略で、1999年にスタートし広く国民に普及していると言われています。

NISAに並びiDeCo(個人型確定拠出年金)も投資を後押しする仕組みとして知られていますが、こちらはアメリカの401kを模した仕組みです。日本に導入されたのは2001年で、当時は主に企業型が中心でしたが、最近は個人型の普及が顕著となっています。

どちらの制度も、投資によって得た利益が非課税になるという点が共通します。新NISAにおいては、非課税期間に制限はありませんし、iDeCoについては最大75歳まで非課税運用が可能です。

運用益が非課税になるという共通事項がある反面、iDeCoは掛金が全額所得控除になりますが、老後資金専用口座ということもあり、60歳まで資金を下ろすことができない、掛金上限が働き方などで異なる、始める時・続ける時に手数料がかかる、といった特徴があります。

一方、NISAは掛金に対する所得控除はないものの投資可能な枠も大きく、いつでも解約が可能、手数料面でも有利といった点の評価が高いようです。さらに新NISAになると、売却した分は新たな投資枠として再生されるため、さまざまな資金用途に対応することができます。

資産形成を考える場合、NISAもiDeCoいずれも魅力的な制度なのですが、最近これらの制度を解説する情報が多すぎて、悩み過ぎる方が増えているように感じます。

例えばiDeCoは掛金が全額所得控除として認められるので、節税効果が得られるのですが、所得がそもそもない方、あるいは少ない方はメリットがない、と短絡的に結論を出そうとする傾向です。そうかと思えば、NISAで何を買えば儲かり、税制優遇の恩恵を最大限享受できるのか、いつ買い、いつ売るという指南に夢中になったりするのも同様です。

本来iDeCoやNISAが産まれた背景は、人生100年という長い時間を支えるだけの資産形成が必要なのだという警鐘とも言える理由があり、それに取り組むインセンティブとして税制優遇が与えられたのです。

日本人の真面目さ所以だと思いますが、どうも細かいところに注意が向きがちな気がします。iDeCoにいくら拠出すると、いくら税金が戻るのか、といった計算ができるシミュレーターをさまざまな金融機関が提供していますが、実はどれを使っても正しい結果は得られません。

多くのシミュレーションは、ざっくり年収をいれて節税額を出しますが、税金はさまざまな控除を差し引いた後の所得に対してかかるものなので、同じ年収でもiDeCoで得られる税のメリットは異なることがあります。そもそも年末調整でiDeCoの掛金に対する還付を受けたとしても、そのまま給与に交じってしまって知らないまま消費してしまえば、節税も意味がありません。

運用商品も然りで、もちろん同じ指数に連動するインデックスファンドであれば、信託報酬が安いに越したことはありませんが、昨今の運用会社による度を超したコスト競争に振り回されるのも不毛な気もします。

大切なことは「自分の人生設計において、どのように資産形成を位置づけるのか」ということではないでしょうか? その上で、少しでも有利な制度を上手に暮らしに組み入れていくというのが重要です。結論からいうと、iDeCoなのかNISAなのかが問題ではなく、iDeCoもNISAも目的に応じて両方利用するが正解です。

不労所得などあり得ない

一方で、投資を過大評価しすぎる方もいます。これはiDeCoやNISAだけの話ではありませんが、情報を浴びるうちに気持ちが大きくなり、判断を誤っていると言わざるを得ない方もいます。

例えば、インターネット上には投資でとても成功した、大きな富を築いたという方が登場したりします。仮にその情報に嘘がないとしても、それがそのまま自分が再現できるかというと、そんなことはないでしょう。

あるいは、過去の実績がとても良かった投資手法があったから、これであなたもリッチになりますと謳われているものもありますが、未来は誰にも分かりません。あまりにも過大な期待をしてしまうのは、危険だと考えるべきでしょう。

さらに投資によって手に入れた富を「不労所得」と称し、楽してお金が手に入るとアピールすることにも違和感を覚えます。またほったらかしとか、無理のない金額でといった耳障りの良い言葉を連ねているのも、誤解を招く表現ではないかと考えます。

もし無理のない金額として、5,000円の積立を実行したとしましょう。10年続けても投資元本は60万円です。もちろん10年もの間、努力を重ねたということは価値がありますが、残念ながら60万円の投資元本では人生は変わりません。

今iDeCoやNISAで投資をするのは、決して働かなくてもよいくらいお金持ちになるためではありません。インフレにより購買力を失った現金しか手元にない状態を避けるために、経済成長の恩恵を受け購買力を維持するためです。

夢がないと言われるかも知れませんが、豊かな暮らしを手に入れるという夢を実現するためには、具体的にいつまでに、いくらくらいの資産が必要なのかを見積もり、それを手に入れるために、いくつかやるべきことを粛々と実行する必要があります。

基本的には、(1)収入を増やすこと、(2)支出を減らすこと、(3)投資に回すお金を増やすこと、(4)運用利回りを高めることです。この中で、(4)の運用利回りだけは自分の努力だけでは実現しないので、先の3つの項目に力を注ぎます。

(1)の収入を増やすには、働き方を考える必要があります。モチベーションは大切ですから、やりがいのある仕事であることも重要です。スキルを磨くこともマストでしょう。社会保障完備の職場はもちろんのこと、福利厚生が充実していれば生涯賃金も上がります。

(2)の支出を減らすには、まめに無駄を省いて節約を重ねます。やみくもに節約をしては、人生の喜びを見失いますから、自分にとってなにが大切なのかを見定めることも重要です。保険や住宅ローンなど、固定費の削減は非常に効果が高いですが、不勉強のまま取り組んでしまっては失敗します。

また(3)の通り、投資に回すお金はできるだけ増やしていく必要がありますが、将来へ回すお金は、その用途によって元本が割れることがない金融商品で運用する必要もあるので、お金の置き場所は慎重に選びます。

投資をする際、ある程度の期待リターンと想定されるリスクは分かりますから、どうしても積立額が少ない場合は、ハイリスク・ハイリターンの商品を選ぶしかありませんが、積み立てる金額が一定以上ある場合、狙うべきリターンはそこまで高くせず済むので、結果的にリスクを抑えた運用が可能になります。

ライフプランは将来を固定化するために考えるものではなく、変動することを前提に、それでも進む方向性を間違わないように、と立てるものです。そこでは経済的裏付けが必要なので、必然的に資産形成のプランも立てる必要があります。

そして、その資産形成をより効率的に行えるように国が整備してくれた制度がiDeCoとNISAなのです。細かいところにあまりとらわれずに、俯瞰して考えた方が、より良い結果に結びつくのではないかと考えます。

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