市街地から小学校がなくなる?! 尾道市で学校再編計画 公教育とまちづくりを考える

風光明媚な坂の街・尾道でいま、学校の再編計画が議論されています。市が再編を進める理由は、現在の校舎の耐震性の低さや複数学級での充実した教育環境のため。一方、市民からは市の方針に異論の声も上がっています。

市民たち
「商店街に子どもがおらんようなったらどうなる? 寂しいし」
「(学級が)複数になることでコミュニケーションがとれるようになるとか説明されるんですけど正直わからない。納得できない」

前田孝人 尾道市議
「もういい加減にハコモノ建設行政から脱却して…」

尾道市の学校再編計画について、未来の街づくりの観点から考えます。

尾道市の中心部にある、小・中学校の再編計画についてです。

現在示されている尾道市の方針は、2025年度に
▽2つの中学校を統合
▽また市中心部の市街地にある3つの小学校を統合して、市街地から離れた山側にある中学校の校庭に新校舎を建設しようというもの。

これは尾道市の話ですが、学校の統廃合は少子高齢化・過疎化の中でほかの地域にとっても他人事ではありません。公教育はどうあるべきか、「街づくり」はどうあるべきか考えます。

1900年に創立した土堂小学校。現在は仮校舎で授業が行われているため、元々の校舎は使われていません。この1937年築の校舎は、同じく統合予定の久保小学校とともに県内で唯一の「戦前からある鉄筋コンクリート造りの学校」だということです。

歴史ある小学校を統合する理由は…?

土堂小学校と統合が予定されているのは、市内中心部にある久保小学校と長江小学校。統合の理由について尾道市では、(1)現校舎では耐震強度が弱いことや、(2)現在地がレッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)であること、(3)また、現状は多くが1学年1学級の中、統合すれば複数学級ができることで教育環境が充実するとしています。統合した新しい小学校の新校舎は5階建てで、山側にある長江中学校のグラウンドに64億円かけて建設する予定です。

しかし、この方針を疑問視する住民もいます。

市民たち
「学校がコミュニティの中心の場所だから、そこをなくしたらどうにもならん」「商店街っていうのはいろんな業種の集まりですから、観光客ばっかりだとそういうお店ばっかりになっちゃう。それはどうかな?と思う」
「全く市民と対話する姿勢がないんですね。一緒にいいものを作ろうっていう姿勢が感じられないんですよ」

異論を整理すると、ポイントは3つです。
(1)まず、レッドゾーンはいずれも小学校の敷地の一部であること。例えば土堂小学校では、警戒区域となる北側の校舎は使わず、防災工事をすれば安全性が確保できるのでは、という意見です。

(2)次に、小規模校のデメリットが明確でないということ。

市民たち
「世界的な風潮だと、少人数の方が子どもに目が届いて、いいよという中で、教育委員会としては、そういう小規模校のメリットを検討されたんですかって聞いたら、『検討していない』っていうんですよ」
「いろんなカラーの学校が点々とある方が、絶対にいいと思っているので、人数が減ろうが、そのぶん、子どもたちをていねいに見れると思うので、一緒くたにグワッとやって、まとめてしまうのが一番怖い」

中心部から小学校がなくなると…どうなる?

(3)そして、なにより市内中心部から学校をなくすべきではないという点です。

市民たち
「新しい方が入ってこようとするときに、学校に歩いて通えるところに行こうって思うはずなので。(学校をなくすと)長期的には街の活力はどんどん下がっていく」
「例えば尾道市は『歴史的に箱庭で良い街だ』って言ってるのに、そこにあった小学校をのけるって…ブランドを自ら壊すことにもなるし、いったい、どこを目指してるんだろうなって」

8月に開催された「尾道の街づくりを考えるシンポジウム」。長年、尾道の街の活性化に取り組んできた登壇者たちが、「学校」と「街」との関係を口々に語りました。

尾道空き家再生プロジェクト 豊田雅子 代表理事
「街づくりと教育ってすごく大事なので・・・」

アクセ 高垣孝久 社長
「中心市街地から全ての小学校がなくなるという大きな問題に直面している」

内閣府の調査(国土形成計画の推進に関する世論調査2015年)では、子育て世代(30・40代)の6割が、「小・中学校」を「徒歩・自転車で行ける範囲に必要」だと考えています。学校をどこに置くかは、こうした街づくりの視点からも考えるべきというのが2人の指摘です。

「“学校”をどうするか?」≒「どんな街にするか」⁈

アクセ 高垣孝久 社長
「統廃合は、わたしはどちらかと言えば賛成で、ですけれども小学校に関しては、少なくともある程度の距離感の中で考えてほしいし、ふつう、そう考えますよね?」

尾道空き家再生プロジェクト 豊田雅子 代表理事
「旧市街地の街の中心に学び舎がなくなるというのは、本当によろしくなくて、それは断固として反対。わたしたちも空き家の再生をしながら、県外から移住者を呼び込んでいますが、学校のないところに移住者を呼び込むのはすごく難しくて、すごく尾道にとってマイナス。移住促進もしているはずなのに逆行している」

尾道市は、学校再編に必要な条例の改正案と、新校舎の設計費などを盛り込んだ補正予算案を議会に提案していますが、ここでも異論が相次いでいます。

石森啓司 尾道市議
「これ(学校統合)により地域住民の結束力がなくなります。とりわけ土堂地区の地域住民の結束力は強く、尾道市でもリーダー的な地域密着型の学校でした」

尾道市教委 宮本佳宏 教育長
「土堂小学校は安全性に問題があることから、教育員会としては、子どもたちの命を守ることを最優先に考え…」

村井温子 尾道市議
「街づくりとしてのトータルのビジョンが必要だとわたしは思います。だったら今するべきことは、強引に進めることではなく、もう一度、いろんな方を含めて、ひざをつき合わせて話し合う体制を作ることではないでしょうか? 信頼を失った状態でこの先、いい街は作れないと思います」

尾道市教委 宮本佳宏 教育長
「(学校再編の)検討委員会の設置は考えておりません」

尾道市議会での採決は、あす20日。予算案は過半数で、条例改正案は2/3の賛成で可決されます。

3つの小学校の子どもたちは、現在はそれぞれの仮校舎に通っていますが、当初の予定では、仮校舎の使用期限は2024年度いっぱい。尾道市は、まずは2025年4月に統合して、2027年4月に新校舎で授業を始めるとしています。子どもたちがこれからどんな学び舎で過ごすことになるのか、地域の代表として選ばれた大人29人の議員であす、採決されます。

© 株式会社中国放送