「銀座においしい韓国料理屋があるので食べに行こう」
韓国料理好きの友人が連れて行ってくれたのは銀座にある『釜めし大統領』だった。
友人はメニューも見ずに「釜めしとスンドゥブのセット」(1280円/以下、すべて税込)をオーダー。
しばらくすると釜飯やスンドゥブ、サラダ、副菜が運ばれてきた。
スンドゥブのなかには、豆腐、長ネギ、シュンギク、豚肉、アサリ、エノキダケなどが入っていた。
どう見ても辛そう。ヤバイぞ、まじでヤバイ。これは、汗ダラダラ必死では…!?
ところが予想に反して、まったく辛くない。たしかに熱くて汗が出てきたが、辛くないどころか、スープのコクと深みを感じる余裕すらある。
「見るからに辛そうですよね?でも、辛くないでしょ」と笑うのは、店長代理の奥村里美さん。
「タデギと呼ばれる味噌が赤いんです。唐辛子とヤムニョム(調味料)をまぜた自家製のタテギに、厨房でとった牛骨スープを入れてスンドゥブを作ります。このタテギが、牛骨スープや豚肉の油と反応して真っ赤になるんです。」
このスンドゥブを釜飯と一緒に食べるわけだが、この店の釜飯には鶏肉もニンジンもゴボウも入っていない。
「来日30年のオーナー(50代)は日本語の会話も読み書きも達者なんですが、日本人が思う『釜飯』という言葉の意味を誤解していたみたいなんです。」
日本人は釜飯というと、鶏釜飯のような炊き込みご飯を思い浮かべる。けれど「同じ釜の飯を食う」という慣用句があるように、本来釜で炊くご飯が釜飯だった。
この店のオーナーの脳裏には後者の釜のイメージしかなく『釜めし 大統領』と命名したそうだ。
おこげにお茶を注ぎ、ふやかしたものをスンドゥブにいれて食べる
ごはんの量は1膳半程度。圧力鍋タイプの釜はおこげができやすいのか、釜の底におこげご飯がこびりついている。
おこげご飯をきれいに食べてもらうため、ご飯を食べ終えると釜にお茶を注いでくれる。
「お茶を注いだら蓋をして5分お待ちください。お茶でふやけたおこげをスプーンか、しゃもじでこそげ落とし、スンドゥブにいれてお召し上がりください」
「このお茶は、野原や山に自生するドゥングレの根っこを煎じたものです。ドゥングレ茶は美肌効果を期待できると言われていて女性に人気です。韓国には穀物や木の実などを乾燥させたり、炒ったりしたお茶を飲む文化があるとオーナーから聞いています。」
ドゥングレ茶のほか、トウモロコシのヒゲで作ったトウモロコシ茶や、ゴボウ茶なども韓国人は好んで飲んできたそうだ。
スンドゥブもはじめてなら、スンドゥブにおこげご飯をいれて食べるのも初体験。
長年日本人が美徳としてきた「もったいない精神」を韓国料理屋で再認識させてもらった。
「白菜のチヂミ『べチュジョン』(白菜煎:べチュが白菜、ジョンが煎)を召し上がってみませんか?」
具沢山のチヂミではなく、白菜だけのチヂミだそうだ。
小麦粉をつけた白菜の表面をカリカリに焼き上げてあり、サクッと心地よく噛み切れる。若干塩味がついているのでタレも何もいらない。
これほど素朴で、感動的な料理と出会えたのは久しぶりかも。
料理長は有名な韓国家庭料理屋で研さんをつんだオモニだった
どんな人がべチュジョンやスンドゥブを作っているのか気になり、お願いして厨房に案内してもらった。
料理長は来日歴25年のオモニ、高好周(コウ ホジュウ)さん。
韓国でもっとも料理がおいしい地域とされる全羅南道出身。客船の料理長だった父に料理の英才教育をほどこされた。
来日後、赤坂にあった韓国家庭料理店『おんがね どんどんじゅ』で、料理長でもあったママの下で10年働いた。その後、高田馬場の韓国家庭料理店『Mom's food』を7年経営。
2022年2月『釜めし 大統領』のオープンと同時に料理長に就任した。
べチュジョンを作っているところを見せてもらった。
小麦粉をまぶした白菜に水でといた小麦粉をつける。これをフライパンで軽く素焼きした後、油を注ぎ、揚げ焼きにする。
「べチュジョンは法事用の料理として親しまれてきたそうです。結婚式などのお祝いの席には、べチュジョンだけでなく、彩りをそえたジョンを出すとオーナーから聞いています」
高さんが結婚式などで出されるべチュジョンと、ズッキーニジョンを作ってくれた。
ともに塩味がついているので、なにもつけずそのままおいしくいただいた。
高さんはサービス精神旺盛な人で、頼むとメニューにないものも作ってくれるそうだ。べチュジョンとズッキーニジョンはもちろん、結婚式用のこの料理も頼めば作ってくれるかも。
韓国料理屋にあるべきロースターがなぜないのか?
一番気なっていたことを奥村さんに尋ねた。
韓国料理屋なのに、なぜロースターがないのだろう?
「オーナーが焼き肉よりも韓国の家庭料理を食べてほしかったからです。牛肉の焼き肉こそありませんが、焼きながら召し上がっていただく『サムギョプサル』や、『骨付きヤンニョム豚カルビ』など、豚肉料理の用意があります」
1週間後に再訪した。辛いスンドゥブもできると奥村さんに聞いていたからだ。
辛いスンドゥブを頼んだら青唐辛子が浮かんだ、真っ赤なスープを作ってくれた。辛いというよりも身体が熱くなり、汗ダラダラ。
次回は干しタラがはいった「プゴスンドゥブと釜めしのセット」か、「大統領ビビンバ」を頼もうと思っている。
◼︎「釜めし 大統領」
住所:東京都中央区銀座3-8-13銀座三丁目ビルディング 1F
電話:03-6228-6922
営業時間:11:00~15:00、17:00~23:00
定休日:日曜
(うまいめし/ 中島 茂信)