越境EC準備開始! どういう形態で始めるか(その2)

先月は、越境ECを始めるには自社サイトを持つか、ECモールのアカウントを開設して始めるかの2パターンがあることを説明し、自社サイトを持つ場合の話をしました。

今回は、前回の続きで、海外のECモールで始める場合の話をします。

自社サイトはブランドを毀損する?

越境ECを検討している企業と打ち合わせをしていると、ECモールに嫌悪感を持つ方がたまにいます。個人から企業まで、富裕層から貧困層まで雑多な人々が利用するので、そのような中に紛れたくないという考えからだと思います。気持ちは分かりますが、モールを販売ツールの1つとしか捉えていないと陥りがちな考え方です。実はモールを使うのは、売るため、お金を稼ぐためという理由以外の目的があるのです。

1、越境ECは新天地に飛び出していくこと

あなたのことを誰も知らない国に行ったとします。そうするとどうでしょう。他人の目を気にしなくてすむ気楽さがある一方で、あなたの訴えを信じてくれる人に出会うこともなくなります。越境EC=新天地に出ていくとはそういうことです。商売の基本からやり直す必要があります。では、商売の基本とは何でしょう。利益を追求することではありません。“信用”があるかないかです。新天地では信用がないのです。まず、お金を稼ぐ前に信用を稼ぐ方が先になります。また、リピーターもいない状況からのスタートです。リピーターがいれば、予算、在庫など様々な予測が立てられますが、それができず効率が悪くなります。その時に、アリジゴクが巣に落ちてくるアリをひたすら待つように、自社サイトに訪問してくる人を待つよりも、カマキリやトンボのように自らで相手を探しに行く方が早く満足できます。

ECモールなら日に何億人という人が集まってきます。そこへ飛び込んでいって1人でも2人でも早く購入者を獲得しに行き、取引実績を重ねていったほうが信用も早くたまりますし、リピーター候補も見つかります。

2、広告費を押さえられる

ほしい商品を検索エンジンで検索すると、その商品を生産している企業サイトより、楽天やアマゾン・ジャパンに出品されているページのほうが検索上位に上がってくる。こうした経験をした方は多いと思います。こうした現象が起きるのは、ECモールが、中小企業には太刀打ちできない程の大金をかけてプロモーションしているからです。ならば、そんなECモールに出品したほうが広告費の相乗りができてコストが押さえられるとは思いませんか(もちろん結果をもっと早く出したければ、ECモールが提供するプロモーションは利用すべきです)。

このように、ECモールには、お金を稼ぐ、商品を売るという以外の裏目的があるのです。そのため、結果を早く求めるのであればECモール利用は欠かせないのです。

越境ECにはどういったECモールがあるのか

では、ECモールを行うとした場合、どのモールを使えば良いのでしょうか。

まずは、どの地域に狙いを定めるのかによって違ってきます。そして日本から始められるモールであるということも考えておく必要があります。いくら売りたい国や地域のモールがあっても、現地法人がないとアカウントが作れないECモールでは越境ECができないからです。

こうした条件を満たせる地域のECモールとしては、中国、東南アジア、欧米があります。他の地域は個人的に調査していますが、難しいところが多いです。では、日本から近い順番にざっとこれらのECモールの概況をお伝えします。

【中国】

中国人ユーザーは、企業サイトで物を買うという習慣がほとんどなく、「シングル・エントリー・ポイント」と言われる、1つのアカウントで複数企業の商品をカゴに入れられる形式を好みます。つまりECモールです。そのため、中国に向けて越境ECを行うということは、ECモールに進出することと同義と言っても過言ではありません。天猫国際(Tモール)、亰東全球網(ジンドン)、淘宝網(タオバオ)などが有名です。

ただし、中国のECモールは他の地域のECモールと比べるとコストが桁違いに高くなる傾向があります。また、中国人ユーザーが日本製品に求めるジャンルやブランドにも偏りがあり、かつての「爆買い」という言葉の語感から、なんでも貪欲に目についたものは片っ端から買うというような事はありません。中国人に知られていないものは相当苦戦するでしょう。また、近年は日本国内のもので構いませんので、きちんと商標を取っていないものは受け付けてくれないことが増えました。

こう話すと、日本人=日本列島にいる者という、島国ならではの固定観念に囚われている人は、中国人=中国大陸にいる人と考えてしまうので、中国はやめますと言う傾向があります。果たして中国人=中国大陸にいる人なのでしょうか。アメリカ西海岸、カナダ、オーストラリア、東南アジアなどには「中華系◯◯人」という人たちがたくさんいます。国籍こそアメリカでも見た目は私たちと変わらない人もたくさんいます。こうした視野が持てれば中国を諦めても中国人を諦める必要はないはずです。

【東南アジア】

そこで、中華系の方が多く、そしてもちろん現地の人たちもターゲットにできる東南アジアという地域も魅力的です。この地域では、Lazada(ラザダ)やShopee(ショッピー)がしのぎを削っています。ほぼ互角の戦いをしていますので、手数料などを調べて気になった方を選択すると良いでしょう。ただし、近年は発送に対してルールが厳しくなってきており、ECモール指定の方法を使うよう促されたり、受注から発送まで◯日以内といったルールも増えていますので、ドロップシッピングや受注生産型のビジネスモデルでは難しくなってきています。

なお、成長著しい東南アジアといえども、まだまだ物価の差はありますし、東南アジアの小売割合をみると、オフライン:オンラインでは94:6くらい、まだ差がありますので、容易に売れまくっていくといった夢は持たないほうがいいでしょう。

【欧米】

欧米は20年以上前からAmazon(アマゾン)かeBay(イーベイ)かという状況です。市場規模や訪問者数を比較すると、圧倒的にAmazonが大きいので、その分多くの人の目に触れるということでもあり、売れる機会は多いと言えるでしょう。

一方で、eBayは国際取引率がAmazonの2倍という強みがあります。これは売り手と買い手の国籍が一致していない率のことで、eBayは62%、Amazonは33%です。(出典:Amazon vs. eBay: Where should you sell your products? By Perpetua, 2018.11.31)

私たち日本人が日本人に物を売っては越境ECになりません。外国人に買ってもらうには、国際取引率の高い市場のほうが、つまり外国人としての日本人から購入することにためらいのない人の多い市場のほうが、最初の購入者が出てくる確度はeBayのほうが高いと言えます。とは言え、今の時点でも外国人から購入されるような商材の持ち主ならばAmazonで指名買いさせるほうが良いと言えます。このあたりは各社の事情によりますので、しっかり検討しましょう。

以上、ざっとまとめてみました。いずれにしてもスタートダッシュを決めるならモールは欠かせないツールだと考えるべきかと思います。

次回は、越境ECを始めたあと、どのようにしたら自身の存在を知ってもらえるようになるのか、というプロモーションについて書こうと思います。

寄稿者 横川広幸(よこかわ・ひろゆき)ジェイグラブ㈱取締役

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