Vol.252 ニコン「Z f」レビュー。ファーストインプレッションは「羊の皮を被ったオオカミ」。ノスタルジーな見た目に最先端の技術[OnGoing Re:View]

たまにはいいよね。スペックも名前も知らされないでするレビュー。前情報は「ニコンから出る新しいカメラ」ということだけ。噂はなんとなく聞いてはいたけれど、ほぼ前知識なしではじめて触れるカメラに「君は何を撮りたい?」と対話するのはいいものだ。

もしカメラとの対話を先入観なしに楽しみたい場合はこのページをそっと閉じてほしい。それが楽しめるカメラだ。

※仕様など情報を入手していない状態で実機レビューをしたので、最初に感じた率直な感想を書いています。公開前に正式に発表された情報とは一応擦り合わせてありますが、なるべく初めて触ったときの感覚をお伝えできればと考えています。また、開発中の機材をお借りしてレビューを行いましたので、製品版とは異なる場合があります。

赤山シュウのCamera watching / Vol.01

ニコン「Z f」を最速チェック。懐かしさを感じるフルサイズミラーレスカメラ登場

時代を超えたヘリテージデザイン

「Z fcだ」

箱から取り出した時は、正直、少しだけプラスチッキーな感じがした。しかし、これは誤りで、それは今までに触れたZ fcと外観がよく似ていたことから来る先入観だった。少し触れるとむしろ「質感いいんじゃないか?」と思い始めている。それは触れた質感だけでなく、ボタンを押す時、ダイヤルを回す時、シャッターを切る時、ちょっとした動作に感じる質感があり、触れば触るほど唸ってしまう。

「いやいや、これは歴史に残る名機になるんじゃないですか?」とまで思えるのは何も知らずに触っているからだろうか?

左からZ fc、Z f、FM2

Z fは見ての通り2021年に発売されたZ fcと同様のデザインだ。サイズは一回り大きくなっているが20年近くにわたって販売されたフィルムカメラFM2を彷彿させるヘリテージデザインだ。FM2はフラグシップ機ではなく、多くの人にとってカメラ操作の基礎を学ぶ定番機だ。Z fもおそらく、Z fcなどのAPS-C機からステップアップする形で、多くの人が写真撮影を学ぶカメラとなるだろう。上部のダイヤル類は視覚的にカメラの操作が身に付く。

ボタンやダイヤルの配置はほぼZ fcと同じだ。Z fcからステップアップしたい人にとっては、何の違和感もなく移行できるだろう。ボディが一回り大きくなった分、ボタンやダイヤルの配置にも余裕が生まれ、ダイヤルの大きさもわずかに大きくなっているため、Z fcよりも操作がしやすくなっている。また、ダイヤルを回す質感が格段に良くなっており、見た目はZ fcと似ているが、質感は別物と感じた。この点においても、上位機種のサブカメラとして使用する際にも満足できるであろう。

Z fcと違い小さなグリップが付いている。指の引っかかりがあるのでホールドしやすい

一番の違いはセンサーサイズだ。Z fにはフルサイズセンサーが搭載されており、Z fcにはなかった5軸手ぶれ補正も備わっている。スナップ的に使うのが気持ちよかったので手持ちで撮影をしていたが、手ぶれ補正の効きはZ 9、Z 8と引けを取らないんじゃないだろうか?よく効いている。

Z fcより大容量のバッテリーとSDとmicroSDのダブルスロット

バッテリーはZ 8などと同じEN-EL15cでZ fcより大容量だ。電池蓋を開けるとSDカードスロットがあるが、よく見るとmicroSDとのダブルスロットになっている。最初気がつかなかった。

左にまとまった入出力端子は外部給電に対応したUSB-C、ヘッドフォン、マイク、microHDMI端子がある

バリアングル方式のモニターはZ fcより一回り大きい3.2インチだ。発色も良い。ファインダーもZ fcより見やすい。モニターもファインダーもZ 9やZ 8と軽く比較した感じ、遜色のない見やすさだ。ブラックアウトフリーかは確認するのを忘れてしまった。アイピースはZ 9、Z 8と同じ物で取り外し可能だ。

三脚座はZ 8と同様にプレートの回転防止のダボ穴が付いている

バッテリーとSDカードを入れた重量は708g。軽いと感じることはないが適度な重さで撮影している感覚が手から伝わってくる。持ち出すのに億劫になるほどではなく一緒に散歩できる重さとサイズ感だ。

見た目はレトロ、中身は最新

ハイエンドのZ 9やZ 8に搭載されている機能でハードウェア的に踏襲できる機能はほぼ入っている。それどころかハイエンド機にも搭載されていない機能も入っており、他メーカーでは下剋上と言われることが普通にあるのがニコンの魅力だ。技術の出し惜しみをしないのがいかにもニコンらしくて好感がもてる。

動画機能

Z fの動画機能はずば抜けて優秀な訳ではないが、映像を撮影する上で必要な性能と機能はしっかりと入っている。手抜きや妥協は一切感じられない。

4K UHD60pまで撮影可能

4K UHD60pの場合センサークロップされる。30p以降はフルフレームで記録される。FHDではあるが120pでのスローモーション撮影ができる。

Z fcではできなかった10bitで収録できる。またSDRの他にN-Log、HLGでの収録も可能と最近の動画機としての機能はしっかり抑えられている。

高感度耐性

Z 9やZ 8と比べ、多少暗いシーンに強くなっているように感じた。N-Logで撮影する場合、ベース感度のISO800から徐々にノイズが増え、Z 9、Z 8の場合ISO4000でノイズが一旦減るが、Z fはISO6400で減る。Logで撮影しない場合、高感度ノイズ低減を有効にしておけばさらに感度を上げても気になることは少ない。

左:ISO5000 右:ISO6400 静止画だと分かりづらいが、ISO6400でノイズが減る※画像をクリックして拡大

音声24bit収録

音声収録は16bitのカメラが多い中、Z fはLPCM24bitステレオで収録ができる。普段Z 9、Z 8をメインに使用しているが、ニコンのカメラの音は立体感がある。インタビュー時は外部マイクを使うが、普段の撮影時に外部マイクを付けなくてもキレイに立体感のある音を収録してくれる。環境音と併せて収録する時はあえて外部マイクを使わない方が、立体感のある音をとることができるのでスナップ映像には特に向いているのではないだろうか。

美肌効果

Z 8から搭載されている「美肌効果」も使うことができる。肌の部分だけ美しくしてくれる機能で、人肌を美しく見せたい時に使うと良いだろう。配信用のカメラとして使う時などにも良いらしい。

タイムコード記録

Bluetooth接続のUltraSync BLUE(ATOMOS社製)に対応しており、Z 9、Z 8やZoom F3といった、対応する他の機器とのタイムコード同期ができる。筆者は先日のロケでZ 9とZ 8、そしてZoom F3をタイムコード同期で撮影をしてきたが、とても便利だったのでこの機能がZ fにも搭載されているのは嬉しい。

熱処理

Z fはZ 9、Z 8よりボディが小型なので放熱は難しそうである。電源をずっと入れていると生温かくなり、撮影を続けるとカメラの熱警告が何度か表示された。今回のレビューで使っていた範囲では停止することはなかったが、長時間の連続撮影は難しいのかもしれない。

ただし開発中の機体だったので製品版では多少改善されている可能性もある。

ピクチャーコントロールを使った撮影

Z 9、Z 8と違って内部でRAW収録はできない。メニューを一通り見たところ外部RAW出力の設定も見当たらなかった。普段RAWでばかり撮影している私には新しい発見もあった。後述するB&Wモードもそうなのだが、ピクチャーコントロールを使って色を作った撮影が思いのほか楽しかった。今まで正直使い勝手が悪い色ばかりだと思っていたのだが、かかり具合の強度を30%くらいまで落とすと急にいい感じの色になってくる。

またPicture Control Utility 2というアプリやPicture Control EditorというWebサービスを使えばピクチャーコントロールの自作も可能だ。探せばあらゆるフィルムをシミュレートしたピクチャーコントロールの配布もされている。ニコンのカメラを使い始めて2年経つがもっと早く知りたかった。ピクチャーコントロールを使うと街中のスナップ撮影がとても楽しくなった。

スチール撮影機能

1枚1枚、対話しながらする撮影が気持ち良いメカシャッター

Z fのメカシャッターはZ fcと比べ少し上質なシャッター音と振動だ。「ガシャッ、ガシャッ」ではなく「ドゥッ、ドゥッ」と心地よく響く。私が普段使っているZ 9やZ 8はメカシャッターがないので、何か物足りないという人もいるが、私はあまり気にならないタイプだった。

むしろ普段はサイレントモードで撮影している位だったのだが、Z fの心地よいシャッターの振動から、撮影というのは自分の中で「撮っている」と感じることも大切だと気づかされた。

B&Wモード

いわゆる白黒モードだ。ニコンのカメラにはピクチャーコントロールといういわゆるフィルターのような機能がありその中に元々「モノクローム」は存在していた。Z fではビデオ/スチールの切り替えレバーに「B&W」が加わって、ピクチャーコントロールの画面を開かずに白黒モードに切り替えることができる。従来からのモノクロームに加え「フラットモノクローム」「ディープトーンモノクローム」が追加され、味わい深い白黒写真が撮影できる。

正直B&Wの機能は必要か?と懐疑的であったのだが、モノクロームという新たな楽しさを教えられてしまい、お借りしていた期間の半分は白黒で撮影していた。ガチッと正確無比な撮影だけではなく、写真を撮る遊び心を持っており、最近のカメラに足りなかった部分かもしれない。

ピクセルシフト撮影

センサーをピクセル単位で動かして撮影し、合成することで超高解像度の1枚の写真にするピクセルシフト撮影。ニコンのカメラには多分初めて搭載される機能だ。高解像度のセンサーを使わずに高解像度(最高約9600万画素)の写真を撮影することができる。カメラ内では合成されず別途ソフトウェア(NX Studio)を使って合成する必要があるが、カメラ内で合成しない分次のカットも素早く撮影できる。

今回は、撮影はしたもののNX Studioがまだ対応していなかった為、超高解像度の威力を見ることはできなかったが、私の場合、高い山の景色を撮影する際などに使えそうで楽しみである。

HLGモード

Z 8から搭載されたHLG(ハイブリッドログガンマ)によるスチールのHDR撮影がZ fでもできる。スチールのHLGはまだ一般的ではないとは言え将来を見据えて今後のニコンのカメラには搭載されると思われる機能の一つだ。暗部から明部までしっかりと捉えることができる。

新たなAFエリア ピンポイントAF

従来のシングルポイントAFに比べ、AFエリアをさらに狭くできるピンポイントAFが追加された。Z 9 やZ 8にはまだないAFモードだ。花などはおしべにピントを合わせるか、花びらに合わせるかなどさらに厳密にAFでピントを合わせることができるようになった。

「あーそこじゃない」という場面が減り便利だった。残念なことに動画では使うことができない。

短い時間であったがZ fに触れることで撮影の楽しみを思い出した。今回はレビューなのでいろいろ細かい点を気にしながらの撮影だったのだが、本来ならばカメラと対話しながらシャッターを押すという所作を純粋に楽しみたいカメラだ。あまりにべた褒めしているが、正直このカメラにべた惚れしている。

見た目のノスタルジーさに注目がいくが、そのボディの中にはニコンの最先端の技術を惜しげもなく詰め込まれている。

Z fは可愛い顔をしてるが、羊の皮を被ったオオカミだ。

井上卓郎|プロフィール

北アルプスの麓、長野県松本市を拠点に、自然やそこに暮らす人を題材とした映像作品を自然の中にゆっくり溶け込みながら作っている。現在は企業や自治体のプロモーション映像や博物館などのコンテンツを中心に、映像作品を手がけるかたわら、ライフワークとして自然を題材とした作品を制作しています。一応DaVinci Resolve認定トレーナー。
代表作:ゴキゲン山映像「WONDER MOUNTAINS」シリーズ、くらして歳時記など

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