夫婦で育て、園児の歓声響いた畑 妻亡き今も笑顔のために 半世紀超える芋掘り体験の場 加古川

浜の宮幼稚園の園児に、芋掘り体験の畑を提供して51年目になった隅野茂明さん=加古川市尾上町

 兵庫県加古川市尾上町の隅野(すみの)茂明さん(83)が、浜の宮幼稚園(同町)の園児に、芋掘り体験の場を提供し続けて半世紀が過ぎた。同園創立の1973年、長男の入園を機に自身の畑で始め、毎年、妻の早苗さんとつるを植えるなど準備してきた。2017年に早苗さんが亡くなり、やめることも頭をよぎったが、子どもたちのために継続。「笑顔を見られるのがうれしい。体が元気な間は続けたい」と話す。(斉藤正志)

 長男が入園した際、隅野さんが同園に出向き、「元気に通わせてもらっているので、みんなに芋掘りをさせてあげたい」と提案。近くの畑でサツマイモを植えたのが、始まりだった。

 近所の知人から「来年はうちの子が入園するから、芋掘りさせてあげて」とお願いされ、翌年も栽培。毎年の恒例行事になった。

 当時、隅野さんは高砂市の会社に勤めており、主婦だった早苗さんが水やりしたり、つる返しをしたりするなど夫婦で力を合わせた。園児が多かった年は、約400本のつるを植えたこともある。毎年秋は、大きな芋を見つけて喜ぶ子どもたちの歓声が響いた。

 かつての園児が親になり、その子どもと芋掘りに訪れて「ここで芋掘りしたのを覚えている」と喜んでくれることもあったという。

 17年に早苗さんが病気で亡くなり、落ち込んだ隅野さんは、やめることも考えた。しかし、園側からの依頼で思い直し、芋掘りを楽しみにしている園児のために、栽培を続けてきた。

 80歳を超え、体力的につらくなってきたが、51年目となった今年は、同園の教員らが4月、約220本のつるの植え付けを協力。5、6月には園児も一緒につる返しや水やりをした。

 9月8日には、4歳児と5歳児の計25人が畑を訪れ、手を泥だらけにして収穫。「大きいのがあった」「3個も取れた」と、大きな声が上がっていた。

 子どもたちは「お芋がたくさん出てきて楽しかった」「大きいのが取れたから早く食べたい」と感想を言い合い、隅野さんは「年少組さんは、おっちゃんが元気だったら来年も一緒に芋掘りしようね」と話しかけた。

 同園の藤原郁子園長は「広い畑で、思い切り自然に触れられる機会はあまりない。本当にありがたい」。隅野さんは「無邪気な子どもと触れ合えるのは、毎年楽しみ。年齢的にも大変だが、やりがいを感じる」と顔をほころばせた。

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