「野球短歌」

 〈残塁の数を数えて甲子園/きみは十二でぼくは九つ〉〈サードから本塁までが遠すぎて半日かけてもたどりつけない〉…と詠んだ4月の日々から〈ただひとつ勝っただけでも泣いていた/私たちポストシーズンへ行きます〉の10月へ▲悪夢の開幕9連敗で始まったプロ野球・阪神タイガースの2022年に歌作で伴走した池松舞さんの歌集「野球短歌」は、ぶっちぎりで阪神がリーグ優勝を飾った23年のいま読んでも実に味わい深い▲〈…ピッチャーの腕のしなり、空に溶けて見えなくなる大飛球、走れ走れランナー、それから芝。…そういったすべてのものをまとめて野球と呼びたい…〉▲池松さんの「あとがき」を読み返して、野球の魅力のたくさんの部分を1人で表現してしまう彼のことを改めて思う。米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手が右肘の手術を受けたことを報告した。「無事成功しました」▲身体を気づかう言葉への感謝を述べ、シーズンの途中でチームを離れる無念を丁寧に記しながら〈これまでより強くなってダイヤモンドに戻ってくるために最善を尽くす〉と決意を綴(つづ)っている。来春が待ち遠しい▲「diamond」の英単語がきらきら光って見える。ぼんやり考えた。野球の四角いフィールドを最初にこう呼んだのは誰なのだろう。(智)

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