店奥の井戸はお肌潤うパワースポット? 亡き兄の夢にお告げ「大事に祭れ」 観葉植物みずみずしく

「大原商店」の店舗奥にある井戸。「昔はここで井戸端会議をしてたんでしょう」と大原さん=明石市本町1

 あの店の奥にはパワースポットがあるらしい-。そんな情報をキャッチし、魚の棚商店街で化粧品などを扱う「大原商店」(兵庫県明石市本町1)を訪ねた。細長い店内を進むと、白く明るいエステコーナーの一角に、井戸があるではないか。そばには立派な神棚や灯籠まで鎮座し、見上げると天窓が設けられている。(松本寿美子)

 「昔、亡くなった兄が夢で『井戸を大事に祭れ』というお告げを聞いたと。黒龍王大神様として祭っています」と店主の大原章さん(75)。天窓に延びる煙突状の白壁には、雲に見立てた石が盛り込まれている。

 店は戦後間もなく大原さんの両親が開業し、舶来雑貨を商った。露店から始め少しずつ店を大きくした。井戸は元々あり、周囲には御影石が敷かれていたという。ふたを外してのぞき込むと、頰に冷気が触れる。大原さんが手押しポンプを動かすと管から水が勢い良く出る。「海が近いからか塩っ辛い水が出ます。魚屋が多いので、床を洗っていたのかな」と大原さん。

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 開業時、父の福松さんは川崎航空機工業(現川崎重工業)技師。店は主に母の綾子さんが切り盛りした。大阪の米問屋の娘だった綾子さんは商才を発揮し、カネボウ化粧品で全国8位の売り上げを記録したことも。店内には今も表彰式の写真や盾が飾られている。

 「母はとにかく人が好き。心をつかむのが上手で悩み相談にも乗っていた。言いたいことを言うけど後に引かない人でした」。夢のお告げ通り、綾子さんも井戸を大事にした。今は大原さんが受け継ぎ、毎日ポンプで水をくみ上げ、掃除し、酒や果物を供えて守る。

 良い気が流れているのだろうか。日当たりや風通しがあまりない場所にもかかわらず、そばに置かれた観葉植物の葉はみずみずしい。化粧品を販売する女性は「他の場所に置くと元気がなくなるのに、なぜかここやと復活するの」と不思議がる。女性の肌にも御利益がありそうだ。

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 化粧品のみならず、店頭に並ぶ雑多な食料品も魅力的。ドイツ産のカフェインレスコーヒーだったり、イタリア産のドレッシングだったり、スーパーでは見かけないタイプのツナ缶だったり…。まるで宝探しをするような楽しさがある。

 開店前に取材をしていると「はよ店開けえな!」と、少し開いたシャッターから女性が威勢良く入ってきた。精肉店をしているといい「まかないにナポリタンを作ろうと思ってな」と穏やかな大原さんを見やり、グリーンピース缶を買って帰った。水が枯れない井戸のように、にぎやかな人の行き来も続きますように。

 大原商店は午前10時~午後7時。盆と正月を除き、無休。TEL078.911.2642

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