社説:犯罪被害者支援 全国に条例実績広げよ

 どの事件の被害者も、住んでいる場所の違いで支援に差があってはなるまい。

 犯罪被害者やその家族を支援する「犯罪被害者等支援条例」が今年4月までに、岩手県を除く46都道府県で制定された一方、市区町村では全体の35%にとどまる。

 政令市は20のうち京都市など13、他の市区町村は1721のうち、606が制定した。

 府県内の全市区町村で条例を設けたのは京都など11府県だったが、半数以上で制定率が3割にも満たなかった。

 突然の事故や事件に巻き込まれた被害者や遺族は、長期の入院や治療、生活再建などが大きな負担となることが少なくない。

 2004年に成立した犯罪被害者等基本法では、被害者や遺族が平穏な生活を送れるよう、支援を国や自治体の責務と位置づけた。条例制定はその対応の一つだ。

 同年、都道府県では初めて宮城県が犯罪被害者支援に特化した条例を施行した。その後、19年の京都アニメーション放火殺人事件を契機に、条例制定の動きが広がった。犠牲者36人の遺族の居住地が、30近くの市区町村にまたがったことも大きい。

 京都府は今年4月、条例を施行した。京アニ事件の被害者から要望が多かったベビーシッターや家事代行など、日常生活を取り戻すための支援策を盛り込んだ。弁護士会や警察など複数団体で支援会議も組織し、情報を共有する。先進的な自治体の条例や施策を取り込んだ形である。

 各自治体の取り組みはさまざまだが、見舞金や生活支援の助成金など経済的支援が多い。

 事件の影響で学校に通いにくくなった子どもを対象に、家庭教師代を助成するなど、府県では行き届かない部分に手厚い策を講じる市もある。

 ただ、金額や支給条件の地域差が大きいと、不公平感が広がりかねない。

 共通の土台となる支援策について、政府が新たな指針や基準を打ち出す必要があろう。基本法の見直しも視野に入れるべきだ。

 政府は6月、被害者や遺族に支給する給付金を大幅に引き上げる方針を決めた。事件直後から被害者の法的サポートができるよう、被害者支援弁護士制度の早期導入も検討する。1年以内に策をまとめるという。

 国、自治体、民間支援団体が連携し、被害者に寄り添った制度にすべく体制を整えたい。

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