ピアノのダンパーペダルを究める!音を伸ばすだけではない様々な機能【榎政則の音楽のドアをノックしよう♪】

ピアノのペダルはどのように踏めば良いですか?という質問をよく受けます。この質問を、ピアノのレベルに沿って見ていきましょう。具体的な踏み方ではなく、考え方を知ることによって、どんな曲を弾くときにも対応できるはずです。

なお、ペダルは、クラシック・ピアノ、ジャズ・ピアノ、ポピュラー・ピアノ、それぞれで考え方も踏み方も全く異なります。自分の親しんでいないジャンルの奏法はなかなか受け入れられないこともありますが、それだけ音色の幅が広がることにも繋がります。

私はクラシック・ピアノのペダルの踏み方は研究しましたが、ジャズピアノのペダルの考え方に触れたときは衝撃的でした。今回の記事ではクラシック・ピアノのペダルについて書きますが、他のジャンルの方も是非読んで頂ければ幸いです。

1.指ではつながらない音を繋げる

ピアノで旋律を演奏するときの基本はレガート奏法です。音と音をなめらかにつないで演奏します。しかし、人間の指には大きさや柔軟性に限界があり、どうしてもつながらない音が出てくるときがあります。このときにできた音と音の隙間をペダルで繋ぐというのが最も基本的なペダルの使い方です。

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「指でどうしても繋げられないから足に頼る」

本来であれば、ペダルにはなるべく頼らずに指で演奏したいものです。まずはこのような意識でペダルを使ってみてください。

2.バスを伸ばす

音楽の支えとなる大切な音がバス(ベース・最も低い音)です。バスは基本的に鳴り続けていて欲しい音で、たとえ楽譜上では音が途切れていたとしてもあえて休符が書かれていない限りは伸ばすことが多いです。

しかし、中級以上の曲になってくると、左手はバスと和音を弾くために鍵盤を飛び回ることが多くなってきます。こうなると、指でバスを伸ばすのには限界が出てきます。このときにペダルを使います。

「指でどうしても伸ばせないから足に頼る」

しかし、これは副作用が非常に強いです。バスを伸ばしたいところまで伸ばすと、旋律が動いている時もペダルを踏み続けることになり、旋律が不明瞭になってしまうことがよくあります。 たとえば、「ドレミ」という旋律を弾くときにペダルを踏み続けると、残響は濁り、旋律もよくわからなくなります。指で音を伸ばしていればこのような問題は起きないので、できるかぎりペダルの使用は最小限にとどめたいものです。

3.和音を充実させる

ピアノはフルートやバイオリンなどと違い音が減衰していく楽器です。そのため、ピアノで和音の響きを充実させるために、アルペジオ(分散和音)という奏法がよく使われます。本来同時に鳴って響く和音を分散させているわけですから、ペダルを踏んでアルペジオを弾いても綺麗に響きます。

ここまでに何度もお伝えしているように、アルペジオであっても、指で伸ばしきれないときにペダルを踏むくらいの感覚のほうが良いです。同時にたくさんの音が鳴り響くため、副作用も大きく、旋律にペダルがかかってしまうと何を弾いているのかよくわからなくなってしまうこともしばしばあるからです。

一方でペダルを使うことによってよりピアノらしい豪華な音になります。ピアノの音色と聞いてイメージするのはこのアルペジオにペダルがかかっている音でしょう。そこで、次の目的を見てみましょう。

4.音色を変える

ペダルを踏むと、弦の振動を止めているダンパーというフェルトが弦から離れ、解放されます。この状態でなにか音を弾くと、他の弦も振動をはじめます。これを共鳴といいます。ピアノの高音部にはもともとダンパーがついていないので、常時すこしは共鳴しているのですが、ペダルを踏むことによってより共鳴が増えて、豊かな音色になり、音量も大きくなるように聞こえます。

音を伸ばすためにペダルを踏むのではなく、音色を変えるためにペダルを踏むというのは積極的に行うと良いでしょう。細かくペダルを踏みかえ、旋律の1音1音にペダルの音色を付けていくこともあります。

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この際は、ペダルを踏んでから鍵盤を弾くと、鍵盤を叩いたときや、ハンマーが弦に当たったときの雑音まで共鳴してしまうため、鍵盤を弾いて音が安定してからペダルを踏むのがコツです。音からワンテンポ遅れて踏むイメージですね。

ペダルを使う音と使わない音を組み合わせることで、まるで二つの楽器が演奏しているような効果をもたらすこともできます。ペダルは音色に変化をつけるために大活躍するのです。

5.残響を整えるハーフ・ペダル

ここからが、プロレベルのペダルの使い方です。ペダルの操作で動かすことができるダンパーは、0.1mm単位の精密な操作が可能です。もしくは、ダンパーが弦に押し当てている重さをコントロールすることができます。

これにより、ペダルを使わないときよりは残響があるけれども、音が伸び続けるわけではない、という絶妙なバランスの音を作ることが可能です。

これを「ハーフ・ペダル」と言います。

ペダルはONかOFFではありません。どのくらい踏むか、ということを常に微調整し続ける必要があります。ペダルの踏み具合によって、音色がどのように変わるかを見ていきましょう。

全開ペダル:音が伸び続け、音量も爆発的に増え、音色も大きく変わります。ダンパーが弦から離れるときの雑音も多く、繊細な表現よりかは大胆な表現をするときに使います。

1/2ペダル:いわゆるハーフ・ペダルです。1秒程度の残響を残しスッと消えていく音色を作ることができます。また響きすぎないアルペジオなど繊細な表現が可能になります。

1/4ペダル:ペダルを踏まないときよりもわずかに響きが豊かになり、旋律に対してこのペダルを使うと、音が濁りにくく、滑らかな音色を作り出すことができます。

1/8ペダル:弦にかかるダンパーの重さを少し軽くする程度です。鍵盤から指を離したときの音の切れ方が丸くなり、やさしい印象になります。

ノン・ペダル:全くペダルを踏まない状態です。音の一つ一つが際立ち、硬質な印象の音になります。かなり特徴的な音になり、ペダルを踏まずに洗練された音を出すのはテクニックが必要です。

実際にはこれらを全て段階的に考えているわけではありません。残響をよく聞いて、その場で微修正していきます。どのくらい踏むと、どのような効果が得られるのかということの指標程度だと思って下さい。

6.フィンガー・ペダルとペダルを組み合わせる

ペダルを使って音を伸ばすよりは、指を使って音を伸ばすと良いという話をしてきました。この指で音を伸ばす奏法のことを「フィンガー・ペダル」といいます。鍵盤を押している状態だと、ダンパーは弦に触れていないので、ペダルを踏んでいても踏んでいなくても音は伸び続けます。

これとハーフ・ペダルを組み合わせると、左手だけにペダルの効果をかけて右手はペダルがかかっていないように聞こえる、といった演奏ができます。

また、更に上級テクニックになると、音を鳴らさないように鍵盤を再び押さえることで、一度ペダルで伸ばしたたくさんの音を切るときに、ある音だけを取り出して伸ばし続けることができます。他には、共鳴を利用してある和音にだけペダルの効果をかけて、和音から外れた音にはペダルをかけない、なんて離れ業も可能です。

もしピアニストの演奏を見る機会があったら、その足の動きだったり、ピアノ内部のダンパーの動きだったりに注目してみてください。そのコントロールがいかに繊細かがわかると、よりピアノを楽しむことができるかと思います。(作曲家、即興演奏家・榎政則)

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 榎政則(えのき・まさのり) 作曲家、即興演奏家。麻布高校を卒業後、東京藝大作曲科を経てフランスに留学。パリ国立高等音楽院音楽書法科修士課程を卒業後、鍵盤即興科修士課程を首席で卒業。2016年よりパリの主要文化施設であるシネマテーク・フランセーズなどで無声映画の伴奏員を務める。現在は日本でフォニム・ミュージックのピアノ講座の講師を務めるほか、作曲家・即興演奏家として幅広く活動。

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