福祉年金廃止案なぜ今? 兵庫・三木市議会が9月定例会に提出 障害者や親らに戸惑い

市民福祉年金の廃止を知らせる受給者への通知文=三木市役所

 開会中の兵庫県三木市議会9月定例会に提出された市民福祉年金の廃止案をめぐり、受給していた障害者や親たちから戸惑いの声が上がっている。市は「障害者団体から大きな反対意見はなかった」と説明するが、障害がある息子の父親は「なぜ、物価高騰で苦しいこの時期なのか」と訴える。(小西隆久)

■「物価高騰で苦しい」「行政に文句言えない」

 同年金は、重度の障害者に市独自で年2万4千~3万円を支給する制度。市は廃止の理由を「障害基礎年金や特別障害者手当などの給付のほか、福祉サービスなどが、制度ができた当時より充実してきたため」とする。

 「市が説明する廃止理由はよく分かる。時代の流れもよく分かるが…」。20代の長男が重度の障害者という男性は表情を曇らせる。

 長男は、就労支援B型事業所で週5日、パチンコ台の解体や商品の袋詰めなどの仕事に精を出すが、給料は月1万円ほど。障害年金と市民福祉年金3万円を合わせて「トータルで生活費をやっとまかなっている」と話す。

 こだわりが強く、電化製品に貼られたシールやペットボトルの包装をはがしたくなる衝動を抑えきれない長男。障害者スポーツのテニスや、楽器を触ったり踊ったりする音楽療法が大好きで「いつも楽しみにしていて、前日の晩にはテニスラケットを必ず玄関に準備して寝ている」と笑う。

 男性は、長男の福祉年金を療育に充てており「それも含めてすべてが長男の生活」。ほかにも、家族のレクリエーションや月1回の映画観賞に充てる受給者もおり「そんなささやかな楽しみさえなくなるのか」。

 市は昨年7月、市内の障害者団体の責任者に廃止の方針を説明。さらに今年8月30日付で、すべての受給者に廃止を知らせる通知を送ったという。

 男性は「団体に入っていない受給者も多く、(廃止を)知らなかった人もいるはず。通知を送っただけで説明したといえるのか」と疑問を呈する。さらに「親たちは(福祉年金が)廃止になると衝撃を受けているが、支援してもらう行政には誰も文句が言えないのが実情」とこぼす。「議会では、受給者の生活実態に目を向ける議論を」と力を込めた。

 次男に重い知的障害がある女性は「廃止になるなら、せめて浮いたお金をもっと困っている障害者の人たちの福祉施策に使ってほしい」と強調している。

 22日の市議会民生産業常任委員会で廃止案について議論し、26日の同委員会で採決する予定。 【三木市市民福祉年金】1971(昭和46)年、市が独自に創設。身体障害者手帳1、2級と療育手帳A、B1判定、精神障害者保健福祉手帳1級を持つ約1990人が対象。身体障害者2級には月2千円(年2万4千円)、その他は月2500円(年3万円)を支給する。北播磨5市1町では、小野市が2018年度末に廃止、西脇市と加西市が所得制限を設けている。

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