彼岸花

 お世話になっている人から先ごろ、メールをもらった。末尾にこう添えてある。〈あちこちでヒガンバナの赤い花を見かけるようになりました。土の中でお彼岸をどうやって知るのか不思議な気持ちです〉▲秋のお彼岸が近づくと、葉も枝もない茎がするすると地表に伸びてきて、やがててっぺんに色鮮やかな花を付ける。なるほど、ヒガンバナは地中にいながら季節の移ろいを感じるらしい▲水田のあぜ道や墓地によく植えられている。ヒガンバナの球根は毒性が強く、動物が農作物や墓を荒らすのを防ぐとされる▲人が食べてはいけない、といわれるが、球根にはでんぷんが多く、さかのぼれば飢饉(ききん)の時などの非常食にもされたという。毒性の物質は水に溶ける性質があることから、水によくさらして“毒抜き”をして食べた…というのだが、けっこう勇気が要っただろう▲その毒性によって田んぼや墓を守る。毒を抜けば飢えた人々を守る。思えばヒガンバナには「守る」という営みが似つかわしい▲本紙の「きょうの一句」にかつて載った、山田京(みやこ)さんの句を。〈昔へも行けるこの径(みち)彼岸花〉。むかし出会った人々と、ヒガンバナの咲くこの小道で会えそうな気がする、と。あすは彼岸の中日、墓参りをして昔日をしのぶ人々を、その花は優しく見守るだろう。(徹)

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