社説:デジ庁行政指導 保護委の対応も検証を

 「デジタル社会の司令塔」に対する異例の処分に発展した。

 マイナンバーに別人の公金受取口座を誤登録するミスが相次いだ問題で、政府の個人情報保護委員会がマイナンバー法に基づきデジタル庁と国税庁を行政指導した。

 2021年9月の発足後、デジタル庁が行政処分されたのは初めてだ。10月末までに改善対応の実施状況について報告書を提出するよう求めた。

 マイナンバーカードを巡っては今春以降、コンビニでの証明書の誤交付や他人の年金情報の表示、同姓同名など他人の医療情報や障害者手帳の誤登録などが次々と発覚した。個人データのずさんな取り扱いに国民の不安が高まった。

 マイナンバー制度はすべての国民にかかわる。事務的ミスで済まされない。真摯(しんし)に受け止め、再発防止を徹底しなければならない。

 保護委は、自治体の支援窓口で共用端末を使って登録手続きをした後、誤登録を防ぐための対策が不十分だったと指摘。組織内で問題共有が足りず、改善が遅れトラブルが拡大したと結論付けた。

 同庁は各省職員のほか、民間出身者が4割超を占める混成部隊だ。責任の所在のあいまいさや、組織を統括する機能の弱さが問題視されていた。

 実際、国税庁から情報提供がありながら、数カ月間も幹部に共有されなかった例もあった。

 トラブルが広がった一因として、保護委の対応の遅れを指摘する声もある。

 公金受取口座の誤登録は昨年7月に自治体で発生していた。独自に監視や定期的な検査を行っていれば、早期に問題を把握できた可能性がある。

 16年に内閣府の外局として設置された保護委は、8人の専門家委員と200人余りの事務局で構成し、官民の個人情報の扱いを監督する。

 担当は、デジタル庁トップの河野太郎デジタル相が兼務する。河野氏は唐突にマイナカードと健康保険証の一体化を打ち出し、強引にカード取得を進めた。自治体の対応が追いつかず、ミスを誘発した面があったのではないか。

 だが、保護委は河野氏には聞き取りをせず、政策の問題も今回触れなかった。独立性が十分発揮されたのか疑問も残る。

 この問題への対応を自ら検証し、必要なら組織の在り方を見直すべきだ。デジタル社会で個人情報を守る重要な責務を果たせているか。保護委も問われている。

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