台風15号による記録的豪雨から1年…消えない爪痕 濁流が襲った温泉旅館はようやく再開へ(静岡県)

静岡県内の広い範囲で、土砂崩れや浸水などの被害をもたらした台風15号による記録的豪雨から、9月23日で1年。被害にあった地域が過ごしてきたこの1年とは…

2022年9月、台風15号の影響で記録的な大雨が県内を襲いました。

道路は至る所で冠水し、川が増水した影響で橋が流されるなど、甚大な被害を受けました。長い時間、猛烈な雨が降り続け、24時間降水量は静岡市駿河区で416.5ミリ、藤枝市で403ミリとなるなど、各地で観測史上最大を記録。

静岡県によりますと、この大雨で災害関連死を含め6人が死亡、床上・床下浸水が4700棟以上、家屋の全壊や半壊は約2250棟にのぼっています。

また、河川の護岸崩壊や道路の陥没などの被害は562カ所で、このうち県が管理している329カ所のうち274カ所は、いまだ復旧が完了していないということです。

広い範囲に大きな爪痕を残した台風15号の被害から23日で1年。

こちらは、静岡駅から車で30分ほどの中山間地域にある油山温泉。流木や土砂で汚れていた川や道路は、綺麗に整備されています。21日被害を受けた旅館を訪ねると。

(油山温泉「油山苑」 大塚祐史さん)

「ご無沙汰しております。お久しぶりです」

当時は、山の斜面が崩落して土石流が発生。油山川からあふれ出た大量の土砂や流木、濁流が襲いました。この旅館では、1階部分の浸水が床上1メートル50センチを超え、大量の土砂も流れ込みました。

被害からまもなく1年。大量の泥などをかき出すのに時間がかかり、8月にようやく改修工事を始めることができました。

(油山温泉「油山苑」 大塚祐史さん)

「ここが新しい厨房で大体完成している。今まではここは大きな厨房だったが、今後はここに客を入れて食事をしてもらう、イスと大きなテーブルが揃えば厨房は完成」

これまで県内外から、約2000人のボランティアが駆け付け、流れ込んだ泥をかきだしたほか、2023年5月、再開に向けて実施したクラウドファンディングでは、目標金額を上回る、500万円以上の寄付が集まりました。

こうした思いに、少しでも早く応えたいと、11月にランチ営業から再開することにしました。

(油山温泉「油山苑」 大塚祐史さん)

「厨房とロビーの改装が整い次第、11月から食事を始めたい。客室もリフォームできたら本格営業するのは来年2月を目標としている」

宿泊は来年2月から再開する予定で、客室の改修を続けながら、まずは4部屋限定で予約を受け付けていくということです。

こちらは、2022年の台風15号で大雨がやんだ後、静岡市清水区でゴムボートの上から撮影された街の様子です。近くを流れる巴川が氾濫し、辺り一帯が湖のようです。この映像を撮影したのは、映像クリエイターの楊珂(よう・か)さん。中国から日本に来て20年になります。

楊さんは、他にも、当時住んでいたアパートの3階から、巴川が氾濫していく様子を記録していしました。

あれから1年、楊さんは今、町の防災力を高めようと啓発活動に取り組んでいます。

(映像クリエイター 楊珂さん)

「清水区の防災関連の人や区長と会ったり、最近は興津で防災イベントをやったりした。災害はいつくるのか分からない、みんな普通の生活に戻ると忘れてしまう。災害が起きた場合、どうやって自分を守るのか、周りの人を守るのか、災害が起きたら何かできるようになってほしい」

楊さんと、浸水被害にあった近くの家を訪ねました。こちらの家は1974年の七夕豪雨でも被災、2022年の台風15号では、床上1.2メートルほどまで水に浸かりました。

家は「半壊」と認定され、2023年2月に改修工事を終えましたが、今でも、1階ではなく2階で寝ているといいます。

(浸水被害受けた鈴木さん)

「『またくるじゃないか』と、こっちまで荷物を持ってこれない。壁紙はみんなクロスではなく木にした、濡れても多少はいいように。畳は軽くした、薄くしてね」

2023年6月の台風2号の時は、畳を全て外し、荷物などとともに高い場所に避難させたということです。

続いて訪ねたのは、楊さんと仕事上で繋がりがあるというガス器具の取扱店。

台風の日、事務所の隣を流れる巴川の支流、和田川があふれ、胸まで水が浸かるほど浸水しました。

(映像クリエイター 楊珂さん)

「業者として、いろいろな所で水害を受けた家の復旧をして、忙しかった?」

(大石燃料 大石社長)

「去年の9月に台風が起き、年内は被害にあった客の給湯器やキッチンの改修という仕事に追われて、この1年はとにかく忙しい1年でした」

(映像クリエイター 楊珂さん)

「自宅の方は完全に直った?」

(大石燃料 大石社長)

「仕事の計画と実行が忙しく、自分たちの家を直そうと考えられず、手を付けていなかった」

被災した客の対応で忙しく、自宅の改修に手を付け始めたのは、つい最近だといいます。

大石さんの家の横を流れる和田川は、6月の台風2号のときも、溢れる寸前でした。

(大石燃料 大石社長)

「6月に、洪水がほとんど起こりそう、川が少しずつ溢れているのに、北街道の通行を止めないで、車が行けるような状態だった。いつか水没する車が出てくるだろうと思う、あってからでは遅いので、とにかく洪水になりそうな時は、なる前に通行止めにしてほしい。北街道は絶対に止めてほしいといつも思っている」

被災した巴川流域の住民たちは、いまも大雨が降るたびに、不安を感じています。

(記者)

「磐田市の敷地川です。去年、土のうが積まれた場所の堤防が決壊し、住宅地に川の水が押し寄せました」

磐田市の敷地地区では、2022年の台風15号の影響で堤防が決壊し、大量の水が住宅地に流れ込み、50棟が床上・床下浸水。

2023年6月の台風2号により、再び堤防が決壊し、30棟に床上・床下浸水が発生しました。

(記者)

「こちらの道路や住宅は2度、泥に埋まりましたが、現在は全て取り除かれています」

堤防の決壊箇所は、鉄板を入れるなど強度を上げての応急対策が完了。さらに、河川カメラを設置し、住民が川の様子をリアルタイムで確認できるようにしました。

こちらの男性は、2022年と2023年の2度、浸水被害にあったといいます。

(浸水被害にあった男性)

「(去年は)床上20センチまで水がきた。家族は2階に垂直避難した」

2度にわたり床下には泥が溜まりましたが、撤去も終わり、ようやく普段の生活が戻りました。

(浸水被害にあった男性)

「(決壊箇所は)水の圧力にも耐えられると思っている。私は安心している。川の水の量を映す定点カメラが設置され見れらる」

堤防の決壊箇所については復旧工事が続いていて、2024年6月ごろに完了する予定です。

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