何が人々をひきつけるのか…。「アナログレコードの楽園」に潜入します。夢だったレコードバーを早期退職して開いた男性を取材しました。
広島県府中町にあるレコードバー「PEG」です。この日は、20代から60代までの来店客が閉店まで途切れることなく楽しんでいました。
20代
「きょう初めてですね。『レコード店』とかって調べたら出てきて…」
60代
「週に1回とか2週に1回は、たいがいは土曜日に来るんです」
この10年、CDの生産額は減少傾向が続いています。一方でアナログレコードの生産額はこの10年で10倍以上に。特に新型コロナが流行した2020年以降は、自宅時間を楽しむ人がレコードを買い求めたこともあり、伸び率が大きくなっています。
コロナ禍も収束し、レコードバー「PEG」は、自宅を出て音楽を楽しむ人の拠点となっています。
店内で流すレコードを選ぶのは、店主の 赤羽浩司 さん(57)。2022年7月に念願をかなえました。
かつての同僚たち
「 “真面目なデータ屋さん” って感じがしとったよね」
「うらやましいなと思いますよ、やっぱり勇気があるんですよ。一歩踏み出す勇気があるから」
午前中のアルバイトを終えた赤羽さんです。
「PEG」店主 赤羽浩司 さん
「ミュージシャンかレコーディングエンジニアになりたかったんですよ。そういう専門学校に行きたかったんですけど、親の反対にあって」
学生時代、バンドでベースやギターを演奏していた赤羽さんは、いつかは音楽に関わる仕事を、と夢見たそうです。2年前、店を開くために30年以上勤めた医薬品卸売会社を早期退職することを決めました。家族からの反対はなかったそうです。
赤羽浩司 さん
「妻は反対するかなと思ったんですけど、そのときは『いいんじゃない』っていう感じで言ってくれたので」
妻 祥子さん
「でも、その『いいんじゃない』も軽い感じで、そこまで本気ではないかなくらいに思っていたんですけど、本気だったので。楽しんでやってもらえたら。本当にわたしはその楽しみに乗っかっていきたいので」
アナログ人気もあり、レコードを扱う店は増えています。赤羽さんもお店を始める前に通ったというレコードバー「盤処呑処FRESH」です。クラブDJとしても活動する店主の 松田知士(39)さんは、7年前に店を開きました。
盤処呑処FRESH 松田知士 さん
「レコードをずっと使ってきた人がいると思うんですけど、それがDJカルチャーというか、DJをやっている人がずっとやってきて、今は “アナログ再人気” ってなってるけど、この低迷期みたいなときにずっとアナログが残っていたのは、やっぱりDJの人たちがつくって使ってきたっていうのがあると思うんですけど」
赤羽さんも店で流す曲を選ぶため、定期的にレコード店に足を運びます。
GROOVIN' 小林章彦 さん
「毎週来られて、いろんなジャンル、ジャズとかロックとか買われて、音楽が好きなんだなという印象ですね」
「PEG」の店内は10席。シンプルな店内によく目立つレコードプレイヤーは、退職するときに仕事仲間から贈られました。赤羽さんのサラリーマン時代の同僚は、常連さんになっています。
店内に並ぶアナログレコードは約1000枚。お客さんの雰囲気に合わせて選曲するそうです。音楽好きの20代が来たこの日は、カナダ出身のシンガーソングライター「ジョニ・ミッチェル」を選びました。
20代
「ここに来たらマスターが絶対、自分が知らん音楽ばかりかけてくるので。もう、どっちが知らん音楽を出せるかみたいになってくる」
「PEG」店主 赤羽浩司 さん
「若い方にこういう音楽を聴いてほしいなと思って。知っているか、勝負かけたところですよ。知らないって言ったので勝ちました」
2人は世代を超えてバンドを組むことも考えているそうです。
「PEG」に集う人たちになぜ今、レコードを選ぶのか聞いてみました。
20代
「不便な感じが逆によかったり、針を落とす時間とかもすごく穏やかな感じが好きです」
20代
「きっかけは村上春樹の小説。よく出てくるんですよね。主人公が部屋で聴いてるのはどんな曲かなって思って調べたらいつの間にかプレイヤー買って」
60代
「懐かしいですよね。やっぱり音がすごくやわらかい」
赤羽さんがレコードにひかれるのは、その動作で音楽への気持ちが入るからだといいます。
赤羽浩司 さん
「レコードはやっぱり音が厚い。分厚い感じがします。それとやっぱりレコードをかけるときに中学校のときからやってたってのもあるんですけど、この動作が音楽聴くぞっていう感じがあって、それがぼくにとってはすごく大きな魅力です」
なんでも便利になっている今だからこそ、針を落とすひと手間が音楽の楽しみをふくらませているようです。
◇ ◇ ◇
小林康秀 キャスター
レコードといえば世代的には青山さん。音楽も大好きですけど、アナログレコードの魅力って?
青山高治 キャスター
ぼく、今、51歳ですけど、中学時代まではアナログレコードでしたね。とにかく魅力はやることが多い。聴くまでにたいへんなんですよ。聴くレコードを選ぶ。ジャケットから出す。透明な袋から出して、カセットテープとかにダビングするときはクリーナーできれいにして、やっと針を落として聴いていたら、洋楽の場合はライナーノーツっていって説明文があって、それを読みながら聴いていたら、すぐB面に入れ替えてっていう…。やることが多いんですけど、そのぶん刻まれるっていう。本当に向き合っている感じがします。
コメンテーター「雪月風花」店主 吉宗五十鈴 さん
お店もなんかやわらかい感じがしました。うちの子どもたちは中・高生で、見ていると完全にデジタルの聴き方で、曲が終わる前から次に飛ばしたり…。そういうのを見ていると、このアナログの豊かさを本当に感じさせたいと思って。アルバムの曲順で聴くとか、動作でほこりがついたら指紋がつかないようにふくとか、そこであった人たち同士でおすすめを聴くとか、そういうのを感じてほしいとしみじみ思いました。
中根夕希 キャスター
すごく時がゆったり流れているのと、赤羽さんも夢をかなえたうれしさというのが表情にもあらわれていて、本当にすてきなお店でした。
小林康秀 キャスター
この店を開くために赤羽さんは、3人のお子さんが就職し、独立が決まったタイミングで早期退職して始めたということなんですが、この店を切り盛りするために午前中、アルバイトをしながら経営していらっしゃる。妻の祥子さんも家計を支えるためにフルタイムの仕事をしていらっしゃる。それでもお二人は楽しそうにやっているのがいいと、取材した記者も話していました。音楽好きではない方もぜひ、いらしてくださいと赤羽さんは話していました。