日本株相場も下落…アメリカ政策金利の据え置きは市場にどのような影響を与えた?

市場の注目を集めた9月のFOMC(米連邦公開市場委員会)は大方の予想通り、政策金利の指標であるFFレート(フェデラルファンド金利)の誘導目標を5.25~5.50%で据え置きました。しかし、同時に発表された経済見通しではFOMC参加者によるFFレートの予想中央値は2023年末時点で5.6%。今回は利上げを見送ったものの、年末まであと1回の利上げを示唆しています。

FOMCは年内にあと2回、開催が予定されています。10月31日~11月1日、12月12~13日の残り2会合のどちらかで、利上げを行うことが適切と考えているFOMCメンバーが半数以上いるという結果がドットチャートで示されました。ここから市場はFRB(米連邦準備制度理事会)が利上げに固執する強固な姿勢を読み取りました。


米国株式市場は大幅続落も、過剰反応か

さらに2024年末のFFレートの予想は5.1%と前回6月時点から0.5%も引き上げられました。2024年の大幅利下げ期待が後退し、米国株市場では金利に敏感なハイテク成長株が売られました。FOMCの結果が公表された翌日も米国市場の動揺は続き、米国10年債利回りは4.49%まで上昇しました。4.49%を付けるのは2007年11月以来、およそ16年ぶりのことです。これを受けて米国株式市場は大幅に続落しました。

こうなると日本株相場も連れ安を避けられません。22日の寄り付き後、日経平均の下落幅400円を超え、株価は3万2150円程度まで下げる場面がありました。

しかし、これは過剰反応だと思われます。確かにFRBの引き締めは長期化し、米国金利は高止まりする見通しが示されました。しかし、見通しはあくまで「見通し」に過ぎません。毎回のことですが、パウエル議長もFOMC後の記者会見で、These projections, of course, are not a Committee decision or plan (これらの見通しは、もちろんFOMCの決定でも計画でもない)と述べています。

2024年末のFFレートの予想は5.1%と前回6月時点から0.5%も引き上げられたと前述しましたが、それはドットチャートの中央値の話です。FOMCメンバーの予想を示すドットは広い幅でばらついています。すなわちコンセンサスが固まっていないということです。したがって、この先の状況次第でいくらでも変わり得るということです。

米国の失業率は3.8%に。その理由とは?

実際、FRBのスタンスを変更させる要因はすくなくありません。FRBがタカ派でいるのは米国の景気、特に個人消費の強さが背景ですが、今後、消費も弱くなる可能性があります。現在、消費が強いのは政府の現金給付などで家計がまだ潤沢な現金を保有しているからという理由がありますが、そろそろ、それも尽きてくるころです。

その証拠が雇用統計に表れています。前回発表になった雇用統計では失業率が3.8%に跳ね上がりましたが、その理由は職探しをする人が労働市場に戻ってきたからだと言われています。労働参加率がコロナ後最高となる62.8%にまで高まったことからもそれはわかります。そして、職探しをするひとが増えた理由は、政府からもらった給付金が尽きて、働く必要が出てきたからだと考えられます。そうなると消費もこれまでの強さを維持できる保証はありません。さらに、ガソリン価格の上昇や学生ローンの返済再開は個人消費を押し下げる可能性があります。

失業率があと0.1%上がってしまうと…

労働市場を見ても、一時のひっ迫感は解消されています。悪化というほどではありませんが、徐々に失業率は高まるのではないでしょうか。前回が3.8%でした。仮に0.1%高まるとどうなるでしょうか。「失業率がたかだか0.1%上がったからって、どうってことはない」と思われるかもしれません。おそらく実態面としては、それほどの変化はないでしょう。

しかし、金融市場が受けるインパクトは、ある程度、大きなものになると思われます。というのも、失業率の3ヶ月移動平均が直近12ヶ月の最低から0.5%ポイント上昇すると景気後退に陥ったと判断するルールがあるからです。元FRBエコノミストのクローディア・サーム氏にちなむ「サーム・ルール」です。今年1月に失業率は最低の3.4%をつけました。仮に年内に3.9%に高まれば、「サーム・ルール」に照らすと景気後退ということになるのです。

そうなった場合、債券市場でも利回りは低下するでしょうし、FRBのスタンスも変化が生じるでしょう。

2024年末のFFレートの予想は5.1%と前回6月時点から0.5%も引き上げられたことで、市場は大きく動揺しましたが、そもそも2024年は「利下げ」という方向性は変わっていません。0.5%も引き上げられたことの示唆は、利下げ開始時が半年後ずれして年後半からとなったということですが、「遅かれ早かれ」の問題でしょう。「利下げ」という基本的な方向性が維持されているなら、いわゆる「パウエル・プット」が復活するということです。それが見えている以上、足元の売られ方は過剰反応だと思うのです。

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