土壇場に強いチームになってほしい…/原ゆみこのマドリッド

[写真:©Atlético de Madrid]

「まだ9月なのにfinal(フィナル/決勝)になっちゃうの?」そんな風に私が我が目を疑っていたのは金曜日、マルカ(スポーツ紙)のアトレティコページを読んでいた時のことでした。いやあ、確かに言われてみれば、現在、7位のシメオネ監督のチームと完全無欠の首位であるお隣さんとの勝ち点差は8。この日曜のマドリーダービーで負けて11となれば、いくら4節のセビージャ戦が外れの集中豪雨警報で延期され、消化試合数が1つ少ないとはいえ、さすがにまだリーガは始まったばかりと目を瞑っていられる差ではありませんけどね。

ただ、何となく思ったのは、とにかく今週のCLグループリーグ1節の結果があまりに対照的でしたからね。更に悲壮感を煽らないと、7万人まで座席数を増やしたシビタス・メトロポリターノのアトレティコファンが無力感に囚われて、一生懸命応援してくれないかもしれないと恐れた番記者のいらぬお節介記事だったんじゃないかということですが、うーん、私だって、ラツィオ戦が終わった時には、「今季も昨季同様、CLグループリーグ敗退で、リーガも早々に4位以上が目標になるんだろうか」と溜息をついてしまったくらいでしたからね。まあ、とりあえず、その火曜の試合から、振り返っていくことにすると。

そう、昨季はグループリーグで1勝しかできず、最終節でレバークーゼンに抜かれて最下位敗退。ELにすら回れず、ヨーロッパから早期完全撤退をした悔しさをバネにスタディオ・オリンピコに乗り込んだアトレティコだったんですが、ゲーム開始から、ずっとラツィオに押し込まれる展開に。それがどういう拍子か、29分、モリーナが右サイドからエリア前に送ったパスに駆けつけたバリオスが力いっぱい蹴ったところ、鎌田大地選手が出した足に当たったボールが軌道を変え、GKプロベデルを破ってしまったから、ビックリしたの何のって。

まるで冗談のように先制したアトレティコだったんですが、その他、前半はラツィオのペッレグリーニが負傷でラッザリに代わったり、シメオネ監督とサッリ監督が揃ってイエローカードをもらっていたぐらいで、そのまま0-1でハーフタイム入り。殊勲のバリオスが後半のピッチに出ず、ヒメネスが入っていたのにも驚かされたんですが、ロッカールームでシメオネ監督にハッパをかけられたか、そこからチームは徐々に調子を上げていきます。といってもGKオブラクがゴールキックをエリア近くにいた敵選手に向けて蹴ってしまい、インモービレのシュートをセーブして、自らのミスを自ら修正した後、モラタのシュートはゴールポストを直撃。ジョレンテのキラーパスから、サムエル・リノが撃った渾身のシュートも敵GKにparadon(パラドン/スーパーセーブ)されてしまったんですけどね。

同点のまま、終盤が近づくと、恒例のリードしたら一歩後退態勢に入ったため、最後は延々とラツィオの攻撃に耐えているだけになったんですが、ロスタイムは昨今にしては短めの4分。何とか逃げ切れるんじゃないかという気がしてきたものの、こんなこと、あっていい?そう、49分、珍しくコレアがカウンターで敵陣に向かって走り出したところをファールで止められたんですが、何故か、彼の方がイエローカードをもらっていたのは序の口で、そこからのFKがラストプレーとなるラツィオのCKが生まれることに。そのCKはエルモーソが胸で弾き、サウールがクリアしたんですが、どうしてこの時に限って、ピッチの外まで蹴らなかった?おかげでボールがカタルディからルイス・アルベルトに渡り、そのクロスをヘッドで同点ゴールにしたのは何と、全員攻撃で上がっていたGKプロベデルだったんですよ!

いやあ、後で聞くと、「あのプレーでは敵GKにマークが付いていなかった」(サウール)だそうなんですけどね。いかにもどこか抜けてるアトレティコらしい話ではありますが、私が違和感を覚えるのは、1-1となったところで試合が終了し、勝ち点2をむざむざドブに捨てたようなものなのに、彼らの試合後のコメントが凄く前向きだったこと。ええ、「Jugamos un gran segundo tiempo. Tuvimos ocasiones/フガモス・ウン・グラン・セグンド・ティエンポ。トゥビモス・オカシオネス(ウチは素晴らしい後半をプレーした。チャンスも作ったしね)」というシメオネ監督に始まって、グリーズマンも「Hemos hecho un buen trabajo y tenemos que seguir/エモス・エッチョー・ウン・ブエン・トラバッホ・イ・テネモス・ケ・セギール(ボクらはいい仕事をして、これを続けないといけない)」と言っていましたし、サビッチなど、「Cero preocupaciones/セロ・プレオクパシオネス(心配はゼロだ)」ですからね。

まあ、これでCL6試合連続白星なしとなったとはいえ、ラツィオはグループ最強と見なされている相手ですし、アウェイということも考えれば、引分けでも御の字という見方もできますけどね。たとえ、移籍市場最終日にレンタルに出したジョアン・フェリックスの2ゴール1アシストの活躍で、同時進行だったバルサがアントワープに5-0と大勝していたとて、どうせアトレティコではそんなプレーはできないんだからと、自分を納得させていたんですが、それも翌水曜、サンティアゴ・ベルナベウにウニオン・ベルリンを迎えたレアル・マドリーの試合を見るまでのこと。だってえ、真逆の結末を見せられたんですよ。そう、ここ数試合は序盤に失点して、お家芸のremontada(レモンターダ/逆転劇)で勝利するパターンが続いていたアンチェロッティ監督のチームだったんですが、5000人のドイツ人ファンに後押しされたCL初出場チームは先制点こそ、挙げなかったものの、大舞台に気おされることなく、0-0を90分間キープ。

もちろん、それにはホセルやロドリゴを筆頭に計22本(枠内7本)もシュートを放ちながら、ゴールが入らなかったマドリーの精度の悪さのおかげもあったんですが、普通、後半ロスタイム5分もあと1分となれば、誰だって、スコアレスドローで終わると思うじゃないですか。それが、アンチェロッティ監督も「もっと前に得点できたが、大事なのは最後にゴールを挙げること。El espíritu de esta camiseta es esto, que nos permite creer siempre/エル・エスピリトゥ・デ・エスタ・カミセタ・エス・エスト、ケ・ノス・ペルミテ・クレエル・シエンプレ(それがこのユニフォームの持つ精神だ。常に自分たちを信じさせてくれる)」と言っていたように、49分、クロースの蹴った短いCKをバルベルデがエリア外から撃ったところ、ゴール前でベルリンの選手2人に当たって落ちたボールをすかさず拾い、シュートした選手が約1名。

それはご存知、ベリンガムで、ええ、彼はリーガのホーム開幕戦だった兄弟分ダービー、ヘタフェ戦でも後半ロスタイムに2-1とするゴールを挙げ、チームに土壇場の勝利をもたらしていますからね。その時同様、「自分はキラーになって、チームを助けるためにエリア内にいたい」という志を貫き、こぼれ球を決勝点に変えたんですが、いやあ。ちなみにアンチェロッティ監督はこのベリンガムの活躍を、「calidad es muy importante, también suerte, pero hay que estar ahí/カリダッド・エス・ムイ・インポルタンテ、タンビエン・スエルテ、ペロ・アイ・ケ・エスタル・アイー(質の高さは重要だが、ツキがあるのも大事だ。それでもあの場所にいる必要がある)」と解説していましたが、そんな選手を獲得できたマドリーだって、相当ラッキーだったかと。

そんな感じの兄貴分のCL初戦だったため、いよいよ日曜午後9時(日本時間翌午前4時)に迫ったマドリーダービーを前にして、私も全然、楽観的ではいられないんですが、アトレティコには追い打ちをかけるように、ふくらはぎを痛めたバリオスが10月の代表戦週間後まで戻って来られないという悪いニュースも。いえ、バトンタッチのように水曜からは開幕グラナダ戦前半6分でハムストリングを負傷し、ずっとリハビリしていたコケがチーム練習に合流しているんですけどね。幸い、ラツィオ戦で途中交代したビッツェルはただのこむら返りだったそうで、アルゼンチン代表戦でケガをしたデ・パウルがまだジム調整の中、ボランチ全滅という事態だけは避けられそうな。え?それよりラージョ戦とスペイン代表ジョージア戦で5得点したところで今回の全盛期が終わってしまったようなモラタの分のゴールを補うため、メンフィス・デパイが復帰したことの方が心強いって?

その一方で、マドリーではベルリン戦も筋肉の負傷で欠場したカルバハルは全治10日となり、金曜から、バルデベバス(バラハス空港の近く)のグラウンドでチーム練習に参加するようになったビニシウスとギュレルもまだダーバーには間に合わないよう。それもここまでマドリーが主にベリンガムの土壇場のゴールで開幕から6連勝していることを思うと、あまり影響なさそうですが、こればっかりはねえ。せめて8月14日以来、ようやく今季2度目のメトロポリターノでの試合を見られることになるファンの期待を裏切らないプレーをアトレティコが披露できるといいのですが。

そしてこの週末、ヨーロッパの大会不参加で、ミッドウィークにしっかり練習できたマドリッドの弟分たちの予定はというと、この6節は揃って日曜試合となり、まずは午後2時(日本時間午後9時)から、ヘタフェがレアル・ソシエダとサン・セバスティアン(スペイン北部のビーチリゾート都市)で対戦。実は前節、サンティアゴ・ベルナベウでマドリーに2-1の逆転負けを喰らったイマノル監督のチームも今週はちょっとアトレティコと似ていて、10年ぶりとなるCLの初陣で終盤、インテルのラウタロウに同点ゴールを決められ、1-1のドロー発進。あまりローテーションはしないようなので、また久保建英選手が先発する可能性も高そうですが、ヘタフェにも早く今季アウェイ初勝利を挙げてもらいたいですからね。

幸い前節のオサスナ戦でベンチにいながら、退場させられたアンゲレリのレッドカードも取り消されたそうですし、今はケガ人もエネス・ウナルとルイス・ミジャの長期リハビリ組だけになったため、相手が連戦で疲れている状況を利用しない手はない?ちないにヘタフェでの注目選手は先週末にヘタフェデビューして、好印象を残した21才のイングランド人FW、グリーンウッド(マンUからレンタル)となりましょうか。

一方、ホーム連戦となるラージョは午後4時15分にビジャレアルをエスタディオ・バジェカスに迎えるんですが、こちらも相手は木曜にELグループリーグ1節パナシナイコス戦をアウェイでプレーして2-0と完敗。前節は金曜試合だったフランシスコ監督のチームの方が休養期間が全然、長いのは有利ですが、ただELあるあるで、アテネでの試合、パチェタ監督はスタメンほぼ全員をローテーションしているんですよね。となると、あまり疲労は関係なさそうですが、せっかく前節アラベス戦で今季ホーム初勝利を挙げ、順位もアトレティコを越える6位まで上がったラージョとなれば、貴重な週末開催ゲームに挑む選手たちもかなりやる気になっているかと。

そして最後に今週は遅れてネーションズリーグ用の招集リストが月曜に発表となり、そこからまた大騒動になっていたスペイン女子代表の様子も報告しておくと、ええ、モンセ・トメ新監督は23人中、W杯王者の15人を含む、サッカー協会の組織改革がなされるまで、招集を辞退するという宣言に署名した20人を指名。彼女たちが翌火曜からの合宿に来てくれるのかという当然の疑問はともかく、今回は運営の方も無茶苦茶で、当初はラス・ロサス(マドリッド近郊)の協会施設に集まるはずだったのが、急遽、合宿地を地中海沿岸のオリバ・ゴルフリゾートホテルに変更って、凄くない?

火曜の午前中にはマドリッドのクラブでプレーする6人のみが空港近くのホテルに集合して、スタッフと一緒にバレンシアに飛び、その他のクラブの選手たちは現地集合となったんですが、最大勢力バルサの8人はフライトの遅れで到着が午後9時過ぎに。これで一応、招集された選手は、負傷で来られなかったエステル(ゴッサム)以外、全員揃ったんですが、それからCSD(スポーツ上級委員会)の委員長を交えて、翌朝5時まで続く話し合いをしたというから、恐ろしい。その間、終わるのをホテルの前でずっと待っていたマスコミにもビックリですが、とりあえず、ルビアレス元会長寄りの協会幹部何人かの首を差し出す代わりに、選手たちがこの代表戦に出場することで決着がついたよう。

FIFAのお墨付きで、今回は招集辞退しても罰金や選手資格停止処分(2~15年)を受けないことを確認した上、合宿を離脱したのはマピ・レオンとパトリ・ギハーロの、昨年中にビルダ監督辞任を求めて招集拒否し、W杯にも行かなかったバルサの2人に留まり、チームは水曜夕方のセッションをこなしただけで、木曜にはスウェーデン戦の行われるイエーテボリに移動。スタジアム練習の前にはアレクシア・プテジャとイレーネ・パレデス(どちらバルサ)が会見し、試合については一切話さず、長年、協会から男女差別されてきたことや、平等を求めての闘いを続ける意志を表明していたんですが…。

やっぱりスペイン女子は世界王者なんですよ!これだけゴタゴタ続きで、練習もようようしていないというのに金曜の試合では前半23分にCKから、マグダレーナ・エリクソン(バイエルン)のヘッドで先制されながら、37分にはアテネア・デル・カスティージャ(マドリー)が同点ゴールを挙げて、1-1で折り返すことに。後半32分にエバ・ナバーロ(アトレティコ)のgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)で勝ち越した後、残り8分にはリナ・ハルティグ(アーセナル)に同点にされてしまったんですが、ロスタイム終了間際、アマイレル・サルレギ(レアル・ソシエダ)がアマンダ・イレステッド(アーセナル)にエリア内で倒され、PKをゲットするとは!マリオナ・カルデンティ(バルサ)がこれをしっかり決め、W杯準決勝でも勝った相手に土壇場で2-3と勝利って、これじゃ、まるでどこぞの逆転体質チームじゃないですか。

まあ、これまで誰1人、経験したことのない騒動の渦中にありながら、ピッチでは決して競うことを止めない彼女たちにはもう、尊敬の念しか沸かないんですが、次のスペイン女子の試合は来週火曜のスイス戦。男子に倣って始まったネーションリーグだけに、レベルの近い強豪チームとばかり当たることになりますが、来年のパリ五輪の切符をゲットするだけでなく、今年の6月にファイナルフォーで優勝して、ネーションリーグ王者となったスペイン男子とも肩を並べられたら、きっと協会の女子代表に対する扱いも更なる改善が期待できるかもしれませんね。


【マドリッド通信員】 原ゆみこ

南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。

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