東京都が卵子凍結に係る費用の助成を開始−−メリットだけではない考えるべきこと

東京都は9月15日(金)、妊娠や子育てをサポートする支援策として、健康な女性が卵子凍結をする際の費用として、最大30万円を助成すると発表しました。将来出産をしたいと思っていても望んだ時期に、さまざまな理由で産める状況にない場合などを想定し、あらかじめ卵子を凍結し保管しておく事で、さまざまなメリットがあるようです。

しかし、そうではない現実もあるように感じました。


卵子凍結と東京都の助成内容

卵子凍結とは、卵巣から取り出した卵子を冷凍保存することをいいます。採取された卵子は専用の液体で細胞を保護し、液体窒素で急速冷凍します。卵子は温度管理が重要で、細胞が元気な状態で冷凍しなくてはならず、急速冷凍することで細胞を壊さず保管することができます。凍結した卵子は半永久的に保存が可能で、妊娠を望む時期まで保存当時の状態を保つことができます。

厚生労働省によると、令和3年の女性の就業者数は 2,980万人で増加傾向にあります。社会で活躍している女性が年々多くなっています。一方で、妊娠・出産が可能な時期と仕事のキャリア形成時期が重なっている事が非常に悩ましく、等しく与えられた貴重な時期をどのように使うのか、考え込んだことがある方も多いと思います。

現在適齢期の方や、これから社会に出ていくタイミングの方などは大いに悩み中である事も想像できますし、既にどちらかを選び、どちらかを諦め、人生を送っている方も多くいらっしゃることでしょう。

卵子凍結は保険適用外ですので、全額自己負担です。体内から卵子を取り出すため15~50万円程度、卵子凍結に卵子1個に対して1~5万円程度必要です。また凍結後の保管料も必要で凍結保存容器1個(卵子2個~3個保存可能)に年間で2~3万円程度の費用がかかります。この様な高額の設定ですと、行動したいと思っていても実際に行えるのは極限られた方だけになってしまいます。

東京都が開始した助成では、対象となるのは都内に住む18歳から39歳の女性で、卵子凍結をした年に20万円の助成が受けられます。また卵子の保管更新を行う際に、都の調査に回答した場合には1年ごとに2万円の助成を受けられます。

今回の東京都の方針は、望んでいても踏み切れなかった方々にとっては朗報となった事に違いありません。また、妊娠・出産適齢期に病気やケガに見舞われた場合などにも、卵子凍結をしていれば気持ちの余裕ができると思います。そのような時のために、保険的な意味合いでの活用も可能です。

選択肢が増えることで、悩みも増える

人間は一般的に加齢とともに体力の低下や病気の発症が増え、卵子も老化して数も減っていき、年齢が増すほど妊娠が難しくなるのは、卵子の質の低下と数の減少が大きな要因との事です。母体の老化は止められませんが、若いうちに卵子凍結を行えば、妊娠しにくいなどのリスク回避もでき、また流産や染色体異常が起こる確率も同様の理由から低下するようです。

私の知り合いの女性で、不妊治療をしていた方がいらっしゃいます。結果的に出産には至らず、お子さんを諦めた状況です。仕事と体調のバランスをとることが難しく、「もう止めようかな」と、何度も思ったそうですが、クリニックで「元気な卵子が取れましたよ」と言われると嬉しくなり、治療を継続することにしたそうです。

割高なクリニックに通っていたため、金銭的な部分に対し納得してはいるものの、妊娠に至らない事に不満を募らせた事は、実際にあったと言っていました。その後、年齢的なリミットタイムと体調の辛さが一気に押し寄せてストップする状況に至りました。

昔から子どもが欲しかったのに仕事が忙しくやり甲斐も感じでいた為、結婚が遅れてしまいました。とにかく気持ちばかりが焦って、周りの人たちからのプレッシャーもあり、とても辛い時期だった、と過去を振り返えっていらっしゃいました。

ここ30年間で、女性の生き方は大きく変化を遂げました。専業主婦という言葉は消えつつあるのかもしれませんが、妊娠・出産が可能な年齢は変えることはできません。ちなみに先ほどの女性は現在、企業で管理職として活き活きと働き、現状はとても充実しているようです。

東京都の取り組みにより、妊娠・出産適齢期に当てはまる方々の選択肢は増えましたが、その分、迷いや悩みも多くなったと考えると、メリットばかりではないのかもしれません。横並びで答えが出る事ではないので、若いうちからこの様な制度を知り、心積りをしておくことが必要だと思いました。

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