弘兼憲史氏「国益になる国際都市」 ILC考、各界著名人に聞く

「ILCは素粒子物理学の分野で日本が存在感を示すチャンス」と語る弘兼憲史氏=東京・六本木

 国際リニアコライダー(ILC)について、何も知らない白紙状態の時、ある人から教えてもらった。三菱重工の元会長、西岡喬(たかし)さん。「実は物理学のすごい事がある」と説明を聞いても最初はなかなか理解できなくて。そこで漫画「会長 島耕作」で分かりやすく伝えようとなった。

 いざ描こうとすると、一生懸命調べるから「こんな意義があるんだ」と理解できた。漫画は小さい吹き出しの決められた文字数に、たくさんの情報のエッセンスを入れていく。ややこしい仕組みも非常に分かりやすくなる。

 作品でも触れたが、かつて日本の素粒子物理学は独壇場で、ノーベル賞をもらった方がいっぱいいた。昔の日本の科学技術は「すごい」と言われたが、今や残念ながらどんどん他国に抜かれている。人口が減ればマーケットが小さくなり、技術もなくなっていく。国内総生産(GDP)が縮小する。国力を上げる努力をしなければいけない。

 僕は文系だけれど、国力は理系が支える面もある。若い人、理系の人に頑張ってもらい、世界的な特許をたくさん獲得できるようになれば、ものすごい国益になる。日本の教育は平等ばかりにこだわるけれど、能力の高い人をどんどん引っ張り上げる視点も必要だ。

 日本にはシリコンバレーのようなものがない。世界の頭脳が集まる国際都市をつくった方がいい。介護などにお金はかかるが、国を発展させるために惜しまず投資する。長いスパンで見て人類にとって有用なことをやる。これこそが先進国の証しだと思うんです。

 ILCは岩手ではみんな知っている。全国の人はと言えば新聞にちょこちょこ載るが、結構難しいから違う記事に目が移ってしまう。実現へ盛り上げていくには、やはり知名度が大事。宇宙の成り立ちを探る大切な研究と言っても分かりづらい。

 そうだ、岩手には世界に通用する大谷翔平選手、佐々木朗希投手がいるのだから協力を得たらいい。両側から160キロのボールを投げ合い、ぶつかったところでビッグバンが起こる。これがILCのイメージだと、CGを使った見せ方もある。

 ILCは頓挫したんじゃないかって言われるが、止まってはいない。これだけ盛り上がった計画が消えてはもったいない。新型コロナウイルス禍が収束してきたし、機運を高めよう。国際都市をつくる壮大な理想に向かって、みんなで頑張りたいですね。(談)

(聞き手は東京支社・下石畑智士、随時掲載)

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