静寂のオアシス。私語厳禁!のカフェ「アール座読書館」に行ってみた

カフェで読書や作業をすることが好きな筆者。

しかし、座席やカフェを訪れる時間帯によって、過ごす時間のクオリティが左右されることも少なくありません。隣の席に座った人たちの会話に耳を傾けてしまったり、電話をしている人の話が気になったり…。

そこで、「いつ行っても存分にリラックスできるカフェに行きたい」と探していたところ、私語厳禁という珍しいルールを設けているお店を発見。

高円寺にある「アール座読書館」を訪れて、店主にお話を聞きました。

私語禁止のカフェ「アール座読書館」とは?どのくらい静かなの?

アール座読書館では、基本的におしゃべりが禁止です。

少し緊張しながら、なるべく静かにお店の扉を開けてみると...

アール読書館

分かってはいたけれど、本当に人の声が聞こえない!なんだか不思議...。しかし冷たい感じや緊張感はなく、よく晴れた日の森のような温かな静けさを感じました。

カップを拭いていた店員さんは目が合うと会釈をしてくれて、お好きな席へどうぞ、というように座席を手で示してくれます。座席に座り、店員さんがお水を持ってきてくださったときも、ひそひそ声で話す徹底ぶり。

店主の渡邊さんに私語禁止というルールの背景について聞いてみたところ、「日常から離れてほしい」という思いがあるそうです。

「アール座読書館は、仕事やToDoリストに追われるような日常から離れていただくことをテーマにしています。カフェや喫茶店に入ると、他人の会話に意識が向いてしまうこともあるでしょう。日常から離れてもらうためには、外界の刺激をなるべくシャットアウトする必要があると思い、私語禁止のルールをつくりました」(店主・渡邊さん)

鉱石博物館から水槽まで。ユニークな座席は全9席

今回選んだのは、柱に囲まれて“おこもり感”のある座席。

「素敵な席だなぁ」と机の周辺を見回していると、引き出しの1つに「鉱石博物館」の文字を発見しました。

好奇心を抑えられずに開てみると、本当に鉱石のコレクションが入っていました。1つひとつに丁寧な解説もついています。これは読み込んでしまう…。

「他の引き出しに拡大鏡もあります」という案内を見つけ、引き出しを物色。「拡大鏡なんて小学校の理科の授業以来使ってないかも」なんて思いながら、じっくりと鉱石を観察してしまいました。

今回の座席以外にも、水槽がある席や万華鏡がある席などがあり、席ごとに違った魅力や楽しさがあるようです。これは気になる...。

「脇道にそれてしまうような仕組みづくりの一環として、面白い座席にしてみました。お仕事や作業で利用される方もいて、もちろんそれはそれでよいのですが、このお店では必要じゃないことをやってほしいなと思っていたりもするんです。実際ギミックに気を取られて手を止める方も多いですよ」(渡邊さん)

「何これ?」なメニューの数々に目移り

一通り机回りで遊んだところで「あぁそうだ、飲み物頼もう」と思い出し、メニューを開いたらびっくり。見たことのない珍しいものばかりなんです。

松葉を燻して香りをつけたラプサンスーチョンという紅茶や、モンゴルの遊牧民のお茶からインスピレーションを得た乳茶など、ページをめくればめくるほど目移りして決められない…。

なんとか選び抜いて注文したのが「キャラメル・ヴァニラ」というフレーバーの紅茶。キャラメルの香ばしさとヴァニラの甘味が優しくて、心が休まります。

店主の渡邊さんによると、メニューはあえて珍しいものを多く揃えているそう。

「メニューの名前で1回、1口飲んでもう1回ひっかかるようなメニューづくりを心がけています。普通にオレンジジュースを頼んでも、予想通りの味で、何の驚きもなく流してしまいますよね。メニュー名はもちろんのこと、風味づけもスパイスが強かったり、すごく甘かったり、あえてちょうどいいラインを超えるくらいの癖が強い味にしてるものも多いです」(渡邊さん)

自由に読める「蔵書」の、幅広いセレクション

店内には読書館の名前にふさわしく、自由に読める蔵書が並ぶ本棚があります。ジャンルは絵本や旅本、画集や写真集など、バラエティ豊かでおもちゃ箱のような本棚です。

題名を見てなんとなく気になった本を手に取り、座席でゆったりと楽しみました。

「蔵書は僕の個人的なコレクションを持ち込んでます。部屋が本だらけだったので…(笑)。パッと開いてすぐに入り込めるような、どこから読んでも楽しめる本を中心にセレクトしているので、画集や写真集、絵本など、文学だと短編や詩集が多いです」(店主・渡邊さん)

安らぎと覚醒。不思議な時間で見つけたもの

しばらくすると、お店の雰囲気に感化されてか、色々な考えが頭の中を巡ります。

これからどんな人生を歩みたいか考えたり、普段あまり辿り着かないような哲学的な思考になったり。そしてこの場所では、まとまりのない考えも、そのまま許されるような感覚がしました。

「自分の中にこんな感情や思考が眠っていたんだ」と静寂の中で驚いたときは、視界スッキリしたようで心地が良かったです。リラックスしつつも、自分の中で眠っていた部分が起こされるような感覚。瞑想やヨガ、サウナの後の爽快感と似たものを感じました。

こんな風に自分と向き合う時間も、忙しい現代社会では忘れてしまいがち。とても不思議で貴重な時間でした。

定期的に「アール読書館」に帰ってきたい

アール読書館

ボーンという古時計の音で我に返り時計を見ると、あっという間に2時間が経過していました。

「すごく有意義な時間が過ごせたなぁ…」と清々しい気持ちでお店を後にしました。都内にこうして心が安らぐ場所があるということ自体が、心の支えになる気がします。

「お店の今の雰囲気とスタンスは守っていきたいです。時代が進めば進むほど、より必要とされる場所なんじゃないかと思っているので。今後の企画として、飲食物じゃないメニューを増やしてみたいなと漠然と考えています。今もお手紙セットは用意しているんですが、こういったメニューのバリエーションを増やしたいですね」(店主・渡邊さん)

静かに本を読みたい人はもちろん、「最近余裕がないなぁ」と感じている人もぜひ行ってみてくださいね。

(ウェルなわたし/ 黒崎 侑美)

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