【稲垣吾郎×真飛聖】グループ解散後の変化「自分がやりたいことをやろう」舞台『多重露光』インタビュー

左から)横山拓也、稲垣吾郎、真飛聖 撮影/藤田亜弓

稲垣吾郎主演の舞台「多重露光」が10月に上演される。気鋭の作家・横山拓也のオリジナル脚本による本作。街の写真館を営むも、親が遺した言葉や期待に苦しむ40代半ばの男・山田純九郎(すみくろう)の姿を描き出す。

相手役の麗華(れいか)を演じるのはミュージカルコメディ「恋と音楽」シリーズで稲垣と長く共演してきた真飛聖。稲垣、真飛、横山の3人が本作への思いを語ってくれた。

【稲垣吾郎×真飛聖×横山拓也】舞台『多重露光』インタビュー写真

本当の自分の生き方を見つけられていない男

左から)横山拓也、稲垣吾郎、真飛聖 撮影/藤田亜弓

――横山さんはどのように今回の物語の着想を得たのでしょうか?

横山 自分が書いてきたものを見返してみると、親と子のドラマ――親子の軋轢や素直になれない部分というのをいろんな作品で書いてきているんですよね。

自分が何にこだわって親子関係ばかり描いているのか? それはいま言語化できないでいるんですが、今回の物語で言うと、僕自身もそうだし、純九郎も麗華もそうなんですけど、自分が傷ついていることとか、「寂しい」と思っていることとについて、うまく“フタ”をできるようになって40代を迎えている人って多いんじゃないかなと感じています。その感覚を作品にしたというのがありました。

純九郎は、この物語が始まる前の時点で、決してそこまで社会性がないわけではなく、それなりにうまくやってきたんだろうと思うんですよね。でも、この年齢(45歳)を迎えて、欠落しているものに対して「埋めたい」という思いや、処理できない気持ちが発露しはじめた瞬間から物語がスタートしているんです。

なので、もともとこういう人物だったというわけではなく、いま、こじれている時期がきたんだなと(笑)。我々は社会でうまく生きていくために、こじらせずに何とかやっていますけど、そこでこじらせちゃった人がいたらドラマになるなと思いました。

左から)横山拓也、稲垣吾郎、真飛聖 撮影/藤田亜弓

――稲垣さん、真飛さんは脚本を読まれていかがでしたか?

稲垣 本当に繊細な人間たちのお話だなと。自分はいつから無神経というか、鈍感になってしまったんだろう――? と思うような……。

真飛 「僕も優しくなろう」とかおっしゃってましたよね(笑)。

稲垣 そういう気持ちを忘れかけていましたよね。家族の話であり、両親の言葉の“呪縛”で自分を締めつけてしまって、四十を過ぎてもいまだにどう生きたらいいのか? 何かから脱することができずに、本当の自分の生き方を見つけられていない男ですよね。自分が理想とする家族の形で生きていくことができず、思い悩んでるんですよね。

そういう感覚は、僕自身、あまりなかったんですよね。あまり家族のことで悩んだことがなくて、それは恵まれていることだし、こういうことを言うこと自体、無神経でイヤなんですけど……(苦笑)。

両親の愛情をいっぱいに受け取っていたし、そこに不満や寂しさを感じることもなかったけど、(純九郎のように感じている人は)きっと世の中にたくさんいるだろうし、いまだに生き方を模索して、「本当の自分でいられない」という思いを抱えている人もいると思います。

僕はどこかでそういう思いを割り切って生きていけるようになってしまったというか、この芸能界で“鈍感力”を身に着けてしまったのか……(苦笑)。たくましくなっちゃって、自分と重なることはあまりなかったけど、いろんな人を「知っていきたい」という思いはあるし、その意味ですごく興味深い脚本でした。

真飛 横山さんの書く会話劇って、日常会話が本当に面白いんですよね。言葉のチョイスだったり、日常で普通に人が話すようなテンションだったりが、いい意味で演劇チックではないんですよね。

物語の中で、写真というものへの執着――人それぞれの写真への思いや、思い出というものに対する思い。撮る側、撮られる側の気持ちみたいなものに初めて触れる部分もあって、「そうか、撮る人って撮られたことがあまりないのか!」と気づかされたりしました。

日常の中でありそうだったことが、この人には足りなかったのか?ということを知ることができる、すごく繊細な舞台で、結末を含めて見る人に想像させる物語であり、面白く感じていただけるんじゃないかと思います。

「解決できていないこと」を抱えた多くの人に響けば

稲垣吾郎 撮影/藤田亜弓

――純九郎の“欠落”であったり、たびたび見せる理解しがたい言動に関しては、どのように受け止めていますか?

稲垣 根本的な話として、俳優が役柄について100%理解できなくてもいいとは思っていて、実際にこの純九郎も理解できないキャラクターなんですよね(笑)。

理解しようとはするけど、神秘的な存在であってほしい部分もありますし、横山さんが描くキャラクターって一見、普通なんですけど、どこかおかしいんですよ(笑)。純九郎だけでなく、(回想で登場する)お父さんもお母さんもおかしいんだけど一見、普通なんです。

よくある人情ドラマでは全然なくて結構、不思議だなと思うし、その不思議さはとっておきたいなと思うんですよね。見る側にとっても「わかる!わかる!」だけじゃないし、僕は全然理解できていないし、それでいいかなと思っています。表現する上で、自分の中での整合性とか辻褄は合っていないといけないとは思いますけど、自分と役との距離があるから演じていて面白いです。

横山さんがおっしゃった「フタをしていた」という言葉はすごく印象的で、先ほど自分は「鈍感になってしまった」と言いましたけど、「とりあえずフタをする」ということに関して、器用になってしまっている部分があるんですよね。

家族のことについては先ほど「悩んだことがない」と言いましたけど、それ以外のことで、まだ執着しているものだったり、解決できていない出来事だったりは僕もあります。それが何かは言えませんけど(笑)。ちょこちょこ夢に出てきますよ。まだ解決できていないこと――それは人間関係のことですけど――、それは誰でもそういうことってあると思うし、いろんな人に響くといいですよね。

生っぽい、リアルな感じをストレートプレイの舞台に

真飛聖 撮影/藤田亜弓

――稲垣さんと真飛さんはこれまでも共演されていますが、お互いの印象や魅力についてお聞かせください。

稲垣 (「恋と音楽」シリーズでの初共演から)もう10年くらい?

真飛 最初が2012年? もうそんなに!?

稲垣 僕のiPhoneに残ってる一番古い写真が2012年なんですけど、「恋と音楽」シリーズの頃の写真が出てきました(笑)。懐かしいなって。僕はミュージカルは初めてで、本当に真飛さんに助けられてきました。歌が本当に苦手で、どうして歌とかやってきたのか? なんで紅白に出たりしてるんだろう?って思いながらやってきたので…(苦笑)、本当に助けていただいた大切な存在です。

そうしたミュージカルでのイメージがあったし、ドラマでもクールな役が多かったんですけど、驚かされたのが草彅剛くん主演の『ミッドナイトスワン』。僕がよく知っている、大好きな魅力的な真飛さんがいて、すごく素敵でした。

市井のバレエの先生の役で、感情をむき出しにするお芝居も素晴らしかったですよね。「(今回のような)こういうお芝居を一緒にやりたいね」という話を実はずっとふたりでしてたんです。人間を描くストレートプレイでね。なので今回、すごく楽しみです。

真飛 私は(「恋と音楽」シリーズが)宝塚を退団して初めての舞台だったんですけど、いきなり稲垣さんの相手役ということで「ウソでしょ?」って感じでした。宝塚の仲間たち以外と個々で集まって芝居を作るという現場が初めてで、現場にどんなふうにいたらいいのかもわからないし、それまで男役を極めてきたので「女子ってどんなの?」って感じで…(苦笑)。

ヒールもそれまで履いてこなかったので、低いヒールでやってたら、吾郎さんが「なんでヒール履かないの?」と聞いてきて「私、背も高いのでかわいげなくないですか?」と言ったら「高いヒールは女子の特権だよ。履いたほうがキレイに見えるんだから、気にしないで履きな」とおっしゃって、何て男前なんだ!! と(笑)。ちょっと泣きそうになりました。普段はクールだけど、内面は本当に優しいんですよ。

左から)横山拓也、稲垣吾郎、真飛聖 撮影/藤田亜弓

――横山さんは、おふたりについてどのような印象をお持ちで、純九郎、麗華という役柄がどのように表現されることを期待されていますか?

横山 真飛さんは、稽古が始まってすぐに、役について引っ掛かることについて言ってくださって、同じ気持ちで作品に向かってくださっているのがすごく嬉しかったです。そこでバーッと書き直させていただいたんですが、僕が気づけなかったところに気づかせていただき、良い改稿をさせてもらえました。

稲垣さんは、映画『半世界』でのお父さん役も意外でしたし、『窓辺にて』は、いままでで一番素敵な稲垣さんを見せていただけて、あのミステリアスな感じは衝撃的でしたし、今回の役にも参考にさせていただきました。あの生っぽさ、リアルな感じをこれまでと違う感じでストレートプレイの舞台上に上がったら素敵だなと思っています。

シンプルに「やりたい」と思えた脚本

左から)横山拓也、稲垣吾郎、真飛聖 撮影/藤田亜弓

――登場人物の心情や物語の結末を含め、「理解できない」と感じる部分も多い、解釈に幅のある今回のようなストレートプレイの魅力をどのような部分に感じていますか? おふたりとも、幅広い層の人々に向けて作られた大規模な作品に数多く出演されてきましたが、そうした作品との違いや面白さを感じる部分はどんなところですか?

稲垣 全国ネットのテレビでも東京ドームでも小劇場であっても、やることは変わらないですし、区別はしてないです。ただ、もしかしたら、エンターテイナーやアイドルという存在は、なるべく人を傷つけず、広く万人に“合格点”をもらえるようにやっていかなきゃいけないという思いはどこかにあったかもしれません。

いまでもその思いはありますけど、もう少し自分がやりたいことをやろうという気持ち、決して多くの人に理解はされないかもしれないけど、やってみたいという気持ちはグループを解散してから出てきているのかな?と思いますね。

いや、昔からあったのかもしれないけど、やれなかったし、求められてもいなかったのかもしれないし、やりたいことと求められることで悩むというのはこの世界、よくあることですよね。ただ、今回の物語に関しては、まず何より、この本に魅力を感じてシンプルに「やりたい」と思えたというのが一番の理由です。

真飛 私はミュージカルをやることが多かったですけど、プロローグからエピローグまで、ひとりの人物の人生を描いたり、ものすごい時間が流れたり、壮大なスケールで描くことが多いですよね。見る方にとっても、それは丁寧でわかりやすいとは思います。

横山さんの作品は、みんなが見た後に「あれってさ…」と話したくなるんですよね。理解できなかったり、感情移入できない人物もいたりするし、でもどこか憎めない……。

私自身、まだ理解できていない部分もあるんですけど、結末も含めてわからなかったりするからこそ、余韻があって、「面白がる」ことができるんですよね。ドラマと違って、毎日、同じことをやるけど、同じものはなくて、“答え”もなくていいんですよね。そこを演じる側も観る側も面白がっていけたらいいのかなと思っています。

ヘアメイク/金田順子[June](稲垣吾郎)、yumi[Three PEACE](真飛聖)
スタイリング/栗田泰臣(稲垣吾郎)、津野真吾[impiger](真飛聖)
衣装協力/ソブ(ブラウス ¥37,400税込)、ダブルスタンダードクロージング(スカート ¥35,200税込)、その他、スタイリスト私物(真飛聖)
取材協力/シャングリ・ラ 東京

公演情報

『多重露光』

脚本:横山拓也
演出:眞鍋卓嗣

演出:稲垣吾郎 /
真飛聖 杉田雷麟・小澤竜心(ダブルキャスト) 竹井亮介 橋爪未萠里/
石橋けい 相島一之

2023年10月6日(金)~2023年10月22日(日)
会場:東京・日本青年館ホール

(ウレぴあ総研/ 黒豆 直樹)

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