心臓発作…19歳息子が倒れる 妻の友人の看護師、偶然近くにいて処置 一命取り留めるも後遺症 夫は救急車を待つしかなく「あの時AEDが身近なら」…そこでAEDの場所わかるアプリ開発

完成した「美杉台地区のAEDマップ」

 埼玉県飯能市の美杉台地区で自動体外式除細動器(AED)の設置場所を示したマップが完成した。心臓発作の後遺症の高次脳機能障害と闘う息子を持つ男性らが、地区の施設や事業所を調査。紙ベースの地図とともに、利用可能な日時などの情報をスマートフォンのアプリから得られる環境を整えた。「息子が倒れたあの時に、AEDが身近にあったら」。そんな思いが込められたマップに、市社会福祉協議会の会長でもある新井重治市長は「心強いものができた」と話した。

 マップ作りに携わったのは、市の福祉計画「はんのうふくしの森プラン」の推進市民会議のメンバーで社会福祉士の伊藤忠一さん(72)ら市民4人と、市と市社協職員の計8人。

 作成の切っかけの一つに、伊藤さんの次男遼輔さん(37)への思いがある。19歳だった2005年、参加していた市民テニス大会で心臓発作を起こして倒れ、心停止になった。一緒に応援していた妻の友人の看護師が心臓マッサージに当たり一命は取り留めたが、心停止の状態は二十数分間続いた。後遺症のため現在も高次脳機能障害がある。

 突然の心停止にはAEDによる速やかな対応が、救命や社会復帰に有効といわれる。総務省消防庁の22年版のまとめによると、一般市民がAEDを使い除細動を実施したケースは1096人で、うち1カ月後の生存者は540人(約49%)だった。

 伊藤さんは、遼輔さんが倒れた当時について「AEDの設置や知識も少なく、救急車の到着を待つしかない状況だった」と振り返り、「あの時にもっと身近にAEDがあったらとの思いがある」と胸の内を明かす。

 伊藤さんがマップの作成を提案し22年11月から作業に着手。今年7月に完成させた。

 モデル地区とした美杉台は市南部に広がる住宅地で、約1万人が暮らす。作成に当たっては全国約33万カ所のAEDの設置場所を示したスマートフォンのアプリ「日本全国AEDマップ」を情報の基準とした上で、「AEDが利用できる日時が入ったマップ作り」を目標に据えた。

 美杉台や西側に隣接する工業団地など約100カ所を個別に回り、設置状況を確認した。地区内のアプリ上の設置場所は13件だったが、ほかにも17件あることが分かった。

 こうした情報を航空写真に落とし込み、B4判カラー刷りの紙の地図にまとめたのが「美杉台地区のAEDマップ」だ。自治会などに計5千部を配布した。マップの裏面では「日本全国AEDマップ」のインストールの手順を紹介。スマホで検索すると、利用可能な日時などの情報を得ることができる仕組みにした。

 20日には作成に携わった伊藤さんと森井健一さん(73)、久保田経夫さん(79)らが市役所に新井市長を訪れ、マップの完成を報告。新井市長は「良い見本ができた。市としてもやりたい」と伝えた。

 伊藤さんは「ほかの地区でも同様の活動が行われ、市全域に広がればと夢見ている」話した。作成メンバーからは「自治会で屋外に設置できるようなことが理想的で、課題でもある」との意見もあった。

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