【どうする家康】千代の再登場で浮き彫りに、於愛の心の変化

古沢良太脚本・松本潤主演で、江戸幕府初代将軍・徳川家康の、厳しい選択だらけの人生を描きだす大河ドラマ『どうする家康』(NHK)。9月24日放送の第36回『於愛日記』では、側室・於愛の方の秘めた本音が、彼女の日記を通して描かれるとともに、懐かしい人の登場にもSNSが湧いた(以下、ネタバレあり)。

『どうする家康』第36回より、笑顔で会話する於愛(右・広瀬アリス)と家康(松本潤) (C)NHK

■ どうする家康、千代と再会・於愛の本心

かつて徳川家を翻弄した武田の忍び・千代(古川琴音)を、鳥居元忠(音尾琢真)がひそかに側に置いていたことが発覚。本多忠勝(山田裕貴)は、千代を真田の忍びと決めつけるが、於愛の方(広瀬アリス)に真意を問われた千代は、「非道なことをさんざんしてきた、私の言葉に信用などありますまい」と語り、元忠をかばうように「もう私のことは忘れなされ」と告げた。

家康に微笑みかける於愛(広瀬アリス)(C)NHK

その姿に、心から慕った前夫を亡くした悲しみを隠し、偽りの笑顔を振りまいていた自分を重ねた於愛は、家康に助言。家康は千代に恨みはなかったことを告げ、正式に妻にするよう元忠に申し渡す。改めて、お互いの存在が救いになったということを、家康と確認しあった於愛だったが、まもなく病で亡くなったことが、ナレーション(寺島しのぶ)で告げられた・・・。

■ 実は支え合いだった関係、於愛と家康

家康との間にできた息子たちが、まだ幼いうちに亡くなったと伝わる「西郷殿」こと於愛の方。その最期の日々が描かれた36回は、彼女が日記を読みかえすという形で、その本音や描かれなかった背景を初めて明かすとともに、家康との関係がもっとも慕っていた相手を亡くした者同士の支え合いだった・・・ということを印象づける回となった。

「築山事件」前後の、家康にとっても視聴者にとっても一番辛い時期に、家康を引っ叩くという衝撃的な形で現れ、その明るい笑顔と大らかさで視聴者も救ってくれた於愛。しかしそれは生来の彼女の姿ではなく、夫の戦死でふさぎ込みがちになった彼女に、家康のもうひとりの側室・お葉(北香那)が助言して、作り上げたキャラクターだったことが判明した。

『どうする家康』第23回より、徳川家康(左、松本潤)と侍女・於愛(右、広瀬アリス)(C)NHK

SNSでは「お尻ぺしーんの印象が強すぎて、その前のこの人の人生を思うことなくてすっごくびっくり」ずっと無理して明るく振る舞ってきたんだなと思うと哀しい」「家康は主であると敬愛してお使えしているけどあくまでも忠誠心であって、愛情は亡き夫へ捧げていると・・・しんどっ!」などの言葉が。

そんな於愛の前に現れたのが、「築山事件」にも大きな関わりを持った武田家の忍び・千代。なんらかの形での再登場はあると伝えられて、筆者は出自の知れない家康の側室のひとりになるかと予想していたが、まさか鳥居元忠と良い関係になるとは! ちなみに元忠が、千代の父と設定された武田家家臣・馬場晴信の娘を側室にしたのは史実に残る通りだ。

『どうする家康』第36回より、家康の前で申し開きする鳥居元忠(音尾琢真)と千代(古川琴音)(C)NHK

SNSではこの思わぬ再登場に「まさかここで彦(元忠)の色恋を、しかも千代と馬場信春の娘と繋げるとは」「女スパイとして働いていた頃と、表情の作り方が全然違っているな。さすが古川琴音」「ここで『(元忠を)慕っています』と言えない千代、偽ることを武器に生きてきた辛さが詰まってて切ない・・・それに同調するのがまさかの於愛なのも切ない」など、驚きの言葉があふれた。

■ 過去に縛られ、愛を否定する千代と於愛

忍びのときに犯した罪の意識から、普通の幸せをあきらめようとする千代。一方、亡夫への引け目なのか、家康は「敬うけど慕う方ではない」と自分に言い聞かせる於愛。過去に縛られて、手に入れた愛を否定するという点で共通する2人が、家康の「幸せになることは、生き残った者の務め」という名言で幸せを認めるというのは、なんとも胸熱な展開だった。

『どうする家康』第36回より、於愛と話す千代(古川琴音)(C)NHK

SNSでも、「彦と千代の嘘から出た真の愛を見て、自分も同じだと気づいた。於愛は、亡夫への深い想いから『殿はお慕いする方ではない』と言い聞かせてきた自分自身から解放された」「千代ちゃんとお愛さまが偽りで笑わなくてもよくなったことがうれしい。自覚なくそれを叶えられる殿」「於愛の方の笑顔も、彦と千代の愛も、偽りがやさしい本物になった」など、感動のコメントが。

正室と嫡男を一度に亡くし、深く傷ついた家康を救い出すことを、自分の役割と思っていた於愛。そして家康はついに、息子の婚礼での愉快なエピソードを、笑いながら話せるようになった。ナレーションでの別れは非常に寂しいが、まさに天から与えられた使命をまっとうしたかのような退場は、いっそ清々しいかもしれない。

SNSでは「於愛ちゃん、これでお別れなんて寂しすぎる」「たとえ最初の笑顔は偽りだったとしても、殿の心を救い笑顔にしてくれたのは、紛れもなくあなたの笑顔なのです」「最後がとびっきりの笑顔の於愛ちゃんでいられてよかった」「あなたこそ徳川家を照らす温かな光。広瀬アリスさん、お疲れさまでした!」など、追悼の言葉が並んだ。

家康の功績そのものではなく、家康がさまざまな人物や出来事を吸収することで、どのように「天下人」になっていくのかを丹念に見せるのが『どう家』のスタイル。今回は於愛を軸にして、戦国女性たちの葛藤やトラウマを描きつつも、生きている限りそれは決して乗り越えられないものではないという、希望のような成長をうながす回だった。於愛はこれで退場となるが、最後の紀行でも紹介された善行によって、極楽の方で家康を見守っていくに違いない。

『どうする家康』はNHK総合で日曜・夜8時から、BSプレミアムは夕方6時から、BS4Kは昼12時15分から放送。10月1日放送の第37回『さらば三河家臣団』では、北条征伐に動いた豊臣秀吉(ムロツヨシ)と、娘・おふう(清乃あさ姫)を嫁がせた北条家との間で、家康が板挟みになる姿が描かれる。

文/吉永美和子

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