残り6周でウイリアム・バイロンが逆転勝利。ヘンドリックに史上300勝目をもたらす/NASCAR第30戦

 ポストシーズンのセカンドステージとなる“ラウンド・オブ・12”に突入した2023年のNASCARカップシリーズ第30戦『オートトレーダー・エコーパーク・オートモーティブ400』は、残り6周で3番手からのリスタートを制して逆転勝利を果たしたウイリアム・バイロン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が、自己最高となる今季6勝目を飾ると同時に、約3週間後に続く“ラウンド・オブ・8”への進出権を獲得。そしてこの勝利が、所属先の名門ヘンドリック・モータースポーツ(HMS)にとって記念すべきシリーズ600勝目、NASCAR史上最多記録更新のチェッカーとなった。

 序盤の3戦はトヨタ陣営が席巻する展開で進んできた今季のプレーオフは、このテキサス・モーター・スピードウェイから次なる段階に突入。タイトルの栄冠に向けた権利保持者も16名から12名に絞られた。

 そんなわずかな空気の変化を表現するかのように、金曜走り出しはマイケル・マクドウェル(フロントロウ・モータースポーツ/フォード・マスタング)が最速を記録する。しかし、土曜の予選に入るとジョー・ギブス・レーシング、23XIレーシングといつものトヨタ陣営がフォートワースの1.5マイルオーバルにアジャストし、今度は「自分の番だ」とばかりにダレル“バッバ”ウォレスJr.(23XIレーシング/トヨタ・カムリ)が奮起。

 3戦連続で予選最速を記録したクリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が9番手に終わるなか「打席が回ってきて成果を出すときが来たら、これが(トヨタ陣営の)選手たちがすべき仕事だ」と語ったウォレスが、クリス・ブッシャー&ブラッド・ケセロウスキーのフォード・マスタング、RFKレーシング勢を退けてのキャリア2回目、今季初のカップシリーズ・ポールポジションを獲得した。

 明けた日曜午後の267周もプレーオフ権を持つドライバーたちが明暗を分ける展開となり、昨季までトヨタ陣営の“顔”として戦ったカイル・ブッシュ(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)は、チームへの無線で「フロントタイヤがパンクした」と伝えたわずか数周後にウォールに激突。一時は先頭集団に加わっていた8号車をなんとかピットレーンまで運んだものの、わずか74周でのリタイアとなってしまう。

「ピットに入るつもりだったが、考え直して『何かが違う、そうじゃない』と伝えた。これはフラット(パンク)じゃないと思ったんだ」と状況を振り返ったカップ2冠のブッシュ。

「その後、クルマはひとりでにターン1のボトムに落ちていった。誰にとってもそれは嫌な出来事で、今日は確かに我々のクルマがトップ5に入ると思っていた……」

 一方、トヨタ陣営内でもベルがレース序盤から無線のジャックに問題を抱え、前戦勝者デニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)はこのコーション中に配下のルーキー、タイ・ギブス(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)とピットロードで交錯。幸い11号車はレース続行が叶うも、ギブスの54号車はダメージが深くここでリタイアを喫することに。

2023年のNASCARカップシリーズ第30戦『AutoTrader EchoPark Automotive 400』にて、ポストシーズンのセカンドステージとなる”Round of 12″に突入した
今度は「自分の番だ」とばかりにダレル”バッバ”ウォレスJr.(23XI Racing/トヨタ・カムリ)が今季初のポールウイナーに
一時は先頭集団に加わっていたカイル・ブッシュ(Richard Childress Racing/シボレー・カマロ)は、ウォールの餌食に
前戦勝者デニー・ハムリン(Joe Gibbs Racing/トヨタ・カムリ)は、このコーション中に配下のルーキー、タイ・ギブス(Joe Gibbs Racing/トヨタ・カムリ)とピットロードで交錯してしまう

■レースに11回ものコーションが入る波乱の展開

 さらに今季のレギュラーシーズン王者であるマーティン・トゥルーエクスJr.(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)がアクシデントで17位に沈むなか、終盤に向けウォレスとともに首位戦線に浮上した2021年王者カイル・ラーソン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)も、この日は99周にわたって先頭を走りトヨタの対抗馬であることを誇示したものの「ただサイド・バイ・サイドで並んだだけなのに、一瞬で失った。かなりガッカリだ」と残り17周でルーズになり壁の餌食に。

 これで自身キャリア最多となる111周をリードしたウォレスが、レースでの栄冠も手にする……かと思われた。しかし最終盤のフロントストレッチでライアン・ブレイニーやオースティン・シンドリックら、チーム・ペンスキー陣営のマスタングらが絡む多重アクシデントが発生し、この日11回目のコーションとなる。

 残り6周で迎えたリスタート。集団3番手に位置していたバイロンは、ここで抜群の反応を示して首位浮上を決めると、最終的には後続を引き離すことに成功。ロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)に1.863秒差をつけ、たった6周のリードでプレーオフ勝利を手にした。

「最後にようやく良いリスタートを切り、ヘンドリックの300勝目を獲得できたが、カイル(・ラーソン)は本当にこの勝利に値すると言わざるを得ない。彼らは1日中本当に速かったし、それが最後にこんな目に遭うのはうれしくないよ」と、まずは終盤にレースを支配した僚友に言及したバイロン。

「でも、この24号車で先頭を走るのは素晴らしかった。コイツはクリーンエアでのバランスが抜群に良くて、そこまではずっとトラフィックで格闘していたからね。蒸し暑くて大変な1日だったけど、この結果を誇りに思うよ」

 さらにチームの歴史的な300勝目について、勝者は笑顔でこう続けた。

「言葉で言い表せるか分からないが、僕は子供の頃からジミー・ジョンソンを見て育ったし、ヘンドリックのファンだった。そして彼本人と知り合ううちにジェフ・ゴードンが本当に好きになったんだ。チーム全員、そしてリック・ヘンドリックが僕のためにしてくれたことすべてに感謝している」

 最終的にベルとハムリンを従え、トヨタ陣営最上位の3位でフィニッシュしたウォレスは「まさに窒息したようなもの」と、最終結果に明らかな失望を示した。

「最悪のリスタートだった。チームにとっても(パートナーの)マクドナルドにとっても憎むべき展開だ。僕らはヴィクトリーレーンに値するとは思うが、何も保証されているわけじゃない。そのために戦っている」と続けたウォレス。

「今日はトラフィックに少し苦戦したが、ゲームに集中し、1日中素晴らしい戦略を立てコースポジションを確保できた。とても良いポイントだと思うしかないね」と、トップ5全員がプレーオフドライバーでありながら、そのウォレスは決勝終了時点で敗退ラインを下回る結果となった。

 併催されたNASCARエクスフィニティ・シリーズ第28戦『アンディーズ・フローズン・カスタード300』は、ジョン-ハンター・ネメチェク(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタGRスープラ)が、こちらも残り7周での逆転劇を演じ、シリーズ&自己ベストの年間7勝目を手にしている。

混乱を経て、タイラー・レディック(23XI Racing/トヨタ・カムリ)がステージ1を制覇した
首位戦線に浮上した2021年王者カイル・ラーソン(Hendrick Motorsports/シボレー・カマロ)も、残り17周で勝負権を失うことに
「チーム全員、そしてリック・ヘンドリックが僕のためにしてくれたことすべてに感謝している」と勝者バイロン
NASCAR Xfinity Series第28戦『Andy’s Frozen Custard 300』は、ジョン-ハンター・ネメチェク(Joe Gibbs Racing/トヨタGRスープラ)が、シリーズ&自己ベストの年間7勝目を手にしている

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