世界と日本の女性ドライバー11名がWEC富士で交流「モチベーションや志の差を感じた」と刺激に

 9月8~10日、静岡県の富士スピードウェイでWEC世界耐久選手権の2023年シーズン第6戦『富士6時間耐久レース』が行われた。そのフリープラクティス1と2が行われた金曜日の夜、LMGTEアマクラスにポルシェ911 RSR-19で参戦するアイアン・デイムスは、日本の女性ドライバー7名をチームのガレージに招待。マシンやドライバーの装備などのピット見学を行い、ブリーフィングルームにて対話会を開いた。

■ガレージを訪れてマシンを目の当たりに

 WECは、モータースポーツに挑戦する女性ドライバーやスタッフの活動を応援する『ウーマン・イン・モータースポーツ』の精神を大事にしている選手権として知られている。

 今回のWEC富士では、サラ・ボビー、ミシェル・ガッティン、ラヘル・フレイという女性ドライバー3名を擁するアイアン・デイムスの図らいにより、日本初となる女性ドライバー限定のプロレースシリーズとして2017年にスタートしたKYOJO CUPの選手らをはじめとする女性ドライバー7名との対面会が実現した。

アイアン・デイムスのドライバー3人 (左から)ラヘル・フレイ、ミシェル・ガッティン、サラ・ボビー

 今回この対面会には、KYOJO CUPに参戦している三浦愛、富下李央菜、バートン・ハナ、2020~2022年までKYOJO CUPに参戦していた猪爪杏奈、2023年FIAガールズ・オン・トラック-ライジングスターズに参戦した高橋佳音、2022年FIAガールズ・オン・トラック-ライジングスターズのファイナリストに選ばれた松井沙麗、大学の自動車部に所属しジムカーナの大会等で活躍している早川杏樹の、日本人選手7名が参加した。

アイアン・デイムスのガレージに集まったドライバーたち

 最初にまずは、アイアンデイムスのピットガレージの見学が行われた。同チームの選手3名によって、ピットの設備やドライバーの使用する装備を実際に手に取りながら説明がなされる。

 次にマシンを前にしてマシンスペック等の詳細な説明へ。ボビーは「このマシンは、レース中に何度も踏むブレーキが特に難しくて、LMGTEカーはGT3カーと違ってABS(アンチ・ブレーキロック。システム)が搭載されていないから、そこで腕の違いが出る」と、ドライバー同士で共有しやすいドライビングの感覚を語った。

自分のシートについての説明をするラヘル・フレイ

■女性としてのレースキャリアを考える

 続いて一行は、富士スピードウェイのパドックビル内にあるブリーフィングルームへ移動して改めて自己紹介を行い、対面会が開始。日本人選手らからの質問にアイアン・デイムスのドライバー3名が回答していった。

 参加した猪爪からは「女性としてのライフステージとレースキャリアを両立させるにはどうしたらいいか」という質問がなされ、まずはボビーが口を開く。

「子どもを産むなら、もちろん自分のキャリアにブレーキを踏まなければいけないと思う。けれど今の私たちは、子どもを産むのはあとでもいいのではないかとも考えているよ」

「自分が知っている女性ドライバーのなかには、私たちとは違って早くに子どもを産んだ人もいるし、もし出産を経たとしても、その後に落ち着いてきたらまたレーシングドライバーに戻ってもいいと思う」

ブリーフィングルームでの対面会の様子

 出産に対して寛容な意見のボビーに続いて答えたのは、ラヘル・フレイ。フレイはボビーに賛同しつつも、より客体的な視点の意見を持ち出した。

「ボビーの言うことももちろんわかるのだけれど、もし実際自分に子どもが生まれたとしたら、それ以降は高いレベルでシリーズを争うことが厳しくなってしまうのではないかと思う。参戦するレースが世界シリーズになれば、その分だけ移動の時間も大きく増えるし、体力の面を考えてみても完璧な両立はすごく難しいんじゃないかな」

「私も、出産した後にもう一度レーシングドライバーになることは可能だとは感じる。けれど、もしかしたらもうトップにはなれないのかもしれない。大事なのは、自分の1番の夢は何かを考えることだと思う」

■世界で戦う女性ドライバーの夢とは

 続いて三浦からは、「今の夢や目標は何ですか」という質問が飛ぶ。こちらにはガッティンが即座に「ル・マンに出場すること」と反応して続けた。

「2019年に、私は初めて夢だったル・マン24時間レースに出走することができた。そこからはアイアンデイムスに移ってルマンに出続けることができたから、ひとつ夢は叶ったんだ」そうコメントしたガッティンはおもむろに左腕の袖をまくり、ル・マン24時間レースとスパ・フランコルシャンのロゴのタトゥーを見せてその愛を伝えて見せた。

ミシェル・ガッティンの左腕に掘られたル・マンとスパ・フランコルシャンのロゴタトゥー

 ボビーも続いて「私も夢はル・マンに行くことだった」と語る。

「いまでは、このアイアン・デイムスと一緒に3回も走ることができた。今度の目標は、ル・マン24時間レースに勝つことだね。今年は行けると思っていたんだけれど、惜しくも敵わなかった。来年には必ず成し遂げてみせるよ」と、実際にル・マン24時間レースに挑戦を続けている女性ドライバーとして力強いコメントを残した

 最後に回答したフレイは、「20年前の私の夢はF1ドライバーだった」と明かす。

「最初はやっぱりF1を目指していたのだけれど、実際のモータースポーツの世界は少し違っていた。大きなチームやスポンサーも関わってくるし、運転技術のみの問題ではなく複雑で難しかった」

「だから、その時は夢をアジャストする必要があった。けど、やっぱり大きな夢は持たないといけないと思う。それとね、そうやって状況も変わると見えるものも新しくなってくるものなんだ」と、参加した日本人にはいとけないドライバーも居ただけに若い選手にも勇気を与える大人なコメントを残した。

■「体力的に整うと、徐々にメンタルも整ってくる」

 ここで、現在はLMP2クラスにプレマ・レーシングから参戦し、過去にはアイアン・デイムスの一員としてミシュラン・ル・マン カップやフェラーリ・チャレンジ・ヨーロッパに参戦したこともあるドリアーヌ・パンが話を聞きつけて合流。急遽の参加ではあったが、最年少10歳の高橋からの「フィジカルやメンタルのトレーニングはどうしているのか」という質問に答えた。

「私は普段からトレーニングプログラムを組んでいる。メニューとしては、ブレーキを強く何度も踏むための踏力や、長時間運転を続けるための持久力を中心に鍛えるようにしている」

「あとメンタル面については、フィジカルコーチがメンタルコーチの役割も担ってくれていて、トレーニングを重ねて体力的に整ってくると徐々にメンタルも整ってくると思っている」と返答。この質問については、参加したドライバーの誰しもが気になっていたようで、アイアン・デイムスの3人も感心する様子を見せた。

 以上で対話会は終了となり、日本人ドライバーらからお礼の品が贈呈され、一同は記念撮影へ。

対面会の後には、全員で記念撮影を行った

 ここで会はお開きとなる予定だったが、パンの図らいによりプレマ・レーシングのガレージも見学できることになった。ガレージ向かうと、リヤカウルが外されジャッキアップされたオレカ07・ギブソンがお出迎え。そしてパンは実際にマシンへの乗り方を説明しながら乗り込んで見せ、一同はLMP2マシンで戦うその姿を実感しながら見守った。

実際にマシンに乗り込むドリアーヌ・パン
メカニックの整備を見つめる富下李央菜(左)と高橋佳音(右)

 パンが実演する様子を見届けて対面会を終えた三浦愛は、「特に若い女性ドライバーたちにこういった機会を与えてくださって嬉しいです。私がもっと若いころにはこういった試みはありませんでしたが、最近は女性ドライバーの取り組みに対す期待や注目度が上がってきていたりしていると感じています」とコメント。

「今回初めて、WECで戦う女性ドライバーたちと会話をして、やっぱり彼女たちの世界を見ているモチベーションや志の差を感じました。私もチームを持ち、女性ドライバーを育てていく立場にあるので、その子たちにどんどん世界を見せていきたいし、自分自身も国内にとどまらず世界に目を向けてチャンスを見つけていきたいなと思いました」

 また女性としてのレースキャリアについての質問を投げかけた猪爪は、「私は自動車運転免許を取得してからレースを始めました。若い選手たちがどんどん増えてきたなかでプレッシャーを感じていたのも事実ですが、今日は彼女たちの話を聞いて、夢を追い続ける限りは第一戦で活躍することができると感じました。運転免許を取得してからレースを始めた人たちにとっての“希望の星”になれたらと、勇気をもらいました」と感想を語った。

KYOJO CUPをプロデュースした関谷正徳氏も同席して様子を見守った
アイアン・デイムスでは女性メカニックも所属する この時は男性メカニックと一緒にアライメントの調整を行っていた

© 株式会社三栄