押し寄せる熱風、ゆがむ視界「呼吸困難で死ぬと思った」 京アニ社員が証言

炎を上げて燃える京都アニメーションのスタジオ(2019年7月18日、京都市伏見区)

 36人が死亡、32人が重軽傷を負った2019年7月の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の裁判員裁判の第10回公判が27日、京都地裁(増田啓祐裁判長)で開かれ、事件当時、現場の京アニ第1スタジオ(京都市伏見区)にいた同社社員の証人尋問が行われた。午後から証言台に立った男性社員は、火災で煙を吸いながら避難した時の様子を振り返り、「呼吸困難でこのまま死んでしまうと思った」と述べた。

 男性社員は当時、入社10年目で作品のスケジュール管理やスタッフのマネジメントを担当。事件の直前はスタジオ1階で事務作業をしていた。

 検察側の尋問に男性が答えた。証言によると、男性は仕事の用事で2階へ上がろうと席を立った時、見知らぬ男が1階に侵入。男が液体のようなものをまいた後、多目的ライターとみられる黒いノズルの先に小さな火が見えた。直後に「室内が真っ白になるくらい光った」といい、自身に熱風が押し寄せた。2階にいる従業員に避難を促すため、階段を駆け上がり「火事だ、逃げろ」と叫んだという。

 建物内に煙が広がる中、2階北側の窓を開け、フロア中央へ床を這うように移動した後、意識がもうろうとし始めた。「視界がゆがむほどだった」といい、再び北側の窓に向かい、外へ飛び降りた。その後、複数の負傷者を介助したという。屋外から見たスタジオの様子について、男性は「壊滅的な状況だと思った」と振り返った。

 起訴状によると、青葉被告は2019年7月18日午前10時半ごろ、京都市伏見区の京アニ第1スタジオに正面玄関から侵入し、ガソリンを社員に浴びせてライターで火を付けて建物を全焼させ、屋内にいた社員70人のうち36人を殺害、32人に重軽傷を負わせた、などとしている。

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