「大男たちが激しく当たっている」高校生のラグビー離れも、地域クラブは学校の働き方改革に向けた“部活動の地域移行”の受け皿にも

この春、ラグビーが盛んな愛媛県松山市の北条地区に新しく“中学生対象”のクラブチームが発足しました。

国が今年度から「部活動の地域移行」を段階的に進める中、一足早く、中学ラガーマン達の受け皿が増えた形となりますが、その背景には何があり、狙いは何なのか。

取材で浮かび上がってきたのは、やはり“あの課題”でした。

4月8日、松山市の北条地区。地元企業の敷地内にある人工芝のグラウンドに、ジャージ姿の子供たちが集まっていました。

北条Jrラグビーフットボールクラブ。4月、新たに発足した中学生対象のクラブチームです。メンバーは現在11人で、地元北条地区をはじめ、松山市内や西条市など4つの学校から集まっています。

指導にあたるのは、辻井將孝(まさたか)監督(40)。元トップリーグ・神戸製鋼コベルコスティーラーズの選手で、かつて京都の伏見工業時代は花園の全国大会で優勝、強豪・帝京大学時代は主将、ここ13年間は滋賀の強豪校・光泉カトリック高でコーチを務めてきました。

北条Jrラグビーフットボールクラブ 辻井將孝監督 「私自身がこのラグビーというスポーツを通じて、いろいろな夢を見させてもらったりいろいろな目標を作らせてもらいました。ここでは、多くの経験をひとりでも多くの子にしてもらって、いろいろなたくさんの夢や目標をもって生活していってもらいたいと思っています」

なぜJrラグビークラブを立ち上げるのか

そんな辻井さんに監督就任を要請するなど、中学生のクラブ創設を中心になって進めてきたのが、地元出身のラガーマン、松江章嘉(あきよし)さんです。

地元の北条少年ラグビースクールでコーチを務める松江さん。小学生たちにクラブ発足の話を初めて伝えたのは、今年2月のことでした。

松江章嘉さん 「2023年の4月から『Jrラグビー』を立ち上げようと思います。なぜこれを立ち上げるかと言うと、みんなにいい環境でラグビーをやってもらいたいからです」

松江さんは、小学生スクールで50人ものメンバーを指導しながらも、中学生の受け皿が限られていることが気になっていたといいます。

松江章嘉さん 「北条ラグビースクールは、北条地区の人間だけではなくて愛媛県各地から受け入れていて、そういう子どもたちもいっぱいいたので、やはりその子らが中学生になってもラグビーができる環境を…という思いでずっと考えていました」

去年5月1日現在、愛媛県内の中学校数は、国公立・私立合わせて132校。このうちラグビー部があるのは、公立では松山市内のわずか4校。私立では愛光の1校のみです。

また、現在活動中の中学生クラブチームも、宇摩ジュニア(四国中央)、愛媛ジュニア(松山圏域)、小松ジュニア(西条)と地域が限られ、南予地方には活動拠点が無いのが現状です。

こうした中、今年度から国が、教諭の働き方改革を念頭に段階的に進める部活動の地域移行を見据えて新たに発足した、北条Jrラグビーフットボールクラブ。現在、週4日活動し、辻井監督がほとばしるラグビー愛を中学生に伝え始めていますが、その原動力には、指導者の道を歩み始めて以来、向き合い続けてきた課題もありました。

“高校生のラグビー離れ”です。

高校生のラグビー離れは「ちょっと危険だから、やらせたくない」から?!

去年の全国高校ラグビー大会県予選、いわゆる「花園予選」の組み合わせ抽選会でも、それは顕著に表れていました。出場チームは前回大会から4チーム減り、過去最少の8チーム。このうち2つが合同チームでした。

また、3年生が引退し、新チームで迎えた今年1月の新人大会では、3位決定戦が「合同1」対「合同3」の合同チーム同士の対戦でした。特に「合同1」の3チームの内、北条と三島は、かつて花園切符を争い続け、県立2強時代を築いたライバルチーム…。部員不足は深刻でした。

07年決勝 〇北条29-27三島
10年決勝 〇北条41-12三島
11年決勝 〇北条27-13三島
12年決勝 北条 0-19三島〇
13年決勝 北条15-24三島〇
15年決勝 〇北条31-29三島

また、県内の高校ラグビー競技人口の推移を見てみると、1987年の659人をピークに減少傾向は続き、2022年は266人。この35年で、ピーク時の約4割にまで減少しています。

ただ、こうした傾向は全ての年代に当てはまるかというと、実はそうでもありません。

高校ラグビー競技人口の主な供給源となる中学生年代の競技人口について、長年、県内外のラグビー競技環境を調査・分析してきた愛媛県ラグビー協会広報委員長、松崎伸一さんの分析によると…

「今、小学校のスクールとか中学校の方々、中学校のジュニアスクールの方々が本当に頑張ってくださっていて、その世代の競技人口は減っていないんです」

松崎広報委員長の調べによると、直近15年間の競技人口は、右肩下がりの高校生に対し、中学生年代の部活動とスクールを合わせた中学・ジュニアは120人前後でほぼ一定です。ということは…

松崎伸一広報委員長 「“高校からラグビーを始めようとする人”が、ちょっと減ってるのかなという感じは個人的には思っています」

ではなぜ高校からラグビーを始める人が減っているのか…。

松崎広報委員長は、トレーニングの進化やワールドカップ人気が逆に影響し、ラグビーが“体格に恵まれた人のスポーツ”と認識され、敬遠されているのではないかと分析します。

松崎伸一広報委員長
「花園で優勝を争うようなチームとかを見てもらったらわかるんですが、すごく体格がいいわけなんですよね。ワールドカップのゲームともなれば、すごい大男たちが激しく当たっているわけですよ。そういうのを見て、例えばご父兄の方々が、自分の子どもさんにはちょっと危険だから、やらせたくないなというのも増えているのかもしれないです」

日本ラグビー協会のデータによれば、花園の全国高校ラグビー大会の8強進出チームの選手の平均体重は、2006年が78.6キロでしたが、2022年が86.9キロと、8キロ以上も重くなっています。

「人間力の強い人材を育成したい…」辻井監督の思いは

こうした時代の流れをふまえれば、少しでも早い時期にラグビーに触れ、ラグビーの本質的な魅力を知ってもらうことでラグビー愛を育むことが大切で、長く競技を楽しんでもらう土台作りのためには、中学生年代の普及・育成こそ欠かせないと、辻井監督は高校の教諭から一転、中学生のクラブチーム監督に就きました。

辻井將孝監督 「子ども達が挑戦する中で、自分自身で色々なことに気づいて、課題が出て、それに向けてチャレンジしていく。そういう人間力の強い人材を育成したいと考えています。やはりこのラグビーというスポーツを好きで、愛して、プレーしてもらえればと思います」

今年度から、全国中学校体育大会にはクラブチームの参加が全競技で認められるなど、部活動の地域移行も本格化していく中学生スポーツ。これまで部員集めに苦労してきたラグビーで、地域クラブはどう育っていくのか。多くの指導者が注目しています。

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