車いすテニス・三木拓也と歩んで5年の大高翔コーチ、パワーテニスの時代だからこそ「チェンジオブペースできる能力が生きる」

三木拓也を指導する大高翔コーチ「チェンジオブペースを生かしたい」

2014年の全仏オープンでグランドスラム初出場を果たして以降、⾞いすテニスの三⽊拓也(トヨタ⾃動⾞/世界ランク9位)は、昨年のUSオープン出場まで8年以上グランドスラムから遠ざかっていた。だが、今年1年を通してグランドスラムに出場すると、全豪オープンでシングルス4強⼊り、ウィンブルドンとUSオープンでは小田凱人(東海理化)と組んだダブルスで準優勝と結果を残した。三木のコーチを5年務める⼤⾼翔⽒に、さらなる高みへ向けた今後の課題や⽅向性、⾞いすテニスの魅⼒について聞いた。

――シングルス準々決勝ではアルフィー・ヒュウェット(イギリス/世界ランク2位)に1-6、3-6で敗れました。コーチから見て、どのような印象を受けましたでしょうか。

ヒュウェット選⼿との対戦では、リターンゲームでプレッシャーをかけたかったのですが、すべてのゲームでブレークポイントがありながら2ゲームしかブレークできなかった。正直、そこは痛かったです。たらればになってしまうのですが、第1セット1-6が、4-3になっていてもおかしくない内容でした。しっかりチャンスを⽣かして、相⼿のリターンゲームにプレッシャーをかけたかったというのが感想です。

――次に対戦するとなったらどういう対策が考えられますか。

第2セットでは三⽊選⼿のボールが深くて、こちらのペースでラリーをする時間帯が多かったので、そのプレーを最初からやりたいですね。ヒュウェット選⼿がラリーの主導権を握ってしまうと決定⼒もあるため、ボールの深さや軌道に変化を加えられればなと思います。

――車いすテニスもパワーを生かしたものになってきています。

その通りで、だからこそ三⽊選⼿のチェンジオブペースできる能⼒が⽣きると思います。⼒に対して真っ向勝負というよりもスライス、⾼い軌道のボール、ボレーなどを組み合わせながら戦えたらいいよね、とプランを⽴てているところです。

――これからの三木選手の課題など教えてください。

バランスを⼤事にしています。先ほどのチェンジオブペースを⽣かしたいのですが、少しムキになったりする時間帯がある。できるだけそこは冷静にやっていこうとしています。

――一緒にチームを組んでどのくらいになりますか。また、この車いすテニスのコーチとなるきっかけを教えてください。

今年10⽉で丸5年になります。国枝選⼿のコーチをやっていた丸⼭弘道コーチのお⼿伝いをさせていただいたことがきっかけです。健常者にテニスを教えていて、それから丸⼭コーチのおかげでこの世界にも⼊りやすかったと思います。タイミングよくジュニアの⾞いすテニスのお⼿伝いもさせてもらえることになりました。

――5年前にスタートした時には戸惑いのようなものはありましたか。

運の良いことに国枝選⼿、三⽊選⼿の2⼈を同時に経験させていただいたので、世界のトップを経験しながらジュニアも経験できました。なかなか濃い時間を最初から過ごせたと思います。⼦供だと特にできることできないことがハッキリしているので、テクニック的にも勉強になりました。

三木拓也のコーチを務める大高翔コーチ

――車いすのテクニックを教えることもあるのでしょうか。

最初はできませんでしたが、今はできます。私、結構乗ってプレーできるんですよ(笑) むしろ、ジュニアを教えるとなると⾞いすに乗れないと説得⼒がない。なので⼦供たちには負けないように頑張っています。

――同じ目線で対等になる意味でも良い取り組み方だと思います。

楽しいです、しかも。トップ選⼿もジュニアもカラダのコンディションがそれぞれ違います。感覚的なところを少しでも感じることが出来るように、実際に乗ってコミュニケーションを図ることは、個⼈的に⼤事なことだなと思い、続けています。

――それが楽しめてコーチングもできることが素晴らしいですね。初めて車いすテニスを観た方は、そのパワーとスピードに驚き、魅了されると思います。大高コーチが感じていらっしゃる魅力を教えてください。

実際に間近で体感するとパワーやスピードはすごいです。その中でも、選⼿によってカラダの状態にも違いがあり、プレースタイルや得意なショットも様々です。⾞いすの形や設定も⼯夫されており、健常の選⼿と⽐べると各選⼿の個性がかなり出ているんじゃないかなと思います。そんな個性のぶつかり合いも魅⼒の1つだと思っています。

――5年前と比較し指導法、練習内容は違うものになってきたのでしょうか。

だいぶ違うのではないかと思います。パワースピードが上がってきている分、ATPやWTAといった健常者のテニスからヒントを取り⼊れていると思います。具体的にはサービスゲームのキープ率をあげる⽅法や、ネットを取る動きなどが挙げられます。

――自分のプレーを良くしていこうとした時にどこを目指して、何に取り組んで目標にするかなど、その積み重ねのポイントとなることを教えてください。

実戦の中で出てきた課題から⽬標⽴てすることを⼤事にしています。具体的な練習プランが実戦感覚と繋がっていることで、練習のための練習にならないことを防ぐのが⽬的です。

――車いすテニスへの魅力について皆さまへ一言お願いします。

⾞いすテニスは健常者と⼀緒にプレーすることも出来るスポーツですし、2バウンドまで許されている点が唯⼀のルールの違いです。が、動きを⾒ると⾞いすをクルクル回転させて相⼿に背中を向けることが多かったり、ジャンプ出来なかったり、横に動けなかったり、かなり特殊な動きが多いです。⾞いすテニスならではの動きや展開も⾒ていただけると嬉しいです。

(三⽊選⼿に関しては)結果を出すことがすべてだと思っていますし、もっとみなさんの⽬に触れる機会が多くなるようにしたいです。そして、実際に観戦していただいた時に「⾯⽩いな」と思ってもらえるようなプレーを出せるようにやっていきたいです。

――これからもエキサイティングな車いすテニスの魅力あふれるプレーを楽しみにしています。ありがとうございました。

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