【MLB】実はおばけフォーク以上!? 千賀滉大を支えたもう一つの切り札

写真:千賀といえばおばけフォークなのは疑いないが……?

9月28日(日本時間)のマーリンズ戦、メッツの千賀滉大が先発登板。3回表にジェイク・バーガーからこの日6つ目となる三振を奪い、シーズン200奪三振を記録した。決め球となったのは84.4マイル(約136km/h)の「おばけ」フォーク。今や千賀滉大の代名詞となった、最強の武器でマイルストーンに到達した。

千賀が1年目からこれだけの投球を見せられた要因の一つにこのフォークがあることは疑いようがない。千賀が今季フォークで奪った三振数は実に107。三振の半分以上を奪ってみせた。打者がスイングした際の空振り率を示すWhiff%は脅威の59.7%。ブレイク・スネル(パドレス)のカーブやスペンサー・ストライダー(ブレーブス)のスライダーといった各球団のエースが誇る決め球を大きく上回り、100打席以上打者と対戦した投手の中で最高の数値を記録した。

また、被打率は.100で、こちらは100打席以上打者と対戦した投手の中で6位。振っても当たらず、当たってもヒットにはならないという、まさに魔球と呼ぶにふさわしいボールだった。千賀の200奪三振はおばけフォークの存在によって成し遂げられたと言っても過言ではないだろう。

ところで、千賀にはもう一つ強力な武器があったことをご存知だろうか?

MLB公式のデータサイト「Baseball Savant」では、「Run Value」という指標を公表している。これは過去のデータをもとにその投球が何点相手の得点期待値を減らしたかを示すものだ。たとえばカウント「0-0」から1ストライクをとれば、そのボールは0.04点分相手の得点を減らしたと計算される。

このRun Valueに基づくと、千賀の変化球のうちもっとも失点を減らしたのは、なんとフォークではなくカッター(カットボール)なのだ。前回登板までのデータだが、フォークは12点失点を減らしたのに対し、カッターは15点も失点を減らしていた。ちなみに千賀以上にカッターのRun Valueが高かった投手はコービン・バーンズ(ブリュワーズ)だけ。千賀はフォークだけではなく、カッターの使い手としてもMLB屈指だったのだ。

ただ、各種スタッツを見る限り千賀のカッターが優秀であるようにはどうにも見えない。Whiff%は18.2%と空振りを奪えていないし、被打率も.255。ほかのスタッツを見ても、千賀の投球の中では打たれがちなボールにすら見える。なぜこのような結果になったのだろうか。

その答えは、少し違う観点から見ると見えてくる。それはカウント別での投球割合だ。千賀はボール先行のカウントでカッターを多用しており、カウント「2−0」では58.8%、「2−1」では51.9%、「3−1」に至っては69%と、実に7割近くカッターを投じている。

ここまでカッターを多用している要因は、確実にカウントを稼ぎやすいボールであるからと推測される。千賀はカッターの58.6%をストライクゾーンに投じており、これは千賀の持ち球の中では最高。相手打者がストレートを待っていることが予想される悪いカウントからでもストライクを取れる変化球という意味で重宝していたことが想像できる。ボールが続き、苦しい場面からカウントを戻すための変化球としてカッターは大きな意味を持っていたのだ。

もちろん、千賀の最強の「決め球」がお化けフォークであることは疑いようがない。だが、三振を奪うためにはカウントを2ストライクまで持ってくる必要があり、そのためにはカウントを取れるほかの変化球が不可欠だ。その点で、ボール先行からストライクを取るために多用されたカッターは千賀の200奪三振を支えた陰の立役者といって差し支えないだろう。

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