災害時に本当に必要な情報とは? 元NHKアナウンサー登坂淳一さんと議論

TOKYO MX(地上波9ch)朝の報道・情報生番組「堀潤モーニングFLAG」(毎週月~金曜7:00~)。9月1日(金)放送の「激論サミット」のコーナーでは、元NHKアナウンサーの登坂淳一さんを交えて、“命を守るための災害報道”について議論しました。

◆災害時のメディアのあり方とは?

1923年9月1日、「関東大震災」が首都圏を襲いました。死者は10万人を超え、約37万棟の住宅が被害を受けましたが、いつ起きるかわからないのが自然災害であり、その際に正しい情報を素早く伝える重要な役割を担うのがメディアです。

災害心理学に詳しい新潟青陵大学大学院の碓井真史教授は災害時のメディアのあり方について、「インターネットにしかできない情報伝達として、今まさにそこで起きていることを素早く情報伝達できる。しかし、ネットしか見ないのは非常に危険。大きなマスコミを見ながらネット情報を補助的に使うことが必要」と注意を促します。

また、碓井教授は時間の経過とともに必要とされるものは変化することから、ニーズに合わせた情報発信が必要と指摘。そして、「災害が今まさに起ころうとしている、起きているときは、その危機感が伝わるような言い方が必要。切迫感を持って伝えたほうが避難行動につながる。(発生翌日は)なぜ地震が起きるのかなど地球規模の話はいらない。もっと生活に役に立つ情報が欲しい」と強調します。

さらに、災害報道に気をつけなければならないポイントとして「悲惨な情報がたくさん流れるが、これは必要でもある。それにより多くのボランティアや支援物資が集まる」としつつも、「一方で、必要以上に悲惨な状況、困っている状況を伝えてしまうのもマスコミが陥りやすい罠」と警鐘を鳴らします。

◆今、考えうる災害事例の課題とは?

災害報道の課題について、株式会社ABABA代表の久保駿貴さんは「失敗事例の報道が少ない」と指摘。例えば、奇跡の生還などは報道されるものの、避難に失敗したことなどはあまり報道されていないとした上で、「被災者に配慮しながら、どう動けば減災できたのかを伝えることが、今後の減災にも繋がると思う」と意見します。

キャスターの堀潤は、東日本大震災の際、宮城県石巻市の大川小学校では、なぜ子どもが死ななければならなかったのか遺族がその理由を求め、最終的には訴訟にまで発展した事例に触れ、「何が起きたのかを共有する、失敗を伝えることは難しいところ」と苦慮。登坂さんは「非常に難しいところだと思うが、失敗事例を私たちがどう受け取り、それを変えられるかが重要」と話します。

堀は、東日本大震災時にメディアが至らなかった点として、情報の"伝え方”を挙げ、「僕らは冷静に伝えることを徹底的に叩き込まれてきたが、大津波が来る、警報が出ているときに、冷静に伝えるのではなく、もっと激しく呼びかけるべきだと。震災後に呼びかけの対応も変わった」と語ると、登坂さんも「震災がターニングポイントになった。いつもと同じではダメだと、議論して呼びかけを変えた」と頷きます。

哲学者で津田塾大学教授の萱野稔人さんは、災害報道の課題について言及。「速報性とローカル」を挙げます。そもそもマスメディアの利点は"速報性”。早く情報を出せて、より多くの人に同時に伝えられるのがメリットですが、萱野さんはそこにはジレンマが潜んでいるとも。「災害が起きた瞬間ほど情報が少ない。そのなかでも早く(情報を)出さないといけない。この問題をどう克服していくかが常に問われている」と言います。

その解決策として、例えば、自治体に集まる情報をいかにリアルタイムに出せるのか、アナウンサーは現場に何を質問すべきかなど「情報が少ないなかでどんな対応をすべきか、常に問い直していく必要がある」と萱野さん。

登坂さんは、報道者として何を聞くべきなのかなどを絶えず検証していたとしつつも「これも非常に難しいところ」と実感を語ります。

堀は災害報道におけるマスとローカルでの違いに触れます。例えば、地域のケーブル局などは家族単位の暮らしを守るための情報を伝え続けることができるのに対し、大きな放送局になればどうしても情報の解像度は広がり「必要な人、誰に届けているのかという思いもある」と話します。

これに対し萱野さんは、「これまで被災地域の一番の情報源は口コミだったが、最近はSNSに置き変わりつつある。そうなるとマスメディアはそのSNS上の口コミをどう支援していくかが重要であるのではないか」と新たな課題を提示します。

また、コラムニストの河崎環さんは「最近はSNS利用者が災害現場を撮影し、それを第一次情報としてテレビが取り上げ、いかにこの災害が大変なものであるか"情緒主義”的に狙っているところがあるが、それによって受け取る側はその災害の本質、(被害の)規模感などが正常化バイアスなどもあり、ブレてしまうことがある」と危惧。情報の伝達に介する人数が増えるほど、情報が違うものになってしまうことを案じます。

◆被災者が本当に求めている情報とは?

災害発生時にメディアが伝えるべきことを専門家に聞いてみると、挙がったのは「災害発生直後の生活情報」、「被害増大を防ぐ情報」、「被害の大き・悲惨さの報道」、「被災者へのインタビュー」、「明るく前向きな情報」。ただ、悲惨なことばかりを伝えても"共感疲労”が懸念され、自分に置き換えることで注意を促すことができるような情報やあえて少し明るい話題なども必要だということです。

堀は熊本地震の際、ある市民とのやり取りを事例として紹介。その市民の居住エリアの水道が復旧したと聞き、赤ん坊をお風呂に入れるために避難所から自宅に戻ったものの、住まいがマンションの高層階だったため水を汲み上げるポンプがまだ復旧しておらず、水道は使えず再び避難所に戻ったことがあったそうで、被災地においては「こうした(細部の)情報も大切」と訴えます。

登坂さんは、そういった具体的且つ個別的な情報の重要性にも理解を示しつつ「両方大事なことは重々分かっているが、そこに辿り着く手前にもたくさんの情報があり、どうしてもそちらに向かってしまうところはある」と苦渋の表情を見せます。

では、災害時に被災者が本当に知りたい情報とは何か。福島のコミュニティFM「FMいわき」の放送制作部課長の坂本さんに話を聞いてみると「(東日本大震災後)全国向けの放送では放射線を浴びてしまったときの対処法として、顔や手を洗ってくださいと情報が出ていたが、原発から近いいわき市内は当時断水しており、そうしたことが満足にできない状況だった。画一的な情報ではなく、変わっていくニーズにあわせて取材先を増やしたりしながら、生きていくために必要な情報をお届けできるようにしていくことが大事」と話します。

その他にも、例えば、水道の復旧状況を順次伝えてはいたものの、リスナーが本当に求めていたのは自分が住んでいる地域がいつ復旧するのかの目処。そこでFMいわきでは、水道局から復旧計画を入手し「今後の予定」を発信するようにしたそうです。

登坂さんはこうした地域局の奮闘を称えつつ、自分たちができることとして「例えば、私は現場の中継などで困っていることや必要なものを聞き、情報を集めて、次の場所で『他の場所では○○が足りないと言っていたがここはどうか』と情報を繋げていくことをやっていた」と明かします。

ここで久保さんからは、どのくらいの規模感で、どんな体制で運営し、災害時には余力があるのかなど、ローカルメディアに関する質問が。堀は「無数にある現場で、誰がその情報を拾っていくのか。今はSNS、個人発信者の情報もあり、それらとも一緒になって情報を発信していくべきだが、それもまた難しい」と現状を吐露。

萱野さんは「マスメディアの特性のひとつに日本全体に情報を流すことができる"同時性”があるが、ローカルな情報を扱うには不向きなところもある」とマスメディアのメリット・デメリットを指摘。

そして、被災地においてはよりローカルな情報を欲しているとあって、そのギャップを埋めるものとして"インターネット”や"SNS”を推奨。「新しいメディアとの構築の仕方はあり得ると思う。マスメディアの役割は、SNSも含めた情報全体のプラットフォーム。最も情報が集まる行政の情報を拾って、どこにどんな情報があるのかが分かる仕組みが作れるかどうか」と新たな形を提案します。

番組SNSには「ポータルサイト作りは各行政でも取り組んでいるようだけど見づらい! ぱっと見ですぐわかるようにサイトを作って欲しい」との声などがあるなか、総じて堀はアメリカで行われている「フェアユース」を提案。これは一定の条件を満たしていれば、ひとつのテレビ局が入手した映像などを他の放送局でも使えるというものですが、日本だと各放送局、さらには同じ局内でも番組ごとに情報を囲ってしまっていて、なかなか難しいそうです。

◆災害報道をより多くの人に届けるために…

最後に、今回の議論を踏まえ、命を守るための災害情報をより多くの人に届けるには何が必要か、コメンテーター陣が提言を発表。久保さんが挙げたのは「多様なエマージェンシープランの準備」です。

久保さんは「行政に情報が集まるとあったが、行政側も報道の準備ができているのか」と問い、「例えば、富士山の噴火が心配されているが、現状では東京までしか影響がないとしていたものが(強風などさまざまな状況の変化により)噴煙が東北に及ぶかもしれないというところまで行政は準備できているのか。今一度見直すべき」とより手厚い事前の準備を求めます。「(被災時に)本当に運用できるのかというところまでやらないと減災には繋がらない」とこれまで以上の警戒を促します。

萱野さんは「日常の中での避難の文化」がいかに醸成できるかが重要であり、「そこでメディアが果たす役割は大きい」と言います。災害が起きてからではできることも限られるため「各人が準備をして、できるだけ早く行動することが減災になる。その行動様式を日頃からいかに醸成できるか」とポイントを挙げます。

河崎さんは、"ローカルメディアとマスメディア”のあり方について言及。「別々の方針で報道されるべきであり、災害からの距離に応じた報道スタンスを各局意識していくことが大事」と主張します。

そして、最後に登坂さんは「いざというときに逃げる行動を起こしてもらうために、経験を多くの人に伝えていきたい」と各人が育んだ経験の伝承を訴えていました。

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<番組概要>
番組名:堀潤モーニングFLAG
放送日時:毎週月~金曜 7:00~8:30 「エムキャス」でも同時配信
キャスター:堀潤(ジャーナリスト)、豊崎由里絵、田中陽南(TOKYO MX)
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/morning_flag/
番組X(旧Twitter):@morning_flag
番組Instagram:@morning_flag

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