社説:水俣病判決 早期の最終解決、判断を

 政府は一刻も早く、戦後の公害を象徴する水俣病の最終解決に踏み出さねばならない。

 京都や滋賀などで暮らす水俣病の未認定患者128人が、国や熊本県、原因企業チッソに損害賠償を求めた訴訟で、大阪地裁は全員を水俣病と認定し、国に計3億5200万円(1人当たり275万円)の賠償を命じた。

 達野ゆき裁判長は「原告らの症状は、水俣病以外に説明できない」と断じた。

 「同じ海の魚を食べたのに、地域で『線引き』するのは理不尽だ」などと訴えてきた人々の思いを踏まえた合理的な司法判断である。国や県の不作為を厳しく指弾した点で画期的ともいえる。

 同様の訴訟は東京、新潟、熊本の各地裁でも争われているが、判決は大阪が初めてとなった。原告らは高齢者も多い。政府は判決を受け入れ、政治判断で速やかに全面救済の道を開くべきだ。

 「公害病の原点」とされる水俣病は公式確認から67年。熊本県水俣市のチッソ工場から海に排出されたメチル水銀が魚介類に蓄積され、食べた人が発症した神経系の中毒疾患である。根治療法はなく、多くの患者が今も苦しむ。

 1973年に熊本地裁がチッソの責任を認めて以降、国は視野狭窄(きょうさく)など症状を限った患者認定基準を設けたが、多くの人が救済から漏れた。2004年の最高裁判決は感覚障害だけで認定できるとし、国や県の責任も確定させた。

 09年に議員立法で被害者救済特別措置法が施行されたものの、対象を水俣周辺9市町に限定。それ以外は汚染魚を日常的に食べていたことの証明を求め、出生年や申請期限も厳格に区切った。

 大阪訴訟の原告は、京滋など関西を中心とした51~87歳。手足のしびれなどがあり、水俣周辺で幼少期を過ごし、汚染魚を多く食べたことが原因だと訴えた。

 判決は個別事情を総合的に考慮して認定すべきとし、地域や年齢の線引きを否定。毛髪に含まれる水銀の調査などを基に、原告らを患者と認定した。長期間を経て症状が出る「遅発性」も認めた。極めて妥当であり、意義は大きい。

 被害の実態を直視せず、患者を少なく捉えて多くを置き去りにする、政府の冷淡な姿勢が改めて浮き彫りになった形だ。

 特措法は「あたう限りすべて救済」を掲げ、被害の全容を把握するための健康調査も求めているが、実現してない。政府の誠実な対応を求めたい。

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