日本製鉄の呉製鉄所 まもなく72年の歴史に幕 地元の思いは

鉄鋼国内最大手「日本製鉄」の呉製鉄所が、9月末ですべての設備を停止し、72年の歴史に事実上の幕を下ろします。戦前から続く呉の重厚長大型の産業を象徴する製鉄所の閉鎖による地元への影響は計り知れません。

日本製鉄瀬戸内製鉄所呉地区が、工場の屋台骨「高炉」の火を落として2年です。そして、9月末ですべての設備の操業を止めます。すでに解体が始まった構内では、本格的な解体作業もまもなくです。安養巧さんは、9年前に製鉄所を退職。製鉄所を見下ろせる自宅から見る風景に、寂しさを感じる日々です。

■呉製鉄所OB 安養巧さん

「いろいろな音もあったり、光が見えたり、時には火が見えたり。全くなくなりましたからね。見ても寂しいですよ」

海に沿って広がる工業地帯。戦前から、海軍関係の施設がたち並び、戦後は造船や鉄鋼などの企業の進出が相次ぎました。ひときわ目立つ日本製鉄の呉製鉄所は、東京ドーム30個分の広大な敷地にあります。

製鉄所が呉海軍工廠の跡地に完成したのは1951年。「日本製鉄」と合併するまでは「日新製鋼」の拠点工場として、戦後の呉経済を牽引してきました。

しかし、海外の競合企業の台頭などで、鉄鋼業界はかつてない逆風に晒されます。

呉製鉄所閉鎖の方針が突然示されたのは、2020年2月でした。その1年半後には、製鉄所のシンボル「高炉」を停止。9月14日に製品の出荷を終え、9月末ですべての設備の操業を停止します。

元従業員の安養さんは、閉鎖が決まってから工場を記録し続けています。

7月24日に撮影した写真では、煙突が解体されています。

安養さんは石川出身です。高等専門学校で電気工学を学び、20歳の時、呉に配属。以来、製鉄所の保守や管理などに携わりました。呉製鉄所とともにあった半生です。妻の和恵さんとは職場で結ばれ、長男は今も製鉄所に勤務しています。

■呉製鉄所OB 安養巧さん

「うちの息子が現役ですから。息子がくれたんです」

閉鎖を前に、従業員に配られた最後の記念品。裏には「ありがとう」の刻印です。

■呉製鉄所OB 安養巧さん

「ありがとうは私たちが言いたいですよね。ずっと働かせてもらったんですから」

製鉄所には、かつて3300人が働いていました。その3分の2以上が協力会社の従業員でした。閉鎖が発表された時点で、広島県内の取引企業は117社。その多くが別の事業への転換を余儀なくされています。

呉市に本社を置く、リサイクル業の「こっこー」。

約130人が、製鉄所で水や資材を循環させる作業を担っていました。雇用を守るため、新たな分野を開拓しています。

■こっこー 槙岡達也社長

「こちらが昨年4月に導入した竪型破砕機」

廃棄された家電製品などから鉄を抽出する機械を導入し、プラスチックを含む製品も自社で扱えるようになったと言います。

■こっこー 槙岡達也社長

「自社でやることにより、雇用を生むこともできるし、積極的に今後も設備の導入や投資で事業を広げていきたい」

作業にあたるのは、入社9年目の扇元さんです。閉鎖に伴う配置転換で、製鉄所から本社に異動しました。

■入社9年目 扇元孔明さん

「入った時からほとんど(製鉄所の)中がメインでしたので、戸惑いの方が大きかったんですけど、新たな仕事ですべてがイチからなんですけど、周りのサポートもあって、充実した日々を送っています」

そして今後の大量の廃棄を見越して「太陽光パネル」のリサイクル施設を新たに設置。さらに、広島市の土木工事会社を子会社化し、公共工事に参入しました。加えて、新たな事業開拓を目指し、社内からアイデアを公募。売り上げの15%を占めていた製鉄所関連に代わる事業を模索しています。

■こっこー 槙岡達也社長

「長年日本製鉄さんの中で従事してくれた当社の従業員に対して尊敬の思いもありますし、感謝の思いもありますので、なんとか彼らの雇用を守って、幸せを実現したい」

呉市内のタクシー会社で乗務員を務めて17年になる小原さんです。

■合同タクシー 小原勝司さん

「あの日新製鋼が、まさかという感じですよね」

製鉄所を訪れる人の送迎で、何度も通った道です。

■合同タクシー 小原勝司さん

「高炉の修理で全国からいろんな職人さんが呉のホテルに泊まって、その送迎が朝昼晩とありましたから、あの時はタクシーが足りないような状態だった」

呉市中心部にあるお好み焼き店は、製鉄所で働く人たちで賑わったといいます。

■れんが亭 田村拓二店長

「多い時は3日連続とかよく来てもらいました。人口も減るし、若い力も減るし、飲食店も影響は出ていると思うので残念に思っている」

安養さんが、製鉄所を退職して9年。OB会の事務局長として、毎年開かれる会合の幹事などを務めてきました。一時は2000人近くが所属していたOB会は、ことし5月に解散しました。

■呉製鉄所OB 安養巧さん

「もちろん寂しい気持ちは強いんですけど、大変な仕事で楽をしたとは一言も言えませんが、それはものすごい今となってはいい思い出」

ものづくりの街・呉を支えた製鉄所は、まもなく72年の歴史に幕を下ろします。そして10月から本格的な解体を開始。10年をかけて、巨大な工場の解体を終えるとしています。

【2023年9月29日放送】

© 広島テレビ放送株式会社