さいはての哀歓、心情に訴え 常盤貴子さん珠洲で朗読劇

28日に関係者を招いたプレビューイベントで、物語の世界に観衆を引き込む常盤さん=珠洲市大谷町

  ●女性たちの物語表現

 珠洲市全域で開催中の奥能登国際芸術祭2023(北國新聞社特別協力)は29日、北國新聞でエッセー「月がきれいですね」を連載中の俳優・常盤貴子さんが主演する朗読劇「うつつ・ふる・すず」が開かれた。真っ赤な衣装に身を包んだ常盤さんは、漁網や農機具など能登の営みを伝える民具に囲まれながら、断崖に根を張るツバキの木を演じた。「さいはての地」の女性たちへの聞き取りによって紡がれた哀歓の物語を、心情に訴える名調子で読み上げ、観衆の心を揺さぶった。

 会場となったのは、珠洲市大谷町の劇場型民俗博物館スズ・シアター・ミュージアム「光の方舟(はこぶね)」。能登の祭礼で使われる御膳(ごぜん)や農機具、漁網、古い家電製品などが展示されており、ツバキの木の役どころを務めた常盤さんの姿が溶け込んだ。

 脚本は詩人の大崎清夏(さやか)さんが手掛けた。大崎さんが地元の民話や伝承に加え、自ら住人の女性らに聞き取って書き下ろしたストーリーを、常盤さんが情感たっぷりに披露してみせた。

  ●飯田高生、ウミネコ役

 物語は馬緤(まつなぎ)町の大崎島に残る「狐(きつね)の嫁入り伝説」から始まり、ツバキの木に珠洲の言い伝えを教えるウミネコ役を飯田高生3人が担った。常盤さんが観衆と手拍子を合わせ、地元の民謡を唄う場面もあった。

 常盤さんは能登を舞台にしたNHK連続テレビ小説「まれ」に出演した。朗読劇は常盤さんの夫である演出家の長塚圭史さんが演出、作曲家の阿部海太郎さんが音楽・企画を担当した。阿部さんは石川県出身の俳優・浜辺美波さんがヒロインを務めるNHK連続テレビ小説「らんまん」の音楽も手掛けた。

  ●「聞き取った話がそのまま物語に」 脚本・大崎さん語る

 朗読劇に先立ち、珠洲市飯田町の「さいはてのキャバレー」で、大崎さんや長塚さん、阿部さんらによるトークイベントが開催された。大崎さんは「珠洲の女性たちはバイタリティーがあり、一人一人が一日一日を真面目に生きている。地元で聞き取った話はあらためて構成しなくても、そのまま物語になると思ったほどだ」と振り返った。

 大崎さんが取材した飯田町の坪野節子さん(63)もトークに加わった。朗読劇は30日も上演される。チケットは完売した。

  ●コンサート、定員に

 常盤さんが団長を務める珠洲焼応援団が10月1日に珠洲市生涯学習センターで開く復興応援ゴスペルコンサート(北國新聞社後援)は先着100人の定員に達した。常盤さんや長塚さん、阿部さんをはじめ、俳優の仲間由紀恵さん、田中哲司さん、北村有起哉さんらが費用を寄付した。

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