“呉のシンボル” 製鉄所が完全閉鎖 元従業員夫婦が始めたお好み焼き店「離れることは選択肢になかった」 どうする再就職&跡地利用

9月30日、72年の歴史に幕を閉じる “呉の製鉄所” ―。

新たな道を歩み始めた元従業員たち―。

お好み焼き店の夫婦
「主人がずっと日鉄しか勤めていなくて、ほかの仕事ができるのかと」
「そりゃあ、不安ですよね、この年でまたイチからですから」

跡地の活用策は…?

日本製鉄 瀬戸内製鉄所
「(跡地の活用策について)具体的なことは控えさせていただきます」

地元の経済界は―
「土地が広すぎるものですから、民間企業だけではどうにもならない」

広島・呉市の経済を72年にわたり支えてきた製鉄所(日本製鉄 瀬戸内製鉄所呉地区)でした。

▽2020年2月 閉鎖を発表
▽2021年9月 高炉停止
▽ことし8月 製造工程終了
▽9月14日 出荷作業終了
▽9月30日 完全閉鎖

製鉄所の完全閉鎖で変わる “呉の街” を取材しました。

ランチタイムでにぎわう「お好み焼き おかみね」。呉市中心部で店を営むのは、岡峰さん夫婦。店を切り盛りするのは、調理士経験のある妻の早苗さんです。

岡峰早苗 さん
― 何を作っている?
「『さなえ焼き』と言って、ふつうのお好み焼きの上にすじコンニャクをのせています」

― 早苗さんの名前で看板料理なんですね。

夫の忠司さんは、資格を生かし、企業バスのドライバーをしながら早苗さんを手伝っています。

岡峰早苗 さん
「たまには皿洗いくらいできるんかなあと」

岡峰忠司 さん
「いやあ、手伝っていますよ。毎日じゃないけど…」

岡峰早苗 さん
「(店に)ほぼいないです」

メニューも50種類以上と豊富で、お客さんが絶えません。

お客さんたち
「『すじコン』がめっちゃおいしいです。どこに出しても恥ずかしくない味です」
「すごく安心する場所。母親みたいな…、第二の母なので」

店は、ことし1月に開業したばかりです。

忠司さんは38年前、親せきに誘われ、日本製鉄 瀬戸内製鉄所の前身「日新製鋼」に入社し、大型重機の運転などに携わってきました。

岡峰忠司 さん
「3交替で勤務して朝昼晩、24時間動くんですけど、たいへんでしたね」

当時、製鉄所は “重厚長大” 型の産業を支えた呉市のシンボルでした。

岡峰忠司 さん
「38年間、お世話になって、すごく思い入れもありますし、ある程度、誇りもありました」

2020年、“製鉄所の閉鎖” は突然、発表されました。

岡峰忠司 さん
「一番最初に聞いたときはデマじゃないかというくらい、それくらいの驚きです」

会社に残り転勤するか、それとも呉に残るため退職するのか…

岡峰忠司 さん
「(高齢の)親もいるし、呉から離れることは選択肢になかったですね。それが一番ですよね」

2021年、忠司さんは日本製鉄を退職し、呉に残ることを選択しました。

岡峰早苗 さん
「主人がずっと日鉄しか勤めていなくて、ほかの仕事ができるのかとか、いろいろ悩みましたね」

岡峰さん夫婦は、知人が高齢でお好み焼き店を閉めることを知り、引き継ぐことを決めました。お好み焼き店を開くことは、早苗さんの夢でした。

岡峰早苗 さん
「協力してくれるって、みんなが言ってくれて、そこに少し甘えて、いちかばちかやってみようかなと。ダメだったらすぐやめようと」

岡峰忠司 さん
「軽い気持ちだったんですよ、わたしは。鉄板で焼いて出せばいいという感じだったが、料理するにあたって保健所に許可もらったりとか、飲食組合に入るとかいろんなことがありました。ここに至るまで」

岡峰さん夫妻は、呉商工会議所に相談し、公庫から融資を受け、オープンにこぎ着けました。

小林康秀 キャスター
「製鉄所閉鎖に伴う退職者の支援を行っているという呉商工会議所です。今回の閉鎖で地元経済界としてはどんな対応をしているんでしょうか」

岡峰さん夫婦の相談を受けた呉商工会議所の 若本祐昭 会頭に聞きました。

呉商工会議所 若本祐昭 会頭
「最初にご夫婦で来られて、日本製鉄を離職するので新しい仕事を始めたいということでお話がありまして、こういうふうな方法はいかがですかとか、どれぐらいのお金が要りますかというアドバイスから始まって、それに必要な申請の作業まで岡峰さんの場合はさせていただいた」

若本会頭によりますと、岡峰さんのように製鉄所閉鎖で商工会議所の支援を受けて創業したケースは5件。中には「アサリの養殖」に挑戦した人もいるそうです。

再就職についても、労働局などと10回を超える合同企業面接会を開催してきました。

若本祐昭 会頭
「ことし7月末現在、615人の方の再就職先が決まっていると聞いています」

製鉄所閉鎖が発表された2020年、構内の従業員は3300人でしたが、この3年間で退職や転勤が進みました。

県によりますと、退職者は合わせて1100人。このうち9割は地元の支援などを受けて転職が決まったといいます。

小林康秀 キャスター
「製鉄所の中には多くの重機が入っていて、解体工事が行われています。炉の近くの赤茶けた施設も中のパイプがむき出しになっています。この敷地の広さはマツダスタジアムの36個分ですが、この敷地がどのように活用されるのか、今後の “呉の分岐点” になるといっても過言ではありません」

残されたもう1つの課題が「跡地利用」です。日本製鉄は、活用策については明言を避けています。

日本製鉄 瀬戸内製鉄所 今居武士 所長(9月4日)
「具体的なことは、さまざまな検討を行っていますけども、この段階でお話するところまではいっていません」

130ヘクタールの広大な敷地面積。電気や水などのインフラが整備され、船舶が接岸できるふ頭も備わっています。地元では、さまざまな活用案が飛び交っているといいます。

呉商工会議所 若本祐昭 会頭
「病院船を誘致するとか、例えば発電所を作るとか、せっかく自衛隊がおられるので自衛隊の拡張とかというふうなことの話は聞いておりますけれども、具体的には何も進んでないと聞いております」

日本製鉄は、解体工事の完了には今後、10年程度かかるという見解を示しています。

若本祐昭 会頭
「あれだけの広い場所なので工業団地とかではなくて、日本のここ(呉)でそれは開発されているんだよっていうふうなもの(最新の研究施設)がいいんじゃないかなと思います」

取材したこの日、「お好み焼き おかみね」に若本会頭の姿がありました。

小林康秀 キャスター
「会頭、いかがですか? がんばっていらっしゃるのを見て」

若本祐昭 会頭
「ありがたいことだと思います。もっともっとがんばっていただいて、どんな支援でもしますので」

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