リル・ウェインのベスト・ソング25: “現役最高ラッパー”によるの必聴のトラック

Photo: Nicholas Hunt/Getty Images for BACARDI

2005年のアルバム『Tha Carter II』で“現役最高のラッパー”を自称して以来、ニューオリンズ出身のMCであるリル・ウェインはその称号に恥じない活躍をしてきた。ジュヴィナイル、B.G.、タークとともにホット・ボーイズとしてキャッシュ・マネー・レコードからデビューして名を上げたリル・ウェインは、すでに20年以上のキャリアを誇り、現在では、史上屈指のセールスを記録するアーティストにまで成長した。

そんなリル・ウェインの代表曲の数々を振り返ればわかるように、彼がヒップホップのカルチャーに与えた影響は計り知れない。2000年代半ばにはどこに行くにも彼の楽曲がひっきりなしに流れていたほどだ。そして、ここではそんなリル・ウェインの楽曲のベスト25をランキングにした。現在でも、この世界は“ウェインズ・ワールド”であり、我々はその中に生きているのだ。

25位:Drop The World (feat. Eminem)

ウェインの楽曲にはめずらしくないが、「Drop The World」はリリース前から伝説になっていた。『Rebirth』の中でも同曲が注目を浴びたのは、特にヴァースに比重が置かれた楽曲だからというだけではない。そもそもウェインがトップに上り詰めたのは、エミネムの薬物中毒が深刻化して間もない頃だった。だからこそ2009年にエミネムがシーンに復帰した際には、いつふたりのコラボが実現するかに関心が集まった。

彼らほどの大物にはめずらしく、それまでふたりの共演はなかったのだ。結果として誕生したのは紛れもない名曲だった。「Drop The World」は、翌年にかけてふたりが発表する3曲のコラボレーションのうち最初 (かつおそらく最高) の1曲だ。

24位:30 Minutes To New Orleans

古くからのファンに聞けば、リル・ウェインはリーク音源によって遅ればせながら成功を手にしたというだろう。2007、2008年頃には、DatPiffやSOHHといったサイトでウェインの新曲をダウンロードできた。そうしたリーク音源をきっかけにここまで有名になったのは彼くらいである。

一方、そうしたサイトに楽曲のフル・ヴァージョンや、ミックス/マスターが施されたヴァージョンがあったかというと、ほとんど存在しなかった。おそらくその最たるものが「30 Minutes To New Orleans」である。ドキュメンタリー映画『The Carter』の中でウェインがツアー・バスの中でラップしたことで日の目を見た同曲だが、フル・ヴァージョンが世に出るまではしばらく待たねばならなかった。

23位:Georgia…Bush

「Georgia…Bush」はリル・ウェインのカタログの中でもめずらしい楽曲だ。それどころか、ラップ界全体を見回しても似た曲はほとんど見当たらない。まるでお笑い芸人がドラマに出てすばらしい演技をしたときのような逸品である。

同曲のヴァースは痛烈で、フックはさらに強烈な内容だ。それさえあれば何もいらないだろう? 同曲を収録する『Dedication 2』は、『Tha Carter III』から『Tha Carter IV』までの新たなステージにウェインを押し上げたミックステープのひとつだ。また、同曲で幕を下ろすミックステープの流れは、リル・ウェインのキャリアのひとつの頂点といってもいいだろう。

22位:Nightmares Of The Bottom

シングルとしての公式リリースこそなかったが、「Nightmares Of The Bottom」は『Tha Carter IV』に欠かせない楽曲のひとつだ。ウェインはそれまで数年をかけてロックスターのイメージを構築しようとしていた。そしてライカーズ刑務所で刑期を終えた後も、『MTVアンプラグド』で新曲を初披露するなどロックスター像は確立されつつあった。

そうした中にあって「Nightmares Of The Bottom」は、それ以前のウェインが作りそうなビートの楽曲だったが、『Tha Carter IV』においては公式シングル2曲に挟まれた配置となることでよりその魅力が際立っていた。

21位:Problems

『Tha Carter V』を半分も聴けば、これだけ待った甲斐があったと確信できる。同アルバムは冒頭から凄まじい勢いで、リリースが遅れたことによる疑念を晴らしていく。そして「Problems」に辿り着く頃には、やはりウェインは一流だと思わせてくれる。

彼らしいフロウで最高のフックを作る力量は少しも衰えておらず、むしろあまりに滑らかで言葉遊びの巧みさを見逃してしまうほどだ。同曲のフックはその抑揚のメリハリによって強い存在感を放っている。

20位:I Miss My Dawgs

「I Miss My Dawgs」はいくつかの意味で痛烈な楽曲だ。若い頃のリル・ウェインは、元レーベルメイトたちとの不和を楽曲にして、包み隠さず率直に明かしていた。彼が今も同じレーベルに残っているのは皮肉といえる。

同曲はウェインが声を自在に変化させられる才能を発揮し始めた楽曲でもある。鋭いしわがれ声から、耳に付くような図太い声へ瞬時に切り替えられるのだ。2004年の『Tha Carter』ですでに、ウェインが伝説となる下地はできていたといえるだろう。

19位:3 Peat

ウェインの記念碑的アルバムのオープニングを飾る1曲は偉大だ。重厚なビートに乗せて、彼は3分間休みなくラップし続ける。『Tha Carter III』は、ラップを存分に披露しつつ大胆にポップへ舵を切った作品だ。

同作では風変わりな「Phone Home」やウェインが登場人物になり切る「Dr. Carter」など収録曲の幅は広い。「3 Peat」があまりに印象的だったために、ウェインは以降の曲で何をやっても許されるようになったといえるだろう。

18位:Birdman – Money To Blow (feat. Lil Wayne, Drake)

ウェインとドレイク、それにバードマンの3人がともに制作した楽曲は数多くある。しかし、そのほとんどはヒット曲になり得る出来にもかかわらず、バードマンのプロジェクトやウェインのミックステープに組み込まれ公式にはリリースされなかった。

そういうこともあり「Money To Blow」は、3人を結びつけるバードマンの生き様を象徴するような1曲だ。かつてのドレイクらしさが色濃く出たフックが特徴で、先見の明が光るウェインのリリック「ドレイクがフックを歌えば安泰さ (We gon be all right if we put Drake on every hoooook」で最高潮を迎える楽曲だ。

17位:Fat Joe – Make It Rain (feat. Lil Wayne)

ウェインがゲストで参加した初期の名曲のひとつである「Make It Rain」は、彼が飛ぶ鳥を落とす勢いで快進撃を続けていた頃のものだ。なんと同曲で彼はフックしか歌っていない。ウェインは昔からフックを得意としていたが、その側面は彼のキャリアにおいても見過ごされがちだ。

また、ゲスト・ラッパーとしても注目されづらいスキルである。彼ほどの大物ラッパーがファット・ジョーの楽曲に参加するということ自体が、00年代のヒップホップ・シーンの急速な変化を物語っていた。

16位:Juvenile – Back That Thang Up (feat. Mannie Fresh, Lil Wayne)

「Back That Azz Up」はウェインの楽曲でもないのに、彼のベスト・ソングのひとつに数えられる。彼はアウトロでゲスト参加しているに過ぎない。同曲でのウェインのリリックはそこまで出来のいいものではないが、黒人コミュニティのパーティの定番曲としての重要性は大きい。

また、未来のスターとしてのウェインの可能性も十分感じられる。当時の彼はまだソロ・デビューすら果たしていなかったが、その佇まいだけでもカリスマ性が滲み出ている。

15位:Tie My Hands (feat. Robin Thicke)

ウェインはハリケーン・カトリーナの影響やブッシュ政権について多くのラップを発表してきた。その表現は露骨なこともあるが、ロビン・シックをゲストに迎えた「Tie My Hands」はその真逆といえる。抑制の効いたシックの声には希望が感じられ、 (時には狂気的なほど) 悲しみに沈んだウェインと好対照になっている。ウェインほど故郷との結びつきが強いラッパーもめずらしい。

14位:Grown Man (feat. Currency)

ウェインは「Grown Man」のような曲を多く作り出している。つまり、リラックスしたサウンドでありながら、セクシーさを前面に押し出さない楽曲だ。中でも『Tha Carter II』におけるこの類の曲は、他よりも説得力がある。

この頃は、彼の名声と技量のバランスが丁度いい塩梅だったからだろう。それ以降はビッグになり過ぎて、ここまで肩の力を抜いた作風が難しくなったのだ。

「Grown Man」が名曲なのはそのビートのおかげでもあるが、チルの代名詞といえるカレンシーがゲスト参加していることも大きい。彼とウェインはどちらも充実したキャリアを重ねているが、ウェインのスタジオ音源でコラボしたのは同曲のみである。

13位:This Is The Carter

多くの人に期待されながらも、ウェインとマニー・フレッシュのコラボは数少ない。だからこそ、そこから生まれた名曲は上等なワインのように年を追うごとに深みを増していく。

「もっとリッチで、もっとスマートに (A lot more rich and a whole lot smarter)」という一節は『Tha Carter』だけでなく、続編を含む3作すべてに当てはまる。「ついにパーフェクトになった (finally perfect)」というウェインの言葉もこの時点では真実と言い難かったが、彼の言い方からは、いずれ現実になると確信していたことがわかる。

12位:Go DJ

「Go DJ」はリル・ウェインとマニー・フレッシュが活発にコラボしていた頃を象徴するような1曲だ。もし『Tha Carter』から1曲だけ無人島に持っていけるとしたら、この曲だろう。

ウェインからは、このままいつまでもラップしていられるというハングリーさが感じられる。ある意味で彼は実際にラップすることをやめなかったわけだが、マニー・フレッシュとの本格的なコラボはこの曲あたりを境にしばらく見られなくなった。

11位:Dr. Carter

ウェインのキャリアを通してみても「Dr. Carter」が評価されたことは意外だった。2008年にはかなり時代遅れだったコンセプト・ソングである上に、リリックは他に類を見ないほどあからさまだったのだ。しかし何より、その内容のバカバカしさが一番の問題だった。

それでも同曲には独特な魅力があり、リスナーにも受け入れられている。それはヤング・マネー・レーベルから『Tha Carter III』 (同アルバムは初週だけでプラチナ・アルバムとなり、グラミー賞で最優秀ラップ・アルバムに選出された) がリリースされた頃、ウェインが”現役最高のラッパー”の称号に見合うカリスマ性を発揮していたことの証左だろう。

10位:Fireman

「Fireman」をきっかけにリル・ウェインを知ったというリスナーは多い。また、ア・ベイジング・エイプの服が使用されているミュージック・ビデオを見た、あるいは『Tha Carter II』のジャケットに写っている車 (ファントム) を実際に見た、というのもおそらくこの曲が初めてだっただろう。

一方ですでにファンだった人は、ウェインのラップに多様性や発想力が加わる転換点となった1曲として認知しているかもしれない。いずれにしても「Fireman」でウェインの将来性は確かなものになったのだ。

9位:DJ Khaled – We Takin’ Over (feat. Akon, T.I., Rick Ross, Fat Joe, Birdman and Lil Wayne)

ランキングのさらに上位にもDJキャレドの楽曲はもうひとつ入っている。だが唯一無二の「We Takin’ Over」と、同曲の後半でビートに乗せてウェインが披露したフリースタイルは、彼が本当に最高のラッパーだという紛れもない証拠だ。

曲調もウェインにぴったりで、「ラッパーどもを俺によこせ、でなきゃビートをよこせ (Feed me rappers or feed me beats)」という一節は快進撃を続けていた頃の彼のスローガンといえるものだ。

8位:Right Above It (feat. Drake)

「Right Above It」はウェインのキャリアの中でも特徴的なある時期にリリースされた。向かうところ敵なしでラップ界の頂点に立とうとしていながら、ライカーズ刑務所への服役を間近に控えた時期だ。

同じ頃、カニエは『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』を世に放つところで、ドレイクは日に日に名を上げつつあった。また、ケイン・ビーツは同時期を代表するビートを次々生み出しており、それはこの曲も然りだ。毒を覗かせつつもウェインとドレイクがいつになく喜びを露わにした、ふたりのコラボでも傑出した1曲である。

7位:DJ Khaled – I’m On One (feat. Drake, Rick Ross, Lil Wayne)

DJキャレドの楽曲で最高、とはいかずとも最高峰の1曲。ドレイクとリック・ロスも優れたパフォーマンスを見せる。冒頭の”DJキャレド!”の声はゾクゾクするほどクールだし、この時期のこの3人をゲストに迎えれば最強というほかない。

だが一番の見せ所は、ウェインがキャリア史上屈指のリリックでヴァースに入る瞬間だ。「俺はクラブの中を歩きまわって…全員をファックした (I walk around the club… f__k everybody)」

6位:Shooter (feat. Robin Thicke)

いつでもウェインは大胆で音楽性に縛られないコラボを発表してきた。だからこそ後に『Rebirth』のようなアルバムを作れたのだろう。

「Tie My Hands」は冷静な視点の追悼曲だったが、一方で「Shooter」は冷静と程遠い。数々の痛ましい出来事を受けて作られた、スローでセクシーな1曲だ。シックによるラッパーとのベスト・コラボといえよう。

なお、ウェインの「俺たちが原始的だと言う奴は、基本がわかっちゃいない (If we’re too simple, y’all don’t get the basics)」というリリックは、一部にみられる南部批判の感情を説得力のある言葉で巧みに告発している。

5位:Birdman & Lil Wayne- Stuntin’ Like My Daddy

ウェインとバードマンがキャッシュ・マネー・レコードから発表したコラボのうち、1曲を選ぶならこれだ。同曲のフックはふたりのコラボの中で、いや、当時のラップ界で最高の出来だろう。

加えてヴァースにも聴きどころが多い。ウェインのことをよく知っているメインストリームのファンにバードマンの名を知らしめた1曲である。両名は不和によりコラボ関係を解消してしまったが、そのことが忘れ去られたとしても「Stuntin’ Like My Daddy」は名曲として評価され続けるだろう。

4位:Mr. Carter (feat. JAY-Z)

ウェインは『Tha Carter III』で同世代を代表するラッパーに上り詰めた。メロドラマ的でわざとらしい1曲目の「3 Peat」で早くも同アルバムの成功は決定付けられ、残りもそのままの勢いで走り抜けていく。

その中にあって「Mr. Carter」は、単にクラシック色の濃いソウルのサンプル音源に乗せてふたりの大物が共演している、というだけの曲ではない。ふたりがバトンを渡し合い、互いに言及し合う瞬間は歴史に残る。不安定なふたりの関係を考えれば、ジェイが参加していること自体がとても重要な1曲と言えるだろう。

3位:Lollipop (feat. Static)

T-ペインやカニエ・ウェストはオートチューンの使用により有名になったが、本当の意味でオートチューンを世間に浸透させたのはウェインの「Lollipop」だった。今では当たり前になった技術だが、「Lollipop」は当時を象徴する1曲であり続けている。言葉数が多いことで知られていたウェインにはめずらしくリリックは少なめだが、キャリア史上屈指にキャッチーなフックでジャンルの垣根を超えた大ヒットになった。

「Fireman」をはじめ『Tha Carter』シリーズからのシングルはほとんどがヒットを記録したが、特に「Lollipop」はリリースから数ヶ月の間、アメリカ全土でひっきりなしに流れていた (誇張ではない。ビルボード・ホット100では3週間1位になった) 。

2位:Hustler Musik

『Tha Carter II』こそウェインの最高傑作と考えているファンにとって「Hustler Musik」は、あえて流行りの過ぎたビートを取り入れた彼らしい楽曲の代表格だろう。そこからは、フロウに対するウェインの確固たる自信が感じられる。彼は世界で一番ビッグなラッパーになる前から、その目標の実現を信じてやまなかったのだ。

1位 : A Milli

「Lollipop」はジャンルの垣根を超えた空前のヒットになり、ウェインはかねがね口にしていたようにヒップホップ界を完全に手中に収めた。それでも万が一、まだ彼の才能に疑いの目を向ける人がいたとしても、「A Milli」がそれを晴らすだろう。

同曲で彼はポップ路線にも進めることを証明しただけでなく、誰だってラップで打ち負かせると示してみせた。そのビートは、ウェインが持つ無敵のカリスマにぴったりの紛れもない名品だ。「A Milli」でのウェインは、まさに現役最高のラッパーである。

Written By Patrick Bierut

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