社説:医師の長時間労働 タブー排し対策に踏み込め

 残業の上限規制が強化される「2024年問題」は輸送業や建設業に話題が集まりがちだが、医師にも適用されることを忘れてはならない。

 長時間労働が常態化している病院で、残業規制は地域医療に影響を及ぼすが、医師の深刻な疲弊は放置できない。

 病院を運営する自治体や大学、民間の努力はもとより、勤務医の確保や業務軽減に向けた国の抜本対策が求められる。

 「働き方改革」に伴う法改正で、一般企業は罰則付きの上限規制が19年から始まったが、人手の確保が難しい医師は、ドライバーや建設業従事者とともに5年間猶予とされた。

 来年4月から規制が適用されるものの、医師だけは例外規定が残る。一般企業の残業は特別の事情があっても年720時間なのに対し、勤務医は年960時間を可能とする。労働災害認定の目安とされる月80時間の「過労死ライン」に相当する。

 地域医療や救急医療の担い手は、さらに35年度まで年1860時間を特例で認める。

 背景には勤務医の4割近くで残業が年960時間(19年)を超える実態がある。医療現場からは「例外規定があっても、来春からかなり勤務が短くなる。夜間診療や宿直が多い救急病院、大学病院は相当な支障が出る」との声が聞かれる。

 勤務医の命を脅かすような働き方を合法としてなお、通常医療が維持できない現状は看過できない。過労死や過労自殺の悲劇は繰り返されている。8月にも神戸市の若手勤務医が、長時間労働による精神障害で自殺したとして労災認定された。

 特例扱いは早く解消すべきだ。医師の疲弊はミスを招きかねず、患者の命にも関わる。

 根本の原因は、医師の不足と偏在だろう。新卒医師は増えているが、高齢化で引退する医師も多く、実働数は先進国並みに届かないともみられる。

 若手医師が地方より都市部、勤務医より開業医を志向し、多忙な外科や救急科などを敬遠する流れもある。新型コロナウイルス禍の病床逼迫(ひっぱく)も、専門医の少なさが招いた面が大きい。

 国は不人気の診療科や地方勤務の報酬を手厚くする誘導策も講じているが、有効打になっていない。医師免許があれば好きな診療科を選べる「自由標榜(ひょうぼう)制」を原則とするためである。

 職業選択の自由はあろうが、医師養成や保険診療には公費を投じている。専門医の計画的な育成や配置に踏み込むべきではないか。地方勤務を前提とした「地域枠」を広げる条件で医学部定員を増やすことや、一定の診療行為ができる看護師資格の導入、リモート診療の拡充、病床再編なども検討したい。

 いずれも既得権を侵すため、日本医師会などの抵抗が強い課題だが、地域医療を守るためにタブー視せずに議論すべきだ。

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