長崎市の三重地区 児童数なぜトップクラス? 宅地開発で若い世代増加も、残る課題

角力灘を臨む三重地区。左側は多以良ニューハーベン団地、右側に県営、市営住宅や三重ニュータウンなどが広がる

 長崎県長崎市北西部の三重地区は今年、市への編入合併から50年を迎えた。1989年の新長崎漁港の開港前後から大規模な住宅団地が相次ぎ誕生。市内有数のベッドタウンとして成長した。市全体の人口(約39万7千人)は減る一方だが、三重地区の人口は増え、三つの小学校のうち2校の児童数は市内トップクラスを続ける珍しい地域。その理由はなぜか、探ってみた。

◆子育て世帯を魅了
 市中心部から車で約30分。山あいのトンネルを抜けると、かつて小さな漁村だった町に広大な漁港施設と住宅地などが立ち並ぶ。市中心部にあった旧長崎漁港の移転先に決まり、旧西彼三重村が73年、市に編入合併。その後、光風台団地や京泊地区の県営・市営住宅などが整備された。
 西彼時津町と三重地区を結ぶ鳴鼓トンネルが88年に開通すると、交通の利便性が高まり、人口は約1万人を突破した。マリンヒル三京団地、さくらの里団地、豊洋台団地などが続けて完成。漁港関連事業などの移転に加え、比較的求めやすい価格帯の住宅地が供給されたこともあり、子育て世代を引きつけ続けているようだ。

三重地区の主な出来事

 三重地区の人口は今年8月時点で約2万人。73年の編入時の4倍になった。このうち14歳以下は3431人で、地区全体に占める割合は約17%。市内の地域センター別でみると、小榊に続き2番目に割合が多いという特徴が分かった。

◆住宅団地が左右
 地区内3小学校のうち畝刈、鳴見台両小の児童数は今でも市内トップクラスを誇っている。
 市内の児童数(1万7762人、5月1日現在)は、59年のピーク時より約5万6千人減。一方、畝刈小(693人、同)は68小学校のうち2番目に多い児童数で、昨年度までの6年間は市内最多だった。鳴見台小(541人、同)も市内で6番目に多く、三重小(245人、同)は漁港開港後、140~280人台で推移する。

三重地区の人口と児童数の推移

 さらに細かくみていくと、10年前の2013年と比べると、鳴見台小は195人、三重小は100人増加。19年の三重地区人口のうち、子育て世代といえる25~49歳の区分が09年より261人増えており、これに伴い児童数の増加につながったとみられる。市三重地域センターによると「一つの住宅団地を複数回分譲したのもあってか、若い世代が移ってきた」と推測する。
 市教委適正配置推進室は「昭和末期まで中心部の伊良林小の児童数がトップだったが、平成に入り、市郊外に住宅団地が整備された横尾小、東長崎地区の橘小、矢上小、三重地区の畝刈小などが増え、大規模校になった」と分析。住宅団地の開発に児童数が大きく左右される状況が分かる。

◆「成熟」には課題
 一方、三重地域センター管内の65歳以上人口(高齢化率)は26.25%(8月時点)で、市全体を約8ポイント下回る。近年の地区人口は2万人前後で推移し、“頭打ち状態”とみる向きも。若い世代が多い三重地区にも少子高齢化の波が迫り、今後のまちづくりを懸念する声も出てきた。
 三重地区連合自治会の辻郷英樹会長(76)は「自治会は高齢化し、若い転入者との交流が少ない。どうやって地区がまとまっていくのか」と案じる。同連合自治会に加入資格のある自治会は40以上あるが、半数以下の19自治会にとどまるのも課題となっている。

三重地区の今後について話し合う辻郷会長(右)ら連合自治会会員=長崎市畝刈町、畝刈町公民館

 さくらの里2丁目の幼稚園教諭、中村あやさん(38)は夫の実家近くで子育てをしようと移住し、娘が畝刈小に通う。「近くに公園はあるけど、児童館や図書館がなく、室内で遊べる場所がない。今年の夏は暑すぎて、外に遊びに行かせられなかった」
 郊外ならではの悩みも。日用品などを近隣で買い求める場所が限られ、自家用車が欠かせない。「スーパーやコンビニも子どもが徒歩で行ける範囲になく、子どもにおつかいを体験させる機会がない。移動販売型のスーパーなどがあればいいのだが…」
 世代間の交流機会、子どもの教育環境や遊び場確保、移動手段-。市町合併から半世紀、成熟したベッドタウンが持続できるか、新たな課題に向き合う時期に差しかかっている。


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