孤立するロシアは欧州に残るのか。それともアジアに転籍するのか。進む未来の険しさとは

2022年2月24日から始まったロシアによるウクライナへの侵攻により、ロアシアサッカー連合は国際サッカー連盟(FIFA)と欧州サッカー連盟(UEFA)からワールドカップや欧州選手権(EURO)などの主要大会への参加停止を受けている。いまロシアは、岐路に立たされている。

ロシアは欧州に残るか、それともアジアに転籍する形で活路を見出すのか―。どの道を選んでも険しくきびしい未来が待っていると複数の有識者が指摘している。

ロシアの選択、待ち構えているきびしい現実について考察する。

UEFAは一部処分緩和も依然として反対の声

UEFAは先月26日、ウクライナ侵攻によるUEFA主催大会の参加を禁止されているロシアの17歳以下代表チームの大会参加許可を発表した。アレクサンデル・チェフェリンUEFA会長は、「子供の大会参加を禁じることは差別につながる」として次世代の明るい未来につなげるという名目を明かした。

UEFAのロシアへの処分を緩和は世界中で話題となった。それと同時にUEFAの対応にウクライナはもちろん、スウェーデン、ノルウェーなど続々と反対声明を出す国が現れている。

ウクライナ国民の虐殺など数々の戦争犯罪を犯すロシアが平和の祭典であるサッカーの大会に出場することは許されない。これが反対派の主張であるが、ドイツサッカー連盟のハンス=ヨアヒム・ヴァツケ副会長(ドルトムントCEO)とカール=ハインツ・ルンメニゲ氏はロシアの育成年代大会復帰に理事会で賛成票を投じたことから欧州域内も一枚岩ではないようだ。

ロシアはこのままみそぎを済ませば、何事もなく全カテゴリーのチームがFIFAやUEFAの主催大会に復帰できるのか。それは決して簡単な道のりではない。

過去にイスラエルは1973年の第四次中東戦争の勃発により、中東、中央アジアのイスラム教国家との試合が開催できなくなり(相手チームの対戦拒否が頻発)、1974年にアジアサッカー連盟(AFC)から除名された。一時オセアニアサッカー連盟(OFC)の暫定メンバーを経て、1992年にUEFA加盟が決まった。実に18年も身を置ける大陸連盟が定まらない中で、さまよい続けたイスラエルの例を見ればロシアも似たような未来を歩む可能性がある。

UEFA域内の大多数の国家がロシアの蛮行を許す可能性は極めて低い。今回の処分緩和で仮にUEFAと雪解けムードになったとしても、イスラエルのように対戦拒否、試合開催拒否が発生する可能性は十分にある。

ロシアもまたUEFA主催大会の競技力の高さ、放映権料や大会参加ボーナスなどの恩恵を受ける可能性を捨てきれずにいるが、ウクライナを始め、既にU-17大会でのロシアとの対戦拒否を表明しているイングランド、ポーランド、ラトビア、リトアニア、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドなどの強烈な反対がある限り、近い将来のUEFA主催大会復帰は絶望視されている。

AFC転籍も困難か

ではAFC転籍の可能性はどうか。西側諸国といわれる日本、韓国、オーストラリア、グアムなどは当然反対に回るだろう。だがロシアとの友好関係を考えると中国、北朝鮮、インド、中央アジア勢は賛成に回る可能性が高いため、過半数投票で採決する場合はロシアのAFC転籍は認められる可能性がある。

実際にロシアは今年6月に開催された中央アジア選手権に招待国として参加する予定だった。ところが大会直前の4月27日に国内カップ戦の決勝戦など、国内大会とレギュレーションが重なる過密日程のため、大会を辞退した。それでもゲストとして招待した中央アジアサッカー協会は、AFC転籍後にロシアを受け入れると見られている。

ただし、ロシアはAFC転籍について慎重な姿勢を見せている。ロシアサッカー連合は昨年末にAFC転籍を議論していたが、結局結論を先延ばしにしたため、方向性は未だに決まっていない。昨年2月にサウジアラビアサッカー連盟のヤセル・アルミサヘル会長がロシアのAFC転籍について慎重に議論と検証を重ねる姿勢を見せているため、一筋縄ではいかなそうだ。

またこの事案は2006年のオーストラリア代表のOFCからAFC転籍と比較されることもあるが、長い時間をかけて両連盟から許可を得るために、政府の協力を得て入念なロビー活動を展開してAFCに転籍したオーストラリアとは事情が異なる。ロシアがAFCに転籍するためには、多くの各国協会から支持を得なければならないため、あぐらをかける余裕は一切ない。

仮にAFC加盟が実現したとしてもUEFAと比較して試合開催会場などのインフラ面の劣悪さ、競技力の低下、放映権料や大会参加ボーナスの減少など経済面と競技面において多くのデメリットが顕在している。さらに移動にかかる負荷や過酷な気候での試合などアジア特有の障壁もあるため、簡単に決断できないだろう。

そしてFIFAがロシアの処遇に対してどう判断するかだ。FIFAが制裁を緩和しない限りワールドカップ予選に出場できない(現行のアジアカップ予選はワールドカップ予選と連動しているため、FIFAが大会参加を許可しない場合はアジアカップも出場できない可能性がある)。仮にFIFAが将来ロシアの大会参加を認めたとしても、日進月歩の勢いで成長するアジアサッカーの競技力に苦戦を強いられる可能性もある。そのためロシアにとってアジアは決して安住の地にはなり得ない。

もし招かねざる客がアジアに来たら

招かざる客ロシアがアジアにもたらす衝撃は想像以上の衝撃をもたらすかもしれない。オーストラリアサッカー連盟が2006年1月1日にOFCからAFCへ転籍した際、後に同年開催されたワールドカップドイツ大会でベスト16に入った強国の存在にアジア各国は大いに警戒した。

ロシアは2008年のEUROベスト4、2018年のワールドカップ自国開催大会で8強と結果を出してきた大国のため、日本や韓国などのアジアの列強に食い込む可能性がある。

ただこのまま国際大会締め出しが長く続けば競技力低下が必至であり、欧州でも中堅国という位置づけだった実力をキープすることは困難と思える。そのため、AFC転籍が実現したとしても脅威となるほどの実力があるかは疑問符が付く状況だ。

そしてロシアは招かねざる客だ。戦争犯罪を犯した国家の代表チームの受け入れなど、百害あって一利なしだ。ワールドカップの出場国枠が拡大したいま、仮にライバルとしてロシアが君臨しても以前のような少ない出場枠をかけた強国との真剣勝負といった形にならない可能性がある(アジアカップのようなノックアウトトーナメントは例外だが)。リスクを背負ってまでロシアと対戦するメリットが一切ない。

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欧州に残るのか、それともアジアへ移るのか。ロシアにとって安住の地はどこにもない。戦争犯罪を犯したロシアにとって当然の末路であるが、この無益で馬鹿げた戦争がいち早く収束することを願うばかりだ。

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