注文に時間がかかります…埼玉初の「吃音カフェ」7日、越谷で開催 当事者が接客「明日の活力になれたら」

「埼玉で開催するのは初めてなので、地元の方たちに吃音について知ってもらえたら」と話す発起人の奥村安莉沙さん(右)=9月22日、埼玉県越谷市大沢の「リエゾンライブラリーカフェ」

 「吃音があってもカフェで働きたい」。そんな若者を応援する「注文に時間がかかるカフェ」が10月7日、埼玉県越谷市大沢の「リエゾンライブラリーカフェ」で開催される。全国各地で出張開催し、県内では初となる。スタッフがそれぞれの症状に合わせ、自分のペースで接客する「吃音カフェ」。自らも吃音を抱える発起人の奥村安莉沙さん(31)=都内在住=は「カフェを通じて吃音への理解を深めてもらい、不安や悩みを抱える若者が、幸せに生きられる社会を目指したい」と話す。

■海外留学が転機

 人と話すことが好きだった奥村さんは10歳の頃から、カフェの店員になるのを夢見てきた。しかし、当時は吃音の症状が重く、自分の名前やあいさつもうまく言えなかった。周囲から「吃音がうつるんじゃないか」とからかわれた経験も。自信をなくし、「接客は無理かな」と諦めていた。

 転機が訪れたのは26歳の時。留学先のオーストラリアで働いたカフェは、病気や障害により言葉を発せない人も健常者に交じって身ぶり手ぶり、笑顔で接客していた。それまで接客はすらすら話せないといけないと先入観を持っていたが、「こういう接客方法もありなんだ。大丈夫なんだと思った」。吃音を抱える人が働けるカフェをつくりたいと、帰国後の2021年から始めた。

■マニュアルなし

 吃音カフェの特徴は、接客のマニュアルがないこと。スタッフは自分の間で話しやすい言葉で対応する。言葉に詰まったり、間延びしたり、人によって症状はさまざま。スタッフのマスクには「最後まで聞いてほしいです」など個別にメッセージを記している。受け付け時には吃音や店の仕組みについて説明し、理解してくれた人のみ利用してもらっている。

 東京や大阪など全国18カ所(8月29日現在)で開催。これまで116人が接客に参加、1万5964人が来店した。「接客に携わった多くの人の表情や行動が変わり、自信を持ち前向きになった」と奥村さん。常設店ではないため、場所を提供してくれる施設や店、学校を必要としている。「今後は地方や郊外での活動も積極的に取り組んでいきたい」と力を込める。

 ただ、吃音に対する社会の理解は十分とはいえない。奥村さんによると、接客業の面接では吃音を指摘され、「すらすら話せない人は難しい」と採用を断られるケースもあるという。当事者は話すことの不便さのみならず、「また吃音が出てしまうのではないか」という不安を抱えながら生活している。

■つらいまなざし

 美里町在住の大学4年生の男性(22)は高校1年生の時に発症した。進学に伴い環境が劇変したのが原因だった。教師を目指し講師のアルバイトをしていた塾で集団授業中、吃音の症状が出たことがある。言いたいことがあるのに、口から出てこない。「先生どうしたんだろう」「早く授業をしてほしい」。生徒たちのまなざしがつらかった。

 吃音を理由に接客の仕事を避けていたが、7日の吃音カフェに初めて参加することになり、「店員として一生懸命働いてみたい。お客さまの明日への活力になれたら」と笑顔を見せる。

 カフェは事前予約制。10月7日はすでに満席でキャンセル枠が出たら公式X(旧ツイッター)で告知する。県内では11月19日、さいたま市大宮区でも開催予定。当日の2週間前に公式ホームページに予約サイトが掲載され、申し込める。吃音のある高校生以上の学生を対象にスタッフの募集も行っている。詳細は公式ホームページへ。

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