衆参補選の前に考えたい日本と世界の差!データから見えた投票率の低下傾向が止まらない要因とは?(データアナリスト 渡邊 秀成)

日本の国政選挙の投票率が低下傾向にあります。各国の投票率と比較をしてみても日本の投票率は一貫して低下傾向であることがわかります。

参考サイト:Our World in Date 

衆議院、参議院選挙別にどのように投票率が低下傾向にあるのかを総務省資料からグラフを作成してみましょう。

衆議院選挙、参議院選挙ともに投票率が低下傾向にあることが確認できます。

総務省資料に基づく衆院選の投票率推移(筆者作成)
総務省資料に基づく参院選の投票率推移(筆者作成)

そして年代別に投票率をグラフ化をすると下記のようになります。衆議院選挙、参議院選挙の執行年順にグラフを作成しています。

年代別の投票率推移(筆者作成)

各年代ともに投票率が低下傾向にあることはわかると思います。特に20、30、40、50歳代の投票率低下が大きいことがわかると思います。上記グラフの最初の年の衆議院選挙と直近の参議院選挙の投票率を比較します。

20~50代の投票率は25〜30ポイント以上低下しています。

年齢層が高い人たちの投票率低下が比較的抑えられているのは、年金、医療に関する関心が高くなり、その結果選挙で投票する傾向にあるのではないか?と推察されます。

その一方、20~50代の投票率が大きく低下しているのは、さまざまな理由があると思うのですが、政治等に関することに対して日常的に見聞きする機会が、1960年代の若年有権者より少ない傾向にあることが要因の一つに入るのではないかと思われます。

1960年代は学生運動、安保闘争等があり、1970年代は労働争議の件数も現在と比較をすると多い傾向にあります(参考情報:政府が公表している労働争議統計調査)。

学費値上げ、大学自治、賃上げ等に関して、積極的に交渉していこうとする件数が多かった時代には若者の投票率が現在より高いことがわかります。その一方、現在ではスト等が実施されることも少なく、何か交渉/行動し現状を変えようとするより、決まったこと/与えられたことの条件内でやりくりをして対処する傾向があるように思えます。

日本と海外の差は社会問題への当事者意識が要因か

海外サイトを見ると選挙に立候補しようとした場合に、どのような事を、どのように、いつすれば良いのか等のタイムスケジュール、予算まで記された選挙ノウハウに関するページやデモ/ストライキの方法、交渉方法等の具体的手法が掲載されているサイトが多くあります。しかし日本語サイトではあまり見かけません。

実際外務省の海外安全ホームページや各国日本大使館のウェブサイトでデモ、抗議行動等で検索をすると各国で行われているデモ、集会の情報が出てきます。

日本以外ではデモ等の話題が頻繁に出てきます。

・フランス 年金支給開始64歳からの改革案 反対デモに100万人超(NHKニュースより)

・カナダのトラック運転手ら、ワクチン義務化に抗議デモ オタワが非常事態宣言(BBCニュースより)

過去の新聞縮刷版等を読むとストライキ等の記事が見当たりますし、NHKニュースアーカイブで「スト」と検索をすると、過去に放送された多くのニュース映像が検索結果に表示されます。

参考:NHKアーカイブス

現在はほとんどそのような記事、報道を目にすることはありません。(直近ではそごう・西武の売却をめぐるストライキ実施が大きく報道されました)

1960年代、70年代と比較をして日常的にスト等交渉ごとを目や耳にする回数が減少しているので、各種問題に対して当事者意識を持ちにくくなっているのも投票率が低下している要因の一つなのかもしれません。

選挙に関する各種調査結果を発表している、公益財団法人明るい選挙推進協会の意識調査結果を読んでも、選挙を棄権する理由として

【誰に投票していいかわからない】
【選挙によって政治はよくならない】
【仕事があったから投票に行けない】

といったものがあります。

また労働者に占める非正規社員等が増加しており、賃金が低く長時間働く必要があるため忙しく、政治について考える精神的余裕がないという話もよく見聞きします。

(厚生労働省サイトに掲載されている非正規雇用労働者の割合の推移をみると、雇用者に占める女性の56.0%、男性の29.9%、総数で38.3%が非正規雇用労働者であることがわかります。正規雇用労働者・非正規雇用労働者の賃金の推移≪雇用形態別・時給(実質)ベースのグラフ≫でも、正社員、正職員以外の賃金は正社員、正職員よりかなり低いことがわかります)。

このような要因が複雑に絡み合って投票率が低下している傾向が続いているように思えます。

補選が行われる長崎、徳島・高知の投票率は……?

そのような中、衆議院議員選挙補選が長崎県、参議院議員選挙補選が徳島高知合同選挙区で行われます。最後にこれらの地域の有権者の投票傾向について観察してみたいと思います。

長崎県、徳島県、高知県の国政選挙の投票率を全国と比較をするとこのような傾向にあります。

投票率_推移_衆院選_都道府県別(筆者作成)
投票率_推移_参院選_都道府県別(筆者作成)

徳島県、高知県の投票率は全国と比較をすると上位にあるとは言えない傾向にあります。

また年代別投票率に関するデータを見ても、若年有権者の投票率が低く、年齢が上がるにつれて投票率も上昇することが、高知県、長崎県でのデータでもわかります。

高知県年代別投票率(高知県選挙管理委員会公表の資料より)
長崎県年代別投票率(長崎県選挙管理委員会公表の資料より)

投票率向上のために、主権者教育として各種出前講座等が行われています。それも大切なことであると思います。

それと同時に身近な生活に関わる交渉ごと等が頻繁に行われ、それが報道等で世の中に多く知られるようになり、一つずつ物事が改善する経験を積み重ねることで、徐々に投票率も上昇するのかもしれません。

燃料高騰で国民の生活環境が厳しくなる中、補選がある地域での投票率はどうなるのでしょうか?今回は国政選挙の投票率低下傾向と補選が予定されている長崎県、徳島県、高知県の投票率について観察をしてきました。

© 選挙ドットコム株式会社