通夜・告別式なく火葬のみの「直葬」、福井県でも高まるニーズ 費用の相場、選ばれる理由は

火葬場併設の告別室で行われた直葬の様子。遺族がいない場合、葬儀社の職員が焼香し収骨まで行う=福井県越前市(夕葬社提供)

 通夜や告別式を行わず火葬のみで済ませる「直葬(ちょくそう)」。東京など都市部では10年以上前から増加傾向にあったが近年、福井県内でもニーズが高まっているようだ。簡素化により費用を抑えられるメリットが注目されがちだが、小規模の葬儀を専門にする業者は「人間関係の希薄化や葬儀のとらえ方の変化が影響している」と話す。

■2人だけ

 9月に越前市の火葬場に併設された告別室で行われた直葬。棺の前にいるのは、葬儀社と火葬場の職員2人だけだ。故人には身寄りがなく、市の依頼を受け執り行われた。葬儀社の職員が棺に手を合わせ、炉の点火スイッチを押す。収骨まで済ませ、骨壺(こつつぼ)を手に火葬場を後にした。遺骨は提携する寺に安置するという。

 「依頼や事前相談は年々増えている」と話すのは、直葬や自宅葬など小規模な葬儀を専門に手がける夕葬社(福井市)の長谷川広信代表(45)。実施件数のうち直葬が占める割合は初年度4割程度だったが、3年目は6割を超えた。

■大幅に安く

 公益財団法人「全日本仏教会」(東京)などが昨年度行った調査によると、自身の葬儀で直葬を希望する人は、回答した約6200人のうち2割ほどを占めた。20年度の調査では新型コロナの影響もあり「世の中に合っている」「無駄がなく効率的」「家族に迷惑をかけずにすむ」などと捉える人も多いことが浮き彫りになった。

 直葬の場合、依頼を受けた葬儀社が病院などへ遺体を引き取りに行き、故人の自宅や寺などで24時間以上安置。祭壇を構えてのセレモニーや読経といった儀式はせず、火葬のみで済ませるため、早ければ亡くなった翌日に葬儀が終わる。

 その分費用は大幅に安くなる。火葬場への送迎バスを出す規模の葬儀では「参列者をきちんともてなす用意をすることが多い」(長谷川さん)ため、費用は100万円を超えるのが相場。一方、同社は約15万円からプランを用意する。

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■故人が希望

 直葬を選ぶ理由は▽故人が希望していた▽親族がいない▽金銭的に余裕がない-などさまざま。長谷川さんは身寄りのない人の成年後見人となった弁護士、行政書士からの依頼も多いとし「結婚しない、子どもを持たないといった多様な生き方が広がっていることも背景にある」と増加の理由を指摘する。

 寺との付き合いが希薄になるなど、宗教や葬儀のとらえ方は時代とともに変化し「高い費用をかける大がかりな従来の葬儀に意義を見いだせない人は増えている」と長谷川さん。一方で「葬儀そのものには故人とゆかりのある人が気持ちに区切りをつける場として意義がある」とし、直葬を選ぶ人は今後も増えるとみている。

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