川崎重工の「水素博士」ってどんな人? 水素社会の実現へ「オールジャパンで供給網の構築を」

水素の可能性などについて語る川崎重工業の西村元彦専務執行役員=神戸市中央区東川崎町3、川崎重工業神戸工場

 世界初の液化水素運搬船の建造を手がけ、政府が進める「水素基本戦略」でサプライチェーン(供給網)整備の一翼を担う川崎重工業(神戸市中央区)。同社の水素戦略を手がけるのが「水素博士」こと、西村元彦専務執行役員だ。今年4月には同社エネルギーソリューション&マリンカンパニーのトップに就任した。これまでの歩みや水素社会への思いを聞いた。(聞き手・石川 翠)

 

■水素博士のゆえんは

 「水素をPRする自社のショートムービーに出演し、タレントのトラウデン直美さんに解説する立場だったので、水素博士と名付けられた」

 「当社の水素プロジェクト部長に就いたのは2013年。さらに経済産業省の水素・燃料電池戦略協議会のワーキンググループ委員となり、『水素燃料電池戦略ロードマップ』を作成した。水素について、輸送や発電のほか、産業用から家庭用空調まであらゆる分野での使い方を提案し、俯瞰的な視野を持てた」

 「15年6月には、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の助成が決まった。オーストラリアでつくった液化水素を日本まで運搬船『すいそ ふろんてぃあ』で長距離輸送。神戸で、世界初となる市街地で水素のみを燃料にしたガスタービン発電をして、熱と電気を近隣施設に供給する実証にも成功し、サプライチェーンがつながることを示した」

 

■LNGがモデル

 「水素社会になるには、つくって運んでためて、使うところまで全てがそろわないと回らない。かつてLNG(液化天然ガス)の浸透を図った時には、東京電力が長期で購入して発電に使うことを決め、大量需要が決まったことで、(LNG供給の)上流側まで全てプロジェクトが組成され投資決定ができた」

 「水素もそうなれば輸送を含めてサプライチェーン(供給網)ができ、民間資本も上流側に投資しやすくなる。日本はこうした仕組みを非常に戦略的につくろうとしている。川重は大型の運搬船を開発中だが(2030年ごろの事業化を目指す)商用化実証に限れば、現在は2合目ぐらいだ」

 

■大量利用でコスト減

 「欧州もLNGのパイプラインだけでは足りず、経済発展するアジアの国々でも、水素は将来必要とされるだろう。特に人口や工業も集中している沿岸地帯ではLNGが使われているので、液化水素と運搬船を使う可能性は大いにある」

 「大量に使い、大量に運べばコストが下がる。まずは国内の需要を生み出すこと。国の政策もその方向だ。石油や天然ガスが使われている機器やシステムを水素で使えるようにすれば、当然それだけ水素のコストは下がってくる」

 「『脱炭素のために我慢する』という感覚ではなく、今の生活の利便性を損なわず、むしろ発展させながら脱炭素を達成したい」

 「水素サプライチェーンは、日本の企業と仲間づくりを進めながら、オールジャパンで日本のものづくりが元気が出るように、強くなるようにしていきたい。既に夢が実現しつつあり、最後まできっちり仕上げる」

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