【アジア】【ビジネスノート】台湾から世界へ快走 電動アシスト自転車[製造]

巨大機械工業が台北国際自行車展で公開した電動アシスト自転車の新モデル(NNA撮影)

自転車の生産が盛んな台湾で、電動アシスト自転車の輸出が急成長している。二酸化炭素(CO2)を出さず楽に走れることから、欧州を中心に需要が高まっており、2022年の輸出額は10年前の90倍以上に達した。大手が見本市で大々的にアピールするなど売り込みを強化しているほか、新たなブランドが日本を含む海外での展開を加速している。【NNA台湾 安田祐二、張成慧】

「ペダルを踏む際にアシストがあるため、体力に自信がない人もサイクリングを楽しめる。普段から自転車に乗る人にとっては、より遠くまで行くことができる」。台湾の自転車大手、巨大機械工業(ジャイアント)の担当者に電動アシスト自転車の魅力を尋ねると、こう教えてくれた。

電池やモーターを搭載し、一般的な自転車よりも楽に走行できるのが特長。ジャイアントのモデルに試乗してみると、重厚感ある見た目とは裏腹にペダルを軽く踏むだけで時速20キロメートルくらいまですぐに加速した。台湾で自転車のイベントに参加した際、電動アシスト自転車に乗る人を見かけたことがあるが、試乗してみて長距離を走るのに適していると感じた。

ジャイアントは、今年3月の国際見本市「台北国際自行車展(台北サイクル)」で電動アシスト自転車の新モデル2車種を公開。共にマウンテンバイク型で、男性向けのハイエンドモデルは同社の従来品と比べて4キログラムの軽量化を実現。航続距離は最長130キロメートルに達するという。

製品にはロードバイク、シティーサイクル型などもあり、同社ウェブサイトを見ると、価格帯はシティーサイクルでは3万台湾元(約13万8,500円)台が中心。スポーツタイプでは10万元以上のモデルも多い。一般の自転車より高額なこともあり、30~60歳が主な購買層だという。

■10年前の93倍、欧州向け好調

電動アシスト自転車の輸出はここ10年間で大きく成長した。自転車業界団体の台湾自行車輸出業同業公会(TBA)によると、22年の輸出額は15億5,366万米ドル(約2,300億円)で、10年前の12年の93倍に急増した。

22年の輸出台数は103万6,118台と、12年(2万5,664台)の40倍に伸長。電動アシスト自転車を含まない自転車の輸出台数が22年には約195万台となり、10年前から半減したのとは対照的だ。

同公会の林立偉・常務理事は「(電動アシスト自転車の)輸出額は16年に1億米ドルを突破し、21年には10億米ドルを超えた。ここ数年間の成長は非常に速い」と強調する。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、人との接触が少ない移動手段として利用されたことが背景にあるとも付け加えた。

輸出先は欧州が中心だ。22年は、オランダが37万台でトップ。2位は米国で24万9,000台、3位はドイツの10万9,000台だった。以下、英国、フランス、イタリアと欧州が多く名を連ねた。

「欧州の人々は環境意識が高く、もともと自転車を移動手段として重視してきた。ここ数年は、温室効果ガスの排出を実質ゼロにする『ネットゼロ』が意識されるようになり、あらためて自転車への注目が集まっている」。同公会の周淑芳秘書長は欧州への輸出が増えている背景をこう説明する。

ジャイアントの担当者も「欧州は電動アシスト自転車市場が発展して久しい。16年ごろには既に流行し、現在も成長を続けている。販売はドイツやフランス、オランダ、ベルギーなどで好調だ」と話す。

自転車製造のもう一方の大手、美利達工業(メリダ)も電動アシスト自転車を販売している。売上高の割合では、従来の自転車を既に上回っているという。マーケティング部門の幹部は「(電動アシスト自転車の成長は)市場の流れ。従来の自転車は、既に相当の割合が電動アシスト自転車に取って代わられている」と指摘。今後は、日本や台湾、中国、韓国などの市場の成長に期待を示した。

■PC機器から挑む、新興ブランド展開

電動アシスト自転車を製造販売するのは、大手の2社だけではない。近年存在感を高めているブランドが「BESV(ベスビー)」だ。パソコン周辺機器を手がける達方電子(ダルフォン・エレクトロニクス)の子会社である達瑞創新が開発や製造を行い、欧州を中心に日本や台湾で販売している。

BESVの特徴は斬新なデザイン。代表的なモデルである小径車のシリーズは、流線形のフレームや鮮やかなカラーが印象的だ。「電動アシスト自転車はレジャー性のある製品。よりデザインを重視した製品づくりに取り組んでいる」。執行副社長の頼彌煥氏は、こう説明する。

売上高の比率は欧州が6割、日本が3割、台湾が1割。市場が成熟した欧州の消費者は比較的高価なモデルでも購入する傾向があるといい、今後はスペインやイタリア、チェコ、スロバキアなどで販売していく方針だ。

一方、BESVを立ち上げたころの台湾には、市場そのものがなかったと頼氏。「消費者は電動アシスト自転車がどのようなものか知らず、見通しは極めて暗かった」と振り返る。

しかし、広告やマーケティングなどを含めて多くのリソースを投じることで、次第に消費者の認知度は向上してきた。「電動アシスト自転車はエコで省エネ、サステナブル(持続可能)な製品。台湾市場も欧州や日本に続き、必ず成長すると考えている」と期待を示した。

美利達工業も電動アシスト自転車を販売。売上高の割合は従来の自転車を既に上回っているという(NNA撮影)
BESVはデザイン性の高さを売りとしている(NNA撮影)

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『車輪を付けたパソコン』PC大手エイサーが参入

台湾の電動アシスト自転車の輸出が急成長する中、異業種から新たに市場参入を目指している企業がある。台湾パソコン大手の宏碁(エイサー)だ。第1弾となる電動アシスト自転車「ebii」を、台湾で近く発売する。人工知能(AI)を活用し、乗りやすさを追求しているのが特徴だ。

電動アシスト自転車事業について説明する倚天酷碁の鍾逸鈞総経理(NNA撮影)

「この自転車を発案した時の考え方はシンプルだった。それは『車輪を付けたパソコン』。われわれの切り口は伝統的な自転車メーカーとは大きく異なる」

電動アシスト自転車開発の背景について、事業を担当する倚天酷碁(エイサーガジェット)の鍾逸鈞総経理はこう説明した。

エイサーは今年3月、国際見本市の開催を前にebiiを発表。通勤での利用を想定した小径車で、シンプルで近未来的なデザインとともにAIの活用を前面に打ち出した。

重要な機能の1つとして鍾氏が挙げたのが「ebiiアシスト」だ。自転車に乗る際、AIがディープラーニングによってデータベースを構築。これに基づいて「利用者に最も適切なアシストを提供する。ebiiは『あなたを理解する自転車』だ」と強調した。

電池残量が目的地まで十分か判断できる機能も備える。サドルの下にはレーダーセンサーを搭載し、後方から自動車が近づいてくるとアラートを発するなど安全面にも配慮した。

「われわれはパソコンが背景にある会社で、製品は柔軟性を備え、進化させることができる。これが従来の自転車メーカーとは異なる点で、いま取り組んでいることは自転車産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)だ」と鍾氏は話す。

■既存業者と協業、IT分野に注力

そもそもパソコン大手のエイサーが、なぜ電動アシスト自転車市場を目指すのか。鍾氏は近年関心が高まる超小型モビリティーを理由に挙げる。

日本の国土交通省によると、超小型モビリティーとは自動車よりコンパクトで小回りが利き、環境性能に優れ、地域の手軽な移動の足になる1~2人乗り程度の車両を指す。

「超小型モビリティーは新たなライフスタイルになりつつある。エイサーは先に電動キックボード事業を発展させ、非常に人気を集めたことから次は電動アシスト自転車に着目した」と鍾氏。

開発では、得意のコンピューター分野に重点を置いた。中でもモーターを制御するコントローラーや電池を含むパーツは「われわれの優位性であり、全てのAIはこの中にある」と自信を見せる。

グループの強みも生かす。動力電池モジュール開発の聯永基(MPSエナジー)は、電動アシスト自転車の電池を受託製造したことがあり、ebiiの電池は同社に委託した。

一方で、ハンドルやブレーキなど自転車そのものの機能はパートナー企業と協力した。「自転車は長い年月にわたって発展してきた産業。われわれは他社が得意とする部分にはあえて取り組まずに、自転車産業の充実したサプライチェーン(供給網)を活用した」と話す。

■将来置き換わる、価格低下で普及

鍾氏は「遠くない将来、価格が多くの人に受け入れられる水準に下がった際には、大部分の自転車は電動アシスト自転車に置き換わる」と述べ、商機は大きいとの認識を示す。

背景にあるのが都市交通の変化だ。「欧米などの先進的な都市では、中心部への自動車の乗り入れが禁止され、移動は自転車や徒歩となる。都市が進化する時には乗り物も一緒に進化する」と解説する。

普及には価格の低下が重要だと説く。「自転車は200米ドル(約2万9,670円)で買えるのに、電動アシスト自転車はなぜ2,000米ドルもするのか。これは(消費者にとって)大きな疑問だ。価格が下がれば、市場がより受け入れられるようになる」(鍾氏)

今後は製品の多様化も図る。「第1弾の製品は子供から高齢者まで乗ることができる小径車だが、製品の開発に当たってはバラエティーなどを考慮する。1つの製品で終わることはない」と述べ、今後の事業拡大を示唆した。(安田祐二、張成慧)

エイサーの電動アシスト自転車「ebii」。フレームはアルミ合金製で、航続距離110キロメートル。電池は2時間半で充電を完了し、残量は専用アプリなどでも確認可能。取り外してモバイルバッテリーとしても活用できる(NNA撮影)

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※特集「ビジネスノート」は、アジア経済を観るNNAのフリー媒体「NNAカンパサール」2023年10月号<https://www.nna.jp/nnakanpasar/>から転載しています。

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