アストンマーティンのWECハイパーカー計画が再始動。2025年ル・マンに『ヴァルキリー』で挑む

 アストンマーティンは10月4日、市販ハイパーカー『Valkyrie(ヴァルキリー)』をベース車に用いるル・マン・ハイパーカー(LMH)・プログラムを復活させ、ハート・オブ・レーシングと提携し2025年からWEC世界耐久選手権とIMSAウェザーテック・スポーツカー選手権でのデュアルシリーズ・キャンペーンを展開すると発表した。

■F1参戦にともない一度は立ち消えた夢のプログラムが復活

 WECのLMGTEアマクラスとIMSAのGTDプロおよびGTDクラスに、アストンマーティンのGTE/GT3マシンを使用して参戦しているハート・オブ・レーシングチームは、このLMH計画において両シリーズの最高峰クラスで「少なくとも1台」のヴァルキリーを走らせるつもりだ。なおLMH規定に基づくハイパーカーが欧米のふたつの選手権に参加するのは、まだ前例がない。

 この発表はアストンマーティンがモータースポーツ戦略の再評価の中で計画を保留した後、2020年から“休眠状態”となっていたヴァルキリー・プログラムの復活を意味している。

 シルバーストン・サーキット郊外に新設されたモータースポーツ・ヘッドクォーターを拠点とするアストンマーティン・パフォーマンス・テクノロジーズは、WECとウェザーテック選手権の両方に参戦するためのホモロゲーション計画に先立ち、レギュレーションによってあらかじめ定義された空力性能と出力性能の範囲内でレースを行う“競技用ヴァルキリー”を開発する作業を開始した。

■ハイブリッド非搭載。動力源はV12自然吸気エンジンのみ

 コスワース製の6.5リットルV型12気筒自然吸気エンジンはレースカーでも引き続き使用され、ハイパーカークラスのバランス・オブ・パフォーマンス(BoP)要件を取り入れるために改良される予定だ。

 コスワースはこのプロジェクトにおける「不可欠なパートナー」であり、オリジナルの公道走行が可能なヴァルキリーを開発したマルチマチックも引き続きプロジェクトに関与している。

 サーキット走行専用車両として誕生した『ヴァルキリーAMR Pro』をベースとする純レースカーは、ノンハイブリッドで走行する。つまりロードゴーイングモデルのヴァルキリーに搭載されているバッテリー・エレクトリック・ハイブリッドシステムはレースカーには搭載されないことになる。

ハート・オブ・レーシングチームは、ノースウエストAMRに代わって2023年シーズン途中よりWEC・LMGTEアマクラスで98号車アストンマーティン・バンテージAMRを走らせている
高速道路を走行するロードゴーイング・バージョンのアストンマーティン・ヴァルキリー

■必要なツールと能力はすべて揃っている

「ハート・オブ・レーシングとともにアストンマーティンを耐久レースの頂点に返り咲かせることができるのは光栄なことだ」と語るのは、チームのボスでありLMGTEアマクラスでは自身も98号車バンテージAMRのステアリングを握るイアン・ジェームス。

「私たちのチームは、2020年にデイトナで有名なウイング(アストンマーティン)とレースを始めて以来、飛躍的に成長してきた。我々はブランドの理念を理解しそれに沿っているし、クルマの性能を最大限に引き出すために独自のシステムや技術を開発してきた」

「またヴァルキリーへの理解も深く、2年前からはカスタマー・アクティベーション・プログラムを通じて密接に協力してきたんだ」

「このハート・オブ・レーシングチームは耐久レースで大きな野心を持っている。WECとIMSAのトップクラスに足を踏み入れ、総合優勝に挑戦する絶好のタイミングだ。もちろん、これは簡単な目標ではないが、私たちのパートナーとアストンマーティン・パフォーマンス・テクノロジーズのサポートにより、私たちが成功を収めるために必要なツールと能力はすべて揃っている」

■唯一のロードカーベースのマシンでプロトタイプ・ハイパーカーに挑戦

 110年の歴史を持つイギリスのスポーツカーブランドが、ル・マン24時間レースのトップカテゴリーで行った最近の取り組みは、プロドライブとのタッグで行われたAMR-Oneプログラムだ。なお、この活動のために開発された2.0リッター直列6気筒エンジンを搭載したオープンタイプのプロトタイプカーは、2011年にわずか2レースしか走らずに姿を消すことになっている。

 その後14年のときを経てル・マンの最高峰クラスに戻ろうとしているアストンマーティンは、過去に一度だけ総合ウイナーとなった。1959年にロイ・サルバドーリとキャロル・シェルビーによってドライブされた『アストンマーティンDBR1』が同ブランド唯一のル・マン総合優勝マシンだ。

 老舗ブランドのエンデュランス・モータースポーツ責任者を務めるアダム・カーターは「今日、アストンマーティンは耐久レースにおける新たなチャプターの幕開けを迎えた」と述べた。

「アストンマーティンはマニュファクチャラーとして世界選手権レベルで一貫した成功を収めており、ハート・オブ・レーシングの努力により、北米のIMSAでも成功を収めている」

「ヴァルキリーは、我々をスポーツカーレースのトップクラスに連れ戻す。私たちはパートナーとともに、このクラスのベンチマーク・マシンとともに戦えるポテンシャルとパフォーマンスを備えたレースカーを提供できると確信しているんだ。ハート・オブ・レーシングのような実績のあるオペレーションチームと協力することで、競争力のあるプラットフォームでレースを戦うために必要なものをすべて手に入れることができる」

「ヴァルキリーがこのクラスで唯一、ロードカーとの直接的な相乗効果をもたらすハイパーカーであることを考えると、これは魅力的なプログラムだ。このクルマのコンセプトはつねに境界を打ち破ることを意図している。いま私たちはトラック上で何ができるかを示す機会を得た」

2011年のル・マン24時間レースに参戦した007号車アストンマーティンAMR-One(ステファン・ミュッケ/ダレン・ターナー/クリスチャン・クリエン組)
ロードゴーイング版ヴァルキリーに搭載されている6.5リットルV型12気筒自然吸気エンジン。最大回転数は1万1000rpm、最高出力は1013psに達する。
2022年F1バーレーンGPでデモ走行を行ったアストンマーティン・ヴァルキリーAMR Pro

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