天空の魚群

 先ごろ車を運転していたら、前を走る車の背面ガラスに何やら美しい模様が描かれていた。黒っぽく曇ったガラスに、うろこのような白い柄が映える。よくよく見ると、ガラスに描かれた絵柄ではない。上空の白い雲を黒いガラスが鮮やかに映していた▲うろこ雲、いわし雲、さば雲と、秋の雲には魚にまつわる名が多い。どれも高度5千メートル以上の高い空にかかる「巻積雲(けんせきうん)」の一つという。はるか上空を泳ぐ魚の群れが、不意に眼前のガラスの中に現れる…。秋の景色にふと出くわすのも楽しい▲いわし雲はイワシの大漁の兆しといい、さば雲は秋サバの漁期と重なる。今年に入り、イワシは驚くほどの豊漁と伝えられた。今時分のいわし雲は、この冬も大漁が続く予兆なのかどうか▲“天空の魚群”は秋の訪れを告げるが、地上では夏がずいぶん長く居座った。気象庁の発表によると、9月の平均気温は平年を2.66度も上回り、統計が始まって最も高かったという▲7、8月も過去最高の気温を記録し、3カ月連続の更新だった。記録ずくめの夏はもう終わりにして、高い空を仰ぎ、イワシやサバの群れに見入る時間もそろそろほしい▲〈旅をしてみたく膝抱き鰯雲(いわしぐも)〉高田風人子(ふうじんし)。ささやかな旅心や感傷が似合う「秋たけなわの候」は、そこまで来ているだろうか。(徹)

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