クランベリーズのドロレス・オリオーダンとのインタビューを振り返る

ラジオDJ、ライナー執筆など幅広く活躍されている今泉圭姫子さんの連載「今泉圭姫子のThrow Back to the Future」の第76回。今回は、2023年10月13日に『To the Faithful Departed』のデラックス盤が発売となるクランベリーズ(The Cranberries)について寄稿頂きました。

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アイルランドを代表するバンドとして、世界的な成功を収めたクランベリーズの3枚目のアルバム『To the Faithful Departed』(1996)のデラックス・リマスターが、10月13日に発売。リマスターされたアルバムに、未発表曲デモ、アウトテイク、レアなライヴ音源などを含む3枚組となっています。

クランベリーズは、1989年ノエルとマークのホーガン兄弟を中心に結成され、その後ヴォーカルにドロレス・オリオーダンを迎え、1992年シングル「Dreams」で脚光を浴びました。デビュー・アルバムはダブルプラチナの大ヒット、母国アイルランドだけでなく、イギリスでも1位に輝いています。

続くシングル「Linger」も大ヒットして、1994年セカンド・アルバム『No Need to Argue』は、世界のチャートで1位になり、1,400万枚を超える大ヒット。シングル「Zombie」は、北アイルランド紛争を取り上げた反戦歌として話題になりました。

『To the Faithful Departed』は、そんな大ヒットに続く作品で、ブルース・フェアバーンをプロデューサーに迎えて制作されましたが、前作を超えるヒットには至りませんでした。この時期、バンドが過渡期を迎えていたということも、原因だったかもしれません。さらに、ドロレスが過労で倒れ、ドクターストップによって、ツアー中断という事態に陥ったのです。結局彼女は約1年半の休養を取ることになりました。この時の経験は、その後のドロレスのライフスタイルに大きな影響を与えたと彼女自身が語っていました。

2003年、ドロレスは、クランベリーズを離れることになります。その後ソロとして活動、しかし2009年にはバンドとしての活動を再開します。2012年、11年振り6枚目のアルバム『Roses』をリリース。そして2018年、新作レコーディングのため、ロンドンに滞在していたドロレスは、ホテルの浴室で急性アルコール中毒による泥酔で溺死するという悲劇を迎えてしまうのです。

実は、2007年、ソロ・アルバム『Are You Listening?』のプロモーションのために来日したドロレスにインタビューしました。クランベリーズ脱退から4年、8年振りに来日した彼女は、脱退について、このように話をしていました。

「脱退の大きな理由は、プライベートなことだったの。メンバーそれぞれ大人になって、子供も生まれ、歳を重ねるごとに色々な出来事が巡ってくるでしょ? 私は、義母が癌になり、彼女の治療に寄り添っていたくてカナダに移住したんです。だからメンバーには、この先どうなるかわからないから、私のことは気にしないで、グループとして先に進んでいって、と伝えたの。義母は亡くなってしまいましたが、その時に人生は脆いんだって思った。だから私はバンドに戻らずに、家族と共に過ごすことに決めたの。この4年間、音楽はプライオリティではなく、趣味の域だった。バンドの時は、契約上、アルバムを作らなくてはというプレッシャーがあったけど、今は自由になり、開放感の中で作ることができて、このソロ・アルバムは初めて音楽がセラピーになった作品なの」

クランベリーズのツアー中にドクターストップがかかり、1年半休養したことについては、

「これはとても教訓になったわ。病気になっても、契約でがんじがらめになってしたことが、余計ストレスになってしまった。だから、これからは先のことは考えずに、1日1日を見つめながら生きていきたい」

この来日の時は、4児の母(15歳、9歳、6歳、2歳)となっていました。そして、音楽もプライベートも充実していたように見えました。15歳の長男(義理の息子)と9歳の次男はギターに夢中。長男をソロ・ツアーに帯同させ、バイトをしてもらうと。母親の仕事の裏で働く人たちの苦労を知って欲しいと話していました。9歳の長女は、まだ母親の歌には興味はないようで、『ハイスクール・ミュージカル』に夢中で、何度も何度も一緒に観ることになっている、と楽しそうに話をしてくれていたのを覚えています。

子供が寝付いてからの一人の時間に曲を書いたり、昼間海辺を歩きながらインスピレーションが沸いてきたり、日常の中で生まれた楽曲がソロ・アルバムに詰まっていて、「Ordinary Day」「Human Spirit」は、そんな環境の中で生まれた楽曲とのことでした。

ドロレスは、2014年に離婚するのですが、何よりも家族を大切にしてきた彼女が、再びバンドに戻ることで、何か大きなプレッシャーを背負ってしまったのでしょうか? 離婚でアルコール量が増えたという記事も見ました。自由、開放感が彼女のクリエイティヴな世界を維持してきたとしたら、何が彼女を追い詰めることになってしまったのでしょうか?今となっては闇の中ですが、クランベリーズ、ソロで残した唯一無二の歌声が、これからも多くの人の耳に届けられることを祈って!

Written By 今泉圭姫子

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